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Prayer -祈り-

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7.戸惑い



それから、ふたりの関係が劇的によくなったかというと、そういう訳ではなかった。

なにしろ元から寮自体がライバルとして敵対していたスリザリンとグリフィンドールは、なにもかもが正反対で、ふたつの寮を結ぶ接点など皆無だと言っていい。
寮同士の親睦を図るためのパーティーや、ミーティングや会合も、今まで一度だって持ったことがなかったぐらいだ。
しかもお互いの寮の入り口すら分かっていない。
グリフィンドール寮は屋上に近い部分にあり、スリザリン寮は地下にあるというぐらいしか知らないほど、お互いの寮のことに無関心だ。
このことひとつを取っても、どれだけふたつの寮の仲が悪いのかがよく分かる。

校内は広く、めったに出会うことすらなくて、唯一相手の顔を見ることが出来るのは大広間での食事時間ぐらいしかない。
目をころして、スリザリンのテーブルを探しても、別の二つの寮生のテーブルが間に挟まって、スリザリンとグリフィンドールは両端に離れて座っていたので、相手のテーブルは遥か遠くにあり、よく相手が分からず、ただでさえ近眼のハリーは探すのを諦めなければならなかった。

それに不思議なもので、忌み嫌っていたときは出会いたくなくても、渡り廊下や、教室移動、放課後にも、よく鉢合わせをしたというのに、今ではさっぱり顔を合わすことがない。
寮の前で待ち伏せしようにも入り口は分からないし、大広間での食事も遠くて無理だし、校内での偶然の出会いすらなくて、八方塞りの気分だった。
廊下をため息混じりに歩いていると、肩を並べたロンが「どうしたんだ、ハリー?」と声をかけてくるほど、浮かない顔をしていたのかもしれない。

……別に顔を突き合わせて、長々と喋りたい訳ではなかった。
(ただ、「あれから背中の調子はどう?」とか、気軽にちょっと話をしたかっただけなんだどな)
などとハリーは小さく呟いた。

……別に大げさな話ではなくて、ただ普通に話したかった。
ただそれだけなんだ。



あの日曜日から1日が過ぎ、2日が過ぎたあと、やっとドラコがボディーガードみたいな例のふたりを引き連れて、廊下をコチラに向かって歩いているのを見つけることができた。
コツコツという歯切れのいい靴音はドラコのもので、ほかのふたりはバタバタやドタドタという大きくて落ち着きのない靴音が近づいてくる。
彼らはかなり遠くに離れていたので、ここに自分がいるのにはまだ気付いていない。

途端になんとなくハリーはソワソワと、落ち着かない気分になってきた。
こちらから歩いて近づいてみようかと数歩歩いては止まり、いや待てよ、曲がり角で偶然に鉢合わせのほうが自然じゃなかと思い直し、曲がり角の向こう側に体を隠したりして、全く変な行動をとってしまう。

曲がって隠れた場所で、意味もなくなんだか赤くなったり、青くなったり、顔色をコロコロ変えて、「やあ、背中の調子はどう?」という言葉を、何度も呟いてシミュレーションを繰り返した。
(自然に、自然に)とか、(さりげない調子で)などと、自分自身に言い聞かせたりする。
深呼吸をして、額に浮かんだ汗を拭って、眼鏡をずり上げた。
服のシワを伸ばし、自然な笑顔(彼にしたら)を顔面に貼り付けて、用意万端に整えても、彼らは一向にやってこない。
いくら歩くのが遅くても、もうとっくにこの場所にやってきてもいい頃合なのに、全く姿が見えなくてハリーは不安になり、そっと顔を壁から出してみた。

確かに彼らはハリーが待ち受ける曲がり角のずっと先にいて、まだ廊下の真ん中に立ち止まっていた。
ハリーが隠れたあと、数歩も動いていないみたいだ。
(いったい動かずに何をしているんだろう?)
ハリーは彼らをよく見ようと目を細める。

どうやら仲間のひとりのゴイルがひざを折り、ドラコの足元に屈みこんで俯き、何かゴソゴソとしているようだ。
見ると彼がドラコのほどけた靴紐を丁寧に結んでいる様子だ。
そんなことは自分で出来るはずなのに、あえてドラコは自分でそれをしようとはしていなかった。
人前で膝を折るという行為事態が彼のプライドが許さないのかもしれない。
細身の彼は当たり前のように靴先を差し出して立ち、級友を従者のように巨体をかしずかせる姿はまるで、傲慢な支配者のようだ。

ハリーは愕然として絶句する。
王様のように威張り腐ったような態度のドラコを見て、ハリーは自分の中の湧き上がってきた感情がしぼんでいくのが分かった。

何を夢みていたんだろう?
元からそうだった。
彼は鼻持ちならないほどの階級主義者で、純血をひけらかして、威張りくさっていた相手じゃないか。
ドラコは元からそういう性格だった。

たまたまあの日だけ特別、機嫌がよかったに違いない。
お互いに顔すら見るのが嫌いで、側に近寄ってほしくもない相手が、自分に向かって友人のように笑いかけてきて、ひどく驚いてしまった。
肩の力を抜き、草に寝転がって、自分の昔話をハリーに語り聞かせた。

──まるで友達に話しかけるように、自然な姿で。

そうして過ごした数時間はことのほか楽しかった。
彼が普通に笑ったりするのですら新鮮だった。
なぜか彼は絶対に笑わないと思い込んでいたからだ。
彼が話すと、面白くて自分も笑ってばかりいた。
腹を抱える自分を見て、彼は照れた顔もした。
何もかもが目新しかった。
昨日まで見えなかったものが、いきなり見えたようで、嬉しかったのかもしれない。

(毎日は変化していて、こんな風にちょっとしたことで、上下が一変にひっくり返るほど変化するなら、もしかしたら、明日は思いもよらないことがまっていて、この世界も悪くないかもしれないよな……)
そうハリーは思っていた。

それなのに──―

自分の勝手な思い込みだ。
ハリーは「ふぅー……」とため息をつくと、無言でその場所から歩き去ってしまったのだった。


■続く■
作品名:Prayer -祈り- 作家名:sabure