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「お話(仮)」

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第4話


 ――灰色の雲の向こうに、ぼんやりした月が見える。
 こんな夜には、よく昔のことを思い出す。

 あれは、あたいがまだ十かそこらの頃。親の顔なんて知らない。物心ついた時からスラムにいてね、生き延びるため、誰に教わるでもなく盗みを覚えた。
 あの夜も、いつもと同じように物陰に隠れて、縄張りにやってくるカモを待ってたんだ。
 ただ、その日は運が悪かった。少ししたら、貧弱そうな男が一人で歩いてきて。あたいは迷わずそいつに狙いをつけると、後ろからそっと近付いて、ナイフを見せて言った。
「ゴメンよ、お兄さん。怪我したくなかったら、その荷物あたいにちょうだい」
 普段は大体ソレで終わるのに、そいつは慌てた様子もなく、ただ黙って歩き続けてた。
「なぁ。痛い目にあいたくないだろ? あたい今、腹ペコで機嫌悪いんだよね」
 ちょっとだけ脅かしてやるつもりでさ。あたいはナイフを振りかざして獲物に飛び掛かった。
「……まるで、飢えた野獣ですね」
 ナイフに映ったそいつの唇が動いたと思った瞬間、黒いコートに視界を遮られて……。気付いた時、あたいの体は地面に転がってて、持ってたはずのナイフが心臓の真上で光ってた。
 やば……。終わった。そう思ったら、なんかもう全部どうでも良くなってきてね。
「殺しなよ。あんたの言う通り、あたいは獣だよ! 家も金も何もなくて、腹が減ったら仲間だって襲う、薄汚れた、バカみたいな獣なんだよ!!」
 言ってるうちに自分が哀れになってきて、涙があふれて止まらなくなって。
 そしたらだよ。そいつ、そんなあたいの顔を覗き込んで、笑って……何て言ったと思う?
「綺麗な目が勿体無い」
 その時、あたいは初めてマトモにそいつの顔を見たんだ。
 ……全身が震えるような、魔物みたいな男だった。
 ポカンとしてるあたいに手を差し出して、その後そいつが言ったこと。一生忘れない言葉。
「獣、ですか。ならば私と共にいきますか?」

「それであんたに拾われて、あたいは“紅い獣”になったんだよね」
 薄暗い部屋の床で身をくねらせながら、すぐ傍のソファの縁まで移動してグレーシャが問う。
「なぁ、クロウ。あたいって、あんたにとって何なのさ?」
 すると、長い沈黙の後、クロウはおもむろにソファから起き上がり、背中で一言彼女に告げた。
「貴女に、ひとつ新しい仕事を頼みましょうか」
 与えられた挽回のチャンス。そう悟ったグレーシャに対し、クロウは淡々とした口調で続ける。
「港で協力者を手配しておきました。その者と合流し、今から言う二つの物を破壊して頂きたい」
「そのうちの一つって、もしかして例の『GREENEST』かい? で、もう一つは何なんだい?」
 グレーシャの推察に頷いて返した後、窓の外の朧月を背にクロウは笑った。
作品名:「お話(仮)」 作家名:樹樹