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世界の彼方のIF

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永い永いかくれんぼ(おまけ詩付き)


「ありがとう」と青年は言って、差し出された鋼鉄の腕へ、脱いだ上着をあずけた。
「会議はいかがでしたか? マスター」
「今日も進展なしだよ。頑固オヤジたちを説得するのは、地球を護る以上に至難の業だな」
 青年の答えを受けるや、ピピピという音を発し、アンドロイドは押し黙る。
「ああ、ごめん。どの単語がわからなかった? 《頑固》? それとも《至難の技》?」
「《オヤジ》という単語が」
「そっちか。いや、年配の博士たちを皮肉った言い方なんだよなぁ。品がいいとはいえないから、君は使わない方がいい」
「申し訳ありません。ワタシは、AI内蔵とは名ばかりの欠陥品。マスターのお役に立つどころか、こうして教えてもらってばかりいます」
 青年はアンドロイドの肩に手を置くと、無表情の顔を覗き込んで言った。
「そのことは気にするなと何度も言ってるだろう? 僕は、難しい話をしたくて君を雇ったんじゃないよ」
 右肩に温もり。ああ、まただ……。
 青年が自分のボディに触れると、その部分に解析不能な信号が生まれる。機械の感応力など、貧相な語彙力以上の欠陥ではないか。
 更なる低能さを露わにしたくなかったアンドロイドは、その不可思議な信号を胴体の中枢部にそっと仕舞った。
                   *
「マスター、《かくれんぼ》というのは何ですか? 子供たちがしていたのですが」
 アンドロイドは、部屋の窓から見渡せる公園を指差しながら言った。
「遊びの一種だよ。鬼役の子が目をつぶって数を数えてる間に、他の子は見つからないような場所を探して、そこにかくれるんだ。最初に見つかってしまった子が次の鬼。以外にスリルあって、面白いんだよ。僕も昔やったっけ……そうだ! 次の日曜にでも、近所の子たちとやろうか?」
「本当ですか、マスター? ワタシも一緒に?」
 子供時代を持てないアンドロイドの堅くて硬い表情が、その刹那、幼児のように輝いた。
作品名:世界の彼方のIF 作家名:夏生由貴