ルック・湊(ルク主)
浴衣
夏ももう終わっているというのに、そして一旦涼しくなったかと思ったのに、今、ここは暑かった。
「んだよ、トランより北にあるくせに、なんでこんな暑いんだよ。」
「とりあえず君が暑苦しいから、消えて。」
シーナに目の前で汗だらだらされてもうっとおしいだけだから、とルックはそっけない。
「あらー冷たいねールッくんたら。ここにいるのが俺じゃなくて湊だったら、それこそ全身びしょ濡れに汗かいてても喜んでるくせによー。」
シーナはそう言った後、一瞬間があり、シーナもルックも固まった。
全身、びしょ濡れの、湊。
しばしその場はシーンとなる。
「ちょ、破壊力、パねぇっ。やべ、俺女専門なのにっ。」
「シーナ、君、もうほんと死ねば・・・?ていうか、死んで。」
「ちょ、すでに手が光ってる!暑いけどもっ!暑いけどそんな暴力的な風ならいらねえっ。んだよールックだって今、想像して、ヤバイと思っただろ?」
「うるさい、この放蕩バカ息子っ。いい加減に・・・」
「どしたのー?2人してっ。」
そこに湊の声がして、2人ともぴたり、と動きを留めた。
「?ほんとどうしたの??」
「ああー、いや、なんもしねえよー?なぁ、ルック。」
「・・・ああ。」
ルックを見れば、なんか顔そらしてるし。これ、絶対さっき、俺が想像したような湊想像して、本人目の前にして照れてるよな?
ほんとツンデレッ子だぜ、とシーナはおもわずニヤニヤとしてから、湊に言った。
「暑いな、って言ってたんだよ。なんかトランより暑い気がするぜ、最近のここいらは。」
「あー確かにもう夏も終わってるのに暑いねえ。・・・そうだ!今晩、皆で夕涼みでもしない?湖側で、少ぅしだけライトアップしてね、パーとやろうよ!」
湊がニコニコと言った。ルックが口を開く。
「湖側でライトアップって・・・向こう岸の王国軍にバレバレじゃ・・・」
「向こう岸って言っても、だいぶ遠いし・・・多分、向こうじゃ戴冠式やらなんやらできっとバタバタしてるよ・・・。」
湊が少しだけ困ったような痛むような顔をして言った。
パーッとしたほうがいいのは湊かもしれないなと、ルックは思った。
「ああ・・・。・・・じゃあ、別にいいんじゃない・・・?」
「うんっ。じゃあ僕、さっそくシュウさんに言ってくるよ!」
たとえ戦時中であっても、対岸には王国軍がいたとしても。所詮軍師も軍主に甘かった。
そして案外祭り好きなものが多いようで、我も我も、と参加人数が増え、そのおかげで準備もあっという間に出来た。
「それにしても湊はどうしたんだ?」
そろそろ始めようか、となった時にフリックが言った。
ルックも気になっていた。湊がいないんじゃあ、こんなばか騒ぎなところ、用はないんだが。
皆も気になっているようでキョロキョロ、ざわざわとしている。
「ああ、湊どのなら・・・多分着なれないので手間取っているんだろう。・・・俺が手伝ってあげるのに・・・。」
シュウが言った。最後にボソリ、と言ったセリフは多分聞こえたのは近くにいたルックと腐れ縁くらいであろう。ビクトールはともかく、フリックは呆れたように笑い、ルックはといえばその視線で涼めるどころか凍る、と言いたくなるような視線を軍師に向けた。
「て、着なれない?なにがだあ?」
ビクトールが聞き直している時に、湊の、「遅くなってごめんなさいっ」と言う声が聞こえた。
声が聞こえたほうに、視線を向けた面々がギシッ、と固まる。
そんな反応を皮肉そうな顔で面白そうに見ながら、シュウは湊に言った。
「やはり、お似合いですよ。」
白地に紺色の唐草模様。そして同じ紺色の帯がキュっと湊の腰を細く魅せている。皆は沈黙し、そんな湊の姿を見つめていた。どこかでコクリ、と喉の鳴る音がする。
「お?いいじゃねぇか!タイ・ホーらとおそろい、かぁ?」
相変わらずのビクトールのみが、呑気に湊に話しかける。その周りでは、“シュウが選んだのか・・・?あいつ、絶対変態軍師だよな?”などと思いながらも湊から目が離せない。
「だれが変態軍師だ。変な扱いはやめてもらおう。」
誰かの心の声がそのまま外に出ていたようで、シュウが片眉をあげて言った。
「だ、だがあれ、女物だろう・・・?」
フリックが唖然としながら言った。
「違う。誰がわざわざ湊どのに女物を。」
一同が湊を改めて見る。湊はそんな皆の様子にとまどっている様子である。
浴衣だけを見れば、色合いにしても柄にしても、男物に見えるのだが・・・なぜかどうみても女物に見える。
「ああ、それはですね。」
そこに着付けを手伝っていたヨシノがやってきた。フリード・Yの奥さんであって、いつもキチンと着物と袴をきこなしている彼女は、戦い以外でも、家事全般が得意なようで、よく城の中でも洗濯やら裁縫などの家事をも自ら引き受けていた。
「ちょ、言わないでっ・・・」
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ