ルック・湊(ルク主)
英雄
リザートとカラヤからの援軍はまだ到達していないまま、ハルモニアの兵隊は到着してしまっていた。
宿屋を出たところでアップルとその連れらしい赤毛の青年、そしてこの村の長らしい年配の女性、それにヒューゴ達が集まって話をしているところについ湊と詩遠は出くわしてしまった。
眠い眠いと言っている湊と、それに気を取られたままの詩遠は何も考えずに宿の外に出たら彼らが立っていた訳である。
「・・・え・・・?湊さん!?詩遠さん!?」
「あっ!湊さん達!」
アップルとヒューゴの声がダブった。
「あー・・・どうやらなんかあったみたい、ですねー?間の悪い時に出てきちゃった?僕ら。」
「んー、かも、ね?」
驚いているアップルの横で赤毛が“誰?”と聞いている。アップルはそれには答えないまま2人に聞いてきた。
「こんなところでいったい・・・?」
「あー、観光旅行。」
湊がニッコリと言うと、なんとも微妙な表情をされた。それには何もつっこまず詩遠が逆に聞く。
「なんかものものしい雰囲気だけど、何かあった?」
「ええ。ハルモニアが兵隊をつれてここに。」
「そうなんだ!?あらー。」
湊の軽い調子に、ヒューゴ達はポカン、とする。赤毛が言った。
「と、とりあえず知らせじゃあ、本隊はあと半日ってとこまで来てるんだが・・・どうにか時間をかせぐ方法を・・・そうだ、ヒューゴ、お前英雄になってみないか?」
「え!?」
赤毛曰く、ハルモニアは炎の英雄を探す名目でここにやってきている為、こちらから出て行けば向こうも対応せざるを得ないはずだ、と。とりあえず時間さえかせげたら良いからここは炎の英雄に一番背格好が合ってそうなヒューゴに演技してもらいたい、とのこと。
「シーザーだって似たようなもんじゃん。」
「俺は柄じゃないよ。あー・・・そこの背の小さい方の彼も合ってそうだけどね。どう?アンタやってみる?」
シーザーと呼ばれた赤毛が湊の方を向いて聞いてきた。
「む。背は余計だよ!君だって小さいじゃん!・・・んーヒューゴくんあまりやりたくなさげだし、ホントだったらやってあげてもいいんだけど・・・でもダメ。」
「なんで?」
「だって僕、向こうに顔、知られてるかもだもん。だったら炎の英雄じゃないってすぐにバレるじゃん。」
「は?アンタ、お尋ね者かなんかか?」
「違うよー失礼な!」
そこにアップルがため息をついてシーザーに言った。
「彼はその・・・ハルモニアと色んな意味でやりとりのあるデュナン国の関係者だから・・・。でもあなた達がここにいるっていうのは気持ちの上で安心できるわ。まあ戦いになった場合に協力して、とは言えないけど・・・。」
そう答えたアップルにシーザーは首を傾げている。湊はアップルに言った。
「うんー・・・僕らも協力してあげたいのは山々だけど、やっぱあまり表だっては出れないや、ごめんね?」
そんな話をしている間に村の外ではハルモニアの兵を引き連れたササライ神官将とお付きでもある、やたら鼻に特徴のあるディオスという名前の男が留まっていた。
「ササライ様、本日はこのチシャの村を落としてみせましょう。」
「これで、この地方一帯の捜索は終わるんだな。やっとクリスタルバレーに報告を持って帰れるか・・・」
ササライはホッとしたように微笑みつつ言った。だが次の瞬間前に目を見据え、“ディオス、あれは?”と聞いた。
ディオスも前を見ると、何やら肌の色の黒い少年がこちらにやってきていた。ディオスがその少年に聞いた。
「どうしたんだい?観念して降伏することにしたのかい?」
だがその少年は困ったような表情をして黙っている。
「だんまりかい?それなら、それでもいいが無理やりでも中に入って、炎の運び手の捜索をさせてもらうよ。」
「・・・そ、その必要はない。俺が炎の英雄だ。」
「は?どういう意味だ?」
そこにシーザーとアップルがやってくる。
「言ったままさ。こいつがあんたらの探している“炎の運び手”の首領、炎の英雄だってことさ。」
シーザーがそう言った後にアップルが口を開いた。
「50年前に彼とハルモニア本国との間で結ばれた秘密の約束を守ってもらいたい。ハルモニアとグラスランドの間の不可侵の約束を!」
横でシーザーが“アップルさん、ホントにそんな密約なんてあったのー?”と聞いている。
「あったはずよ。私の研究に間違いなければ。今までずっとハルモニアは何もしてこなかったでしょう?これは密約があったからよ。ハルモニアではよく使う手だわ。密約を交わしておきながら、表面上は我関せずという顔をしてみせる。」
アップルがそう答えている間に、ハルモニア側ではササライがディオスに言っている。
「炎の英雄との密約はあったが、既に期限が切れていると聞いていたが・・・。」
それからヒューゴ側を見て言った。
「なるほど。君達の言いたい事は分かった。ハルモニアと炎の英雄の間に不可侵の密約があった事は認めよう。だがその前にその少年が炎の英雄であるという証拠を見せてくれないか。」
そう言われ、ヒューゴ達は口をつぐむ。
「どうしたのかな?見せられないのかい?」
相変わらずブドウ畑でその様子をうかがっていた湊と詩遠。湊が言った。
「なんていうか・・・あんなに穏やかそうなのに黒いイメージが消えないのは統一戦争の時の彼のセリフのせいですかねぇ。」
「それは俺は知らないけど・・・ていうかそこなの?気になるのは。」
「あ、いえ・・・。彼、当時から見た目が全然変わってません。相変わらず少年のまま・・・そして・・・やっぱりルックになんかそっくり・・・。前の時はじっくり近くで見れなかったから似てるなぁくらいしか思ってなかったけど・・・。」
「・・・だねぇ。」
「もしかして・・・ルックと血のつながりでもあるのかな・・・?ルックは何も言ってなかったし言ってくれなかったけど・・・。そして・・・彼もうまく隠してるから分からないですけどあの変わらない見た目じゃあ・・・。」
「ん。真の紋章、もってそうだねぇ。」
その時ヒューゴが口を開いた。
「なら証明してみせる。そちらの部隊の誰でも良い、一騎打ちでかかって来るがいいさ!」
「お、おい、ヒューゴ・・・。」
シーザーが心配そうに言った。ヒューゴは少しニコリ、として答える。
「大丈夫。任せてくれ。要するに時間さえ、かければいいんだろう?」
それを見ていた湊が詩遠に言った。
「おお、ヒューゴくん、男だ!」
「ふふ。本人に言ってあげるときっと喜ぶよ?」
「?そうなんですか?あ、ササライが鼻の人にやるかどうか聞いてるー。」
「鼻の人、ね・・・。」
ササライがディオスにやってみるかと聞くと、ディオスは首を振った。
「わ、わたくしの剣は飾り物でして、はい、この剣にも刃はありませんし・・・。」
「そうか・・・なら、仕方ないね。」
それを聞いた湊はびっくりして言った。
「えええ、軍隊として来てる軍人さんの剣に刃がないって!しかもササライ、仕方ない、で終わらせるんだ!うわーササライって奥深い!っていうか、何考えてるかルック以上に分かんなぃ。」
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ