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B.R.C 第一章(2) 奪われた神具

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#19.襲撃【R】



 作戦開始の命が下った。
 禁踏区を囲んでいた王属特務幹部六人は、それに応じて一斉に高く聳える白い壁を超えた。
 正面の扉からは雲の守護者、雲雀恭弥が。
 その真裏からは嵐の守護者、獄寺隼人が。
 そして、正面の扉の右から雨の守護者、山本武と、雷の守護者、ランボが、左から霧の守護者、六道骸と、晴の守護者、笹川了平が降り立つ。
 それぞれが扉や高い位置に在る窓から飛び込むと同時に、六道の幻術が解ける。彼の操る幻術によって姿を隠されていた幹部達。それが解かれれば、禁踏区に潜んでいた虚たちにとっては突如現れた侵入者として映る。
 白い壁一つ越えれば、そこは話に聞いていた通りの、虚の巣窟。
 目の前には、虚たちがわらわらと散っている。

『な、なんだテメェらっ!!』
『死神か?!』

 比較的、この場に居る虚たちは知識が高いようだ。人の言葉を話し、理解し、考える力もあるのだろう。
 それぞれ違う場所で虚たちと向き合っている六人だが、彼らを前にした虚たちは皆揃って驚き、慌てて戦闘態勢に入る。白い仮面からは動揺を見て取ることは出来ないが、酷く不安定な霊圧までは隠せない。

「残念。ハズレなのな」

 あちらこちらで同じように死神か否かを問う虚の声が飛ぶが、それに応えたのは、六人の中で山本ただ一人。
 王属特務は死神ではない。同僚に一人と、彼の部下にも何人か尸魂界から上がってきた死神が居るが、王属特務の多くは霊界生まれの、代々霊王に仕えて来た者たちだ。山本も、霊王仕えの者の血縁者だ。武器こそ死神と同じ刀だが、死神ではない。

『一人で何が出来る!』

 動揺が収まり始めれば、虚たちにとって目の前の強大な霊圧を持つ者たちは、絶好の餌に過ぎない。
 虚たちは数に物を言わせて、一斉に飛びかかった。
 しかし、彼らの数など、山本たちにとってみれば、まったく関係のないことだった。
 死神の力を持つ日番谷を除き、山本達には特別な兵器がある。
 霊界で開発された、匣兵器だ。
 一見、穴の開いた手の平サイズの四角い匣。しかし、そこに指輪を嵌めこみ、それを通して力を流し込めば、その匣は武器へと姿を変える。

「行くぜ、小次郎、次郎」

 山本の持つ雨の匣から燕と犬が飛び出す。

「形態変化(カンピオ・フォルマ)」

 そして、山本が唱える。匣から飛び出した燕は、彼の持つ刀と合体して長刀となり、犬は小刀を三本所持している。これが、彼の匣兵器だ。
 雨の力を纏わせて、その威力は跳ね上がる。
 一振りで、一体何体の虚が断末魔もなく消えただろうか。

『山本くん、聞こえるかい?』

 ジジジ、と嫌な音の後に聞こえて来た声。入江のものだ。

「おう。侵入は成功したぜ。他の皆はどうだ?」
『彼らも上手くやってるよ。雲雀くんには、もう少し力を抑えて欲しいけどね……このままじゃ、建物が崩壊しちゃうよ……うぅ……』

 最後の方はうめき声だった。また、腹痛だろうか。彼はちょっとしたストレスですぐに腹が痛くなるのだ。

『と、とにかく、君と獄寺くんは孫条寺克吉の確保を最優先だからね。忘れないでくれよ』
「わかってるって。でも、まずは獄寺と落ち合わねぇと」
『ああ。獄寺くんのナビゲーターをスパナが、君のナビゲーターは僕がするから。今から言う通りに走ってくれるかい?』

 おう、と返せば、まずは右に真っすぐ、と返って来る。
 入江達は、潜入時に六道の部下が作った地図を機械に取り込み、幹部たちの指輪を発信機として、モニターで彼らの現在地を確認しながら最奥へと導いてくれるはずだ。山本は言われるがままに道を行く。
 途中、ランボの悲鳴が聞こえてきたり、雲雀の匣兵器であるハリネズミが巨大化して破壊した壁に押しつぶされそうになりながら、山本は走った。

『そこを左に行って、二つ目の角に階段がある。獄寺くんはそこから下りて来るはずだよ』
「オッケー、左な」

 破壊音をBGMに走り続けていた山本は、入江に指示されたところでようやくその足を止めた。体力に自信のある彼は、走り続けたというのに息一つ乱れていない。
 待つ事数分、大きな爆発音の後、階段の上から銀髪が降って来た。獄寺だ。彼に続いて、獄寺の匣兵器である猫、瓜が華麗に着地した。

「派手にやってんのな」
「うるせぇ、能天気野郎! さっさと行くぞ!」

 ヒュウと口を鳴らしたら怒鳴られた。
 彼からの返答はいつも怒声なので、今更気にする山本ではない。
 先を走る獄寺を、山本は追った。
 入江からの通信は途絶えている。孫条寺の居るであろう所へのナビゲーターをスパナに任せ、彼は今、他の幹部達のサポートに回っているのだろう。

「おや、まだこんな所に居たんですか? さっさと逃亡者を捕まえて下さいよ。僕は早く帰りたいんです」

 いくらか走って虚に行き当たったと思ったら、その仮面を三叉槍が貫いた。黒い霊子となって消えて行った虚の向こうに佇んでいた六道が、オッドアイに呆れの色を滲ませて二人を見遣る。
 見下すような言葉に獄寺が瞬時に腹を立てて噛みつこうとするのを、山本がその背を押して無理矢理に連れて行く。

「まぁまぁ。急ぐんだろ? 早く行こうぜ」
「指図すんじゃねぇ!!」

 ガウ、と吠える獄寺も、今は任務を優先にすべきであるとわかってはいるのだ。歯噛みしながらも、山本の言う通り、駆ける足を速める。
 地下へと続く階段。これを降り切れば、そこは孫条寺が潜んでいると思われる清浄塔居林だ。

「ヴァストローデも居るんだっけ?」
「油断すんじゃねぇぞ。足引っ張られんのは御免だからな!」
「おう。獄寺も気を付けろよ」
「てめぇは人の心配より自分の心配をしてやがれ!」

 残り十数段の階段を一気に飛び降りて、獄寺と山本は、孫条寺の隠れ家へと踏み込んだ。
 と、同時に、彼らに付き従っていた匣兵器たちが飛び出す。

「喰らえ!」

 続いて、獄寺の匣兵器「SISTEMA C.A.I(システーマ・シー・エー・アイ)」が火を噴いた。
 彼の腕に巻きつく骨と、手の甲に沿った髑髏が特徴的な武器は遠距離攻撃型だ。髑髏の口にセットされたダイナマイトが、口を絞ると同時にエネルギーが集束され、一気に放たれる。拡散したそれは、彼らを囲うようにして襲ってきた虚の大半を撃ち落とした。
 轟音が響き渡る。