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二郎

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 高見沢一郎は、それはそれなりのサラリーマン。
 一日の仕事を終え、単身赴任のアパートへと帰ってきた。もちろん部屋には誰もいない。それでも高見沢は「今日の企画、もっとゴリ押しすべきだったかなあ……、おい、二郎、お前の意見は?」と声を上げ、冷蔵庫からビールを取り出した。そしてグビグビと飲み始める。

 単身赴任生活、楽しみと言えば、缶ビールを片手にテレビを観たりインターネットで遊んだりする程度のこと。当然充実感はない。
「あ~あ、何かもっと面白いことはないかなあ、だけど金もないしなあ」とすすけた天井に向かって独り吐く。そんな無味乾燥な日々が続いていた。

 だが、それは三ヶ月ほど前のことだった。二郎が高見沢の部屋に住み出したのは。
 二郎と言っても、ヤツは人間ではない。そして犬でも猫でもない。単なる半透明の球なのだ。

 それを強いて分類すれば風船なのかも知れない。しかし、突っついても決して割れない。その上に、最近はちょっと賢くなってきたのか、時々変形して、怒ったような表情になったり、笑ったような表情をしたりする。

 そんな不可解な二郎が、今夜も部屋の中で、ふわりふわりと浮いて自由に漂っている。


作品名:二郎 作家名:鮎風 遊