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新世界

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第11章 会戦の幕開きて




「御協力、感謝致します。無論、平和的解決を最優先します。しかし、帝国側から再度の侵略行為があった場合には私達も応戦し、国際会議を招集して、帝国に対し何らかの措置を……」
 ルディと別れてから、二週間が過ぎ去った。
 この間、次なる帝国との戦争に向けて、内外を走り回った。大統領と共に各国に行き、帝国の侵略行為に対する共和国の意見を述べ、防衛戦への理解と帝国への圧力の強化を求めた。共和国と同様に帝国と国境を接し、共和国の南側に位置するムガル王国や、その隣国のアラブ王国からの賛同はすぐに得られた。また、北アメリカ合衆国の仲介によって、北アメリカ合衆国やアジア連邦と国境を接する南アメリカ連合国、南半球のなかで最も勢力を有するオーストラリア共和国からの協力も仰げることとなった。
 今日は、イスパニア王国の副宰相との会談に望んだ。イスパニア王国は最西端の国であり、帝国の南側に位置している。
 この国に入国する時も大変だった。帝国に気付かれないようにするために、共和国の東側の北アメリカ合衆国にまず入国し、北アメリカ合衆国の専用機を借りて赤道直下のオマーン王国へ向かった。其処からオーストラリア共和国へ入国、さらに専用機を乗り換えてイスパニア王国へやって来た。
 そうしてまでやって来たが、イスパニア王国は立地上の事情からも、此方に賛同するのは難しいかもしれない――と、覚悟していた。
 会談は副宰相と行うことになっていた。イスパニア王国の宰相は一昨年、脳溢血で倒れ、それ以来、副宰相が実権を握っている。副宰相は俺達の訪問を快く迎えてくれたものの、心中では穏やかではなかったことだろう。
 協力を仰ぐと、はじめ副宰相は言葉を濁らせた。俺が一通りを説明した後で、大統領が各国の賛同状況を告げると、副宰相は暫く考え込んだ。
 貴国の窮状は理解し、同情もするが、帝国から今度は此方に侵攻されたら国が持たない――と彼は前置いてから言った。
『ただ……、帝国の横暴には眼に剰るものがあることも事実。戦争への協力は出来ないが、国際会議で帝国に対する措置の決議案を採決する場では、貴国に協力する用意を整えておこう』
 同じく西端にあり、帝国の北側に位置しているブリテン王国からも既に賛同を得ている。これで帝国周辺の諸国、ならびに国際会議において強い発言力を持っている諸国の賛同を得られた。
 会談が終了すると、大統領と共に感謝の意を述べて、イスパニア王国を後にする。長時間の移動にも関わらず、二時間にも満たない滞在だった。
 専用機のなかで、大統領は凄まじい日程だったな――と苦笑を漏らした。
「お忙しいなか、申し訳ありませんでした」
「いや。都に戦火を持ち込まないためにも必要なことだ。……エスファハーンの二の舞は避けなければならない」
 市民の犠牲が無かったのがせめてもの救いだ――と、大統領は言って、専用機の外の光景を見遣る。王政が廃止されて、初めての大統領選挙の結果、王室とは何の関係もなく、民主化運動を進めてきたこの大統領――アリー・ファイサル氏が大統領となった。
「私より君の方が忙しいのだろう。帝国から帰還して以来、休むことなく働いていると聞いているぞ。若いとはいえ、無理をしないようにな」
「お気遣いありがとうございます」
 ファイサル大統領は議論の場となると挑発するような発言もするが、こうした私的な場では周囲への気配りも忘れない温厚な人物だった。共和国はまだ移行してまもないため、政策や制度もあらゆる問題が山積されている。そんななかで、俺の依頼を受けて各国を飛びまわってくれたのは本当にありがたいことだった。

「……アンドリオティス長官」
 大統領は視線を此方に戻して、俺と向かい合う。
「今回の戦争、勝てるという自信はあるか?」
 真剣な眼差しで問う。ファイサル大統領は国防に関しては、元国王と同じ考えを持っている。自衛のための戦争は致し方無いとはいえ、出来るだけ戦争を避けたい――彼のそうした考えが、結果として民衆の支持を集めた。
「九割の確率で勝てます」
 ムラト大将と何度も話し合って結論付けた確率を大統領に告げる。大統領は眼を丸くして一瞬呆気にとられていたが、数秒後に口元を緩めた。
「それはまた高い確率で勝利出来るとのことだが、その根拠はやはり同盟か?」
「はい。それともう一点、敵の総指揮が宰相でないこと。これが二点目の理由です」
「君の命を助けたという宰相か。しかし、宰相以外にも帝国軍の陸軍長官は手強いと聞いているが……」
「ジャン・ヴァロワ陸軍長官は解任されている筈です。今の指揮は陸軍部所属のフリデリック・フォン・シェリング大将――彼かと思われます」
「……帝国の旧領主層の人間か。アンドリオティス長官の彼に対する評価は低いということか」
「宰相やヴァロワ大将ほど高くありません。この二人を相手にすれば、前回の戦争のように今度は首都を攻略されたでしょう」
「評価の低い理由を聞かせてもらえるか?」
「もし今の帝国軍の総指揮官が各国の情勢を見て取れる人間ならば、侵略を止めます。今回の戦争には勝てない――必ずそう考えるでしょう。アジア連邦と北アメリカ合衆国、この二ヶ国との同盟に気付いたならば、帝国は戦争に踏み切らない筈です。たとえ帝国に味方する国が現れたとしても、不利な状況に変わりありません」
「……とすると、君の話ではヴァロワ長官は同盟に気付いているということになるな。彼が現長官にそれを進言したとしたら?」
「ヴァロワ大将の進言を受け入れたとしたら、開戦という事態には至らないでしょう。中断されている交渉を再開し、領土割譲を求めてくると思います。ですが、現時点においてそうした報告は受けていません。それにフォン・シェリング大将がヴァロワ大将の進言を受け入れるような人物ならば、彼が我が国への侵略を提言することもなかったでしょう」
 大統領は頷いてから言った。
「民衆への被害は最小限に食い止めるように。シェルターの増設が間に合っていないという話も聞いているが……」
「早急に作業を進めております。ですが、何分にも今回の侵略は急なことですので、間に合わない場合は大統領の避難勧告のもと、軍が非戦闘地への誘導を行いますので、その時はよろしくお願いします」
「情報は速やかに私の許に回してくれ。……それからこれは興味なのだが」
「はい?」
「九割の確率で勝利出来ると言ったな。では一割の不安要素とは何だ?」
「帝国がミサイルを保有し、それを共和国に向けて放った場合のことです」
 大統領は一瞬言葉を失い、その可能性が否定出来ないのか――と身を乗り出しつつ、しかし声を潜めて問い掛ける。
「フォン・シェリング大将は御存知の通り、帝国のなかでも一、二を争う旧領主家の人間です。そのフォン・シェリング家は帝国において軍事産業部門への援助を行っております。国際法で禁止されていても、秘密裏に大陸間ミサイルを保有し、それを使用する可能性を否定出来ません」
「……その可能性も含めて一割か」
作品名:新世界 作家名:常磐