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B.R.C 第一章(2) 奪われた神具

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#18.急変【BR】



 事態は、一変する。

「―――――っ?!」

 最初に異変に気付いたのは日番谷だった。
 はっとした表情で、部屋に開けられた大きな壁穴を見やり、慌てた様子で駆け寄った。
 次いで、沢田。
 彼に遅れること数秒。不穏な空気の乱れを察知する。
 そして、総隊長が閉じて居た目を開き、隊長たちが沢田と共に日番谷を追う。

「お、おい、どうしたんだ?!」
「こいつは……っ!!」
「何が起こっておるのだ?!」

 状況を把握出来て居ない一護の左右で、阿散井とルキアが揃って目を剥いた。

「京楽! 浮竹! 手伝ってくれ!」
「ああ!」
「急がないとヤバイね、こいつは」

 日番谷が壁穴から飛び出し、それを浮竹と京楽が追った。
 その頃には、一護にも異変を感じ取ることが出来るようになっていた。

「な、何だってんだ、この力は……っ」

 壁穴から頭を出せば、風が強さを増し、渦巻くように流れて行く。その行く先は、中央四十六室が住む禁踏区。

「ふわぁ、えらい事になりそうやなぁ」
「ああ。これは、危険な状況だ……」
「市丸隊長、藍染隊長! これは一体―――」

 檜佐木の焦った声音に返したのは、雛森だった。

「日番谷くんの結界が、割れちゃう……っ!」

 禁踏区を覆う、透き通った淡いオレンジの半球。
 中で行われているはずの、王属特務幹部と虚たちの戦闘。幹部の者たちが力を解放した際に、その加減知らずの膨大な力が死神や瀞霊廷に住む貴族達に影響を与えないようにと日番谷が張った結界だ。その結界がどれほどの物かはわからないが、王属特務幹部六人の力が外に漏れないように抑え込んでいるのだから、相当の強度を誇っているはず。その結界に、幾筋かの罅が走っているのを遠目にも確認することが出来た。
 浮竹らを従えて姿を消した日番谷は、恐らく結界の補強に向かったのだろう。あの二人は隊長の中でも特に鬼道に優れている。

「これは……この力は……っ?!」

 沢田は結界の隙間から漏れ出る力を感じ取って、目を見開く。
 仲間のものとは違う、身に覚えのない強大な霊圧。
 何が起こっている―――?
 す、と沢田の大きな目が半分程に細められた瞬間、その額に、オレンジの炎が灯る。

「総隊長、死神や瀞霊廷の人々の避難を。巻き込まれるかもしれない」
「はっ」

 杖をついて立つ元柳斎に、「頼む」と残して、沢田は両手に力を集める。
 両手を包むようにして生まれた炎。それがいっそう大きく燃え上がったかと思うと沢田の身体が浮き上がり、ドンっ、と衝撃を残して飛び去った。瞬歩程ではないものの、その速さは相当だ。
 見る見る「零」を背負う背中が遠くなって行く。

「副隊長は各隊の隊士を隊舎に集めよ! 事が治まるまで決して解くこと無く、上位席官複数人による上位結界を張る! 十三番隊第三席には朽木ルキアが報告を! 住民の避難は、四番隊卯ノ花に任せ、他隊首は皆禁踏区へ向かう!」
「はっ!」
「はいっ!」
「了解いたしました」
「行くぞっ!」

 元柳斎の合図で、死神達は一斉に瞬歩で散った。
 一護は逡巡した結果、隊長らについて行く事に決めた。
 瞬歩を連用する事数回、足を止めた元柳斎たちに倣って立ち止まる。目の前には一番隊隊舎から見た半球状の結界があり、鬼道で補強を行う日番谷の背がある。そして、三角形を描くような位置に、京楽と浮竹も居た。
 彼らのおかげで結界は崩壊することなくその場に在る。しかし、内に溢れる力は強くなる一方なのか、日番谷たちが歯を食いしばりながら支えているものの、結界に走る罅は少しずつ広がって行く。

「くそ……っ、維持するのがやっとか……っ!」
「日番谷、結界を抜けられるか? 中の様子が気になる」

 上空から沢田の声が降る。

「わかりました、道を開きます。藍染! ここを代わってくれ!」

 沢田の声に頷き、日番谷は後ろを振り返ることなく藍染を呼んだ。

「縛道の九十三だ」
「空裏圏蓋(くうりけんがい)だね。少し、手が加わっているようだけど」
「それは俺が調節するから気にしなくていい。俺は反対側へ行く。結界の一部を開いて統括を中に入れた後、それを塞いで、そのまま俺も加わる」

 頷き、藍染は日番谷と立位置を入れ換わった。
 隊長格が四人、それも一人は王属特務とは大掛かりだ。それだけ、中で溢れている力は強大だと言うこと。
 日番谷は藍染にその場を任せ、

「氷輪丸!」

 己が斬魄刀の名を呼んだ。
 解号もなく、呼ばれたのはその名だけだというのに、氷輪丸は応えた。しかし、それは始解とは違う。
 背負われた氷輪丸が白く輝き、その姿を刀から龍へと変えた。死神は、これを具象化と言う。しかし、こうも容易く斬魄刀の本体を呼び出す様は、隊長格にしても異様な光景だった。
 日番谷の背に掴まれるほど小柄であった氷龍は、その身を宙へと踊らせると、見る見るうちに巨大化し、狛村を一回り超えたところで止まった。見上げる程の巨体と嵌めこまれた紅蓮の瞳は荘厳。
 神々しい氷龍の一睨みで、無意識に後ろに下がりそうになる脚に、一護は驚く。
 目を見張る彼の目の前で、氷龍は紅蓮の瞳を日番谷へと向け、まるで跪くかのようにゆっくりと頭を垂れた。場違いにも、その様を美しいと思う。
 日番谷は氷龍の眉間から鼻頭までを一撫でして、その背に飛び乗った。主人を乗せた氷龍は氷の羽根を揺らして空へと踊り上がり、藍染の対角線上に当たる場所へと向かって飛んでいく。その後ろを、沢田が追った。
 一直線に飛んだおかげで、数分と経たずに反対側へ回り込んだ日番谷と沢田。
 日番谷は、氷輪丸が地面に足をつけるよりも先に彼の背から飛び降り、結界の一角へと手を翳す。

「統括、開けるのは一瞬です」

 あまり長い時間開いていては、そこから結界が崩壊する可能性がある。
 日番谷の言葉に、沢田は頷いた。
 深呼吸を二つ。日番谷は掌に霊力を集中させた。
 結界の一定の範囲にゆっくりと霊力を混ぜ合わせ、支配下に置く。元々日番谷が張った結界だ。結界に日番谷の力が馴染むまでに然程時間はかからなかった。

「行くぜ!」

 翳した掌を、左右へ開く。それに引かれるようにして、結界に人一人通れるほどの隙間が生じた。
 その瞬間を、沢田は逃さなかった。
 沢田がわずかな隙間に飛び込んですぐに、日番谷は開いた腕を素早く戻す。そして、すぐに結界に霊力を注いだ。
 藍染も加わってより強力になった結界。しかし、パキン、パキン、と何処からか結界が割れて行く音が聞こえてくる。

「力が、増大してやがるのか……」

 これ以上強くなれば、いくら王属特務幹部が張り、補助に護廷十三隊の隊長が三人がついているとは言え、保ちそうにない。
 日番谷は結界を任されており、動けない。
 後は、中に居る王属特務幹部と、彼らの元へ向かった統括に任せるしかなかった。


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※縛道は創作です。原作には出てきません。
更木が大人しい(笑)