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みとなんこ@紺
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GOD BLESS YOU

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2.




 ふ、と外に目をやった。
 時間の割には日はだいぶ弱くなっている。季節の変わり目をそんな事でようやく認識した。
 手にした書類から更に視線を落とせば、廊下に長く伸びた影が見えた。
 一定の調子で刻む軍靴の音。通路には人影は少ない。
 少し後ろに一定の間隔を置いて、付いてくるもう一つの音。
「・・・以前仰有られていた件ですが」
 人影が切れた時に、小さく声が振られた。
「やはり素性は掴めませんでした。経歴もなにも出てきていません。少なくとも中央の人間ではないようですね」
「あいつの女運はどうなっているんだ…」
 ぼやいても始まらないが、思わず大きく息をついてしまった。まぁある程度予想していた事ではあるが。
「何処の所属かも?」
「わかりません。本当に何も出て来ませんでした」
「やっかいだな…」
 だが、今は立てこんできたためにあまり会えていない状態らしい。ここしばらくずっと惚気だか愚痴だか知らないが、ぼやいているのを聞かされてきているからそれは判る。
「何処とも無関係という選択肢はないのですか?」
「タイミングが良すぎる。本人を見ていないから何とも言えんが、嫌な感じがするな」
「大佐の勘は当たりますからね」
 嫌な時ほど。
 微妙に人聞きの悪い一言に、彼は軽く肩を竦めるだけで流した。すれ違い様の下士官からの敬礼をいなしつつ、彼は一つ息をつく。
「あいつの事だから下手な事は言ってないだろうが」
 というか、舞い上がってキレイに忘れているんだろうと言った方が正しい気がしなくもないが。
 つまりは取りあえず現状ではどうしようもない、という事だ。
「引き続き探ってくれ。せめて何処からのちょっかいなのかくらい判っていないと気分が悪い」
「判りました」
 それだけ言って書類に視線を戻す。
 顔を寄せて書面を指で辿りながら真面目な顔で口を開けば、端から見れば部下と立ち話をしながら何かの打ち合わせをしているようにしか見えないだろう。
 実際打ち合わせをしているのだが、内容は通常の業務からはほど遠い。
「君は夜勤だったな?」
「ええ、この後あがります。…何か伝言はありますか?」
「そろそろ動く、とほのめかしておいてくれ。だから無駄に暴れるな、と」
 了解しました。中尉は小さく笑って返した。
「アレは君の言う事なら聞くからなぁ。・・・ハボックとブレダは?」
「それぞれ先程戻ってきていました。食堂へ行くと伝言がありましたが」
「では私は取りあえずそこを捕まえに行くか。・・・私も今日は定時であがるかな」
「午前の書類の決裁は」
「済んでるよ。机に置いてきた」
「・・・・・・では提出してから出ます」
「何だねその不自然な沈黙は…」
「いえ、…少し慣れない流れでしたので…」
「君ね・・・」
 ここで一体どういう目で私を見てるのか、とでも言おうものなら何が返ってくるか知れたものじゃないので黙っておく。彼女の一撃は致命傷になりかねない程厳しいのが多いので。
ただささやかな抗議は深い深い溜め息で表してみた。



***



「――――で。人をこんな所に拉致っておいて何ですか、愚痴聞かせる為ですか」
「上司のメンタルケアに付き合うのも立派な仕事の一つだ」
 言い切ったよ。
 はぁ、と同時に深く、深く溜め息を付いた。
 午前・午後と外回りのごたごた片付けてきて、夕方になって帰ってきて漸く食堂で一息ついたと思ったら、『労働力の確保に』とか何とか言っている上司に速攻捕まった。
 そして何処へ連れて行かれるのかと思えば、そのまま執務室に山積みになっていた資料の片付けに駆り出され、なおかつ定時で逃げようとすれば、全開の笑顔と共にもう一言『付き合え』、と。
そして引きずられて今に至る。
「・・・俺たちが逃げるタイミング、何処で見失ったと思う?」
「最初だろ」
 ダメじゃん。




 連れてこられたのは、労働者層の多い街中のパブだ。以前から度々出入りしていたのか、店主は彼の顔を見るなり、一番奥の席に通した。入り口他、店内をくまなく見渡せる位置だ。
 店内はそこそこ賑わっている。それぞれのグループがそれなりに騒がしくしているため、周りには全く気を配っていない。多少声が大きくなっても、話を聞かれる心配もなさそうだ。無口そうな店主も最初に注文を聞きに来ただけで、酒とつまみを揃えるとさっさとカウンターに戻っていった。
 ・・・というか、これはあまり聞かれたくない話をするにはある種お誂え向きな感じではないだろうか。
 漸くここまで引っ張ってきた上司の意図が掴めた気がする。
「・・・さて、そろそろ諦めはついたか?」
 無駄に良い笑顔だ。こんな顔をしている時こそ、この人は怪しい。それを知っているから余計に何かダメージでかいんですけど。
 だが、伊達に何年も付き合ってきた訳じゃない。
 2人の視線が変わったのを見て取ると、彼は口元に不敵な笑みを浮かべた。


「――――いい加減待ってるのも飽きたし、釣りでもしようかと思ってな」


 不自然でない程度に辺りを窺うが、周りは誰もこちらに気を払っていない。
 裏の意を正確に汲み取って、ハボックはニヤリと口の端を上げた。
「良いッスね。いい加減落ち着いてきたし」
「…情報が少ない気がしないでもないですがね」
「そう、それが問題だ。我々はある程度の範囲から離れられないが為に全体の様子がわからん。だが近々それもある程度解消出来る」
「どっからですか?」
「今、中央にはあの兄弟がいる」
 表情は変わらず軽い笑みを浮かべてはいるが、僅かに細められた黒の瞳は笑っていない。
「前の中央での騒ぎ、あれは兄弟が関係していると少佐は言った。――――恐らく、ヒューズもだろう。…何処かで接触を持ちたいんだが、直接会うとなると目立つからな。だが、どんな些細な事だろうと構わん。今は情報が欲しい」
「あー・・・あいつらトラブル体質ですからねぇ」
 多分あっちこっちでまた巻き込み巻き込まれやって、何か知ってるのかもしれんでしょうけど・・・。
 銜えた煙草の先が少しばかり下がる。
「…巻き込む事になっちまいますかね」
 呟きは小さくその場に落ちた。

「・・・巻き込まれたのか、暴いたのか」

「え?」
「いや」
 何でもない、そういって彼は口を閉ざした。繰り返す気はないらしい。
 うまく拾えなかったが、少し間を置いて、それで良かったのだろうなと思い直した。
 何のかんの言って彼はあの兄弟をとても気に入っている。
 なるべく軍の面倒な裏事には関わり合いにならないように、度々手を回しているのも知っていた。
 ただ、どれだけ遠ざけようと、向こうから飛び込んでくるのまではどうしようもない。・・・たぶん、今回もそんな感じなんだろう。
 現在、事は一直線上に起こっている、と彼は言った。
 だったら、避けられないのだろう。
 あとは祈るだけだ。彼らが否定する、いや、拒絶する、形のない何かに。
作品名:GOD BLESS YOU 作家名:みとなんこ@紺