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第9章 友との盟約




 ルディと別れた直後、背後から銃声が聞こえた。振り返り、来た道を戻ろうとすると、ルディは威嚇射撃だと言って、俺に先を促した。
 あれは本当に威嚇射撃だったのか――。
 気になって仕方が無かった。威嚇射撃にしては、鈍い音がした。ルディの身体に当たったのではないか、それをルディは俺に隠していたのではないか――。
 やはり、何としてでも、ルディを連れて来るべきだったのではないかと、何度も自問した。宰相としての務めがあるとルディは言っていたが、俺はこの手を放してはならなかったのではないか。
 だが、その一方でルディの気持も解る。最後の最後まで、自国のために奮闘しようとする気持が――。
 マスカットの国境警備隊に見つかったのは、ルディと別れて二十分と経たない時のことだった。両手を挙げるよう求められ、素直にそれに従った。制服を着用し、階級章も付けているにも関わらず、その場でボディー・チェックを受けることになった。その時、ルディから貸してもらった拳銃が出て来て、帝国軍の密偵ではないかと疑われた。
「突然のことで真偽を疑われても仕方が無いが、私は軍部長官のレオン・アンドリオティス大将だ。至急、ムラト次官に連絡を取ってもらいたい」
 名乗りを挙げると大尉の階級章を身につけた男が、訝しげに俺を見て言った。
「捕虜となっている我が軍の長官を名乗るなど、ますます怪しいではないか」
「収容所から逃走してきた。詳細はムラト次官に語る。至急、本部と連絡を取ってくれ」
「まずは貴方が本当に長官かどうか調べてからだ。帝国の技術では、顔などいくらでも似せられるからな。長官に擬した人間が、長官の制服を纏って国境を越えたとも考えられる」
「検査には全て応じよう。兎も角も軍本部に連絡をいれてほしい。私の真偽が定かでないのならば、その旨を告げた上でムラト次官に報告してほしい。……それに軍本部には私の弟、テオ・アンドリオティス准将も居る。弟ならば私が本物か偽物か見分けがつく筈だ」
 入国の際、少し手間取るかもしれないことは覚悟していた。今、眼の前に居並ぶ五人の軍人達の顔を見渡してみたが、見知った顔が無い。マスカット支部には知り合いも居ない。一刻も早く本部と連絡を取りたいのに。
 大尉の階級章を持つ男は、通信機で支部に連絡を取る。考えてみれば、彼が本部に直接連絡を取ることは出来ない。まずはマスカットの支部に、それから西方警備部に連絡を取って、西方警備部から本部に連絡が入る仕組みになっている。
 西方警備部ならば、ハッダート大将が居てくれれば、話は早く通るだろう。だが――。
「解りました。直ちに支部に連行します」
 どうやら、これは俺が予想していた以上に厄介なことになりそうだ――。
 前後左右を囲まれた状態で、マスカット支部へと向かうことになった。十分程歩いたところに車があって、其処から車に乗り、三十分程走ったところにマスカット支部があった。支部の入口を潜ると、そのまま取調室に連れて行かれた。壁の一部はこの部屋の向こうから見える仕組みになっているのだろう。きっとこの支部所属の上官が、此方の様子を窺っているに違いない。これまでの大尉とは違う別の大尉がやって来て、俺の前で名乗った。
「マスカット支部所属イブン・ギルド大尉です。取り調べを担当します。その前に生体認証のための検査を実施しますので、毛髪・指紋・血液の採取に御同意願います」
 彼は検査に同意する書面に署名するよう求めた。この筆跡も鑑定されるのだろう。署名を施すと医官が側にやって来て、毛髪を数本と全ての手の指紋、そして血液を採取した。結果が判明するまでにどのくらいの時間がかかるのかと問えば、最短でも明日の午後だと回答が返ってくる。それまでは、俺からは本部に連絡を取れないということか――。
「ではこれから質問に答えて頂きます」
 取り調べが始まる。名前と誕生日、年齢、血液型、家族構成、経歴――、帝国でも同じことを聞かれ、同じことを答えた。
 答えながら、傍と思い出した。認証をするということは、元のデータと照合しなくてはならない。本部に所属している俺のデータは本部に保管してある。高官のそうしたデータは他の軍人達よりも一層厳重に保管されていて、データを引き出す際にはその省の長官か次官の許可が必要となる。
 つまり、俺のデータを引き出すにはムラト次官の許可が必要だということで、此処から本部への直接連絡が無理だということは、倍の時間がかかる訳で……。
 これでは共和国に戻ってきたというのに、すぐには身動きが取れない。
 こうしている間にも帝国は着々と再戦の準備をしているのに――。
「……ギルド大尉。質問には全てお答えしよう。だが、これでは時間がかかりすぎる。私はすぐに本部に戻り、防戦への対策を講じたい。そのためにも、特例としてこの場で本部に連絡をいれさせてもらえないか」
 一時間が過ぎた頃、延々と続く質問を続けるギルド大尉にそう告げると、ギルド大尉は無表情のまま、俺の申し出を一蹴した。
「規則です。許可出来ません」
 これでは数日どころか一週間かかってしまう。何か方法は無いものか、考えていた時のことだった。
 扉の向こう側から足音が近付いて来るのが聞こえた。誰かこの部屋に向かってきているのだろうか。
 バタンと音を立てて、扉が開く。
 其処に現れたのは、エスファハーンで消息が不明となったハッダート大将だった。
「ハッダート大将……!」
 ハッダート大将は片手を首からつり下げ、顔にも大きな絆創膏が貼ってあったが、それ以外は変わりない姿だった。消息不明で、万一の事態も考えていたが、生きていてくれた。そのことが嬉しくて椅子から立ち上がり、ハッダート大将に歩み寄った。
「レオン……! 無事だったか……!」
「ハッダート大将こそ、御無事な姿を見て安心しました」
 ハッダート大将は俺の側に近付くと、肩を抱き締めた。それからハッダート大将は厳しい顔つきで、大尉達に言い放った。
「長官の身許はこの私が保証する。取り調べを中止しろ」
「で、ですが規則ですので……」
「規則は重々承知だ。しかしいつ帝国が奇襲をかけてくるかもしれない時期において、このように暢気な取り調べを行う時間も惜しい。此方からの連絡を受けて、すぐに私から本部に連絡を入れた。じきにムラト次官とアンドリオティス准将が此方にやって来る。長官の生体データを携えてな。質問の必要は無い」
 ぐうの音も出ない様子で大尉は困った顔をして、側に立つ大佐級の男を見遣った。その大佐はハッダート大将を見、解りました、と了解の意を告げる。
「ありがとう。職務熱心なところ申し訳無かったが、緊急事態だということを理解してくれ」
 俺がそう告げると、大佐は俺とハッダート大将に向かって敬礼した。それに倣い、大尉も敬礼する。
「ハサン大佐、ムラト次官がやって来るまで一室を借りたい。……レオン、体調は何とも無いか?」
「ええ。健康状態に問題はありません」
「ならば応接室を借りたい」
 ハサン大佐と言うらしい大佐級の男は、背を正して了解の意を告げ、すぐに部屋を出て行った。行こう、とハッダート大将は俺を促して、取調室を出る。この警備部の最上階にある応接室に通された。
作品名:新世界 作家名:常磐