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tremolo

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おまけ視点・那月と翔の場合



事務所からの進捗メールを眺めながら、翔はため息をついた。

(別に一気にやらなくてもいいんじゃね?)

負担がかかる人間の存在が気がかりだったのだ。
体の小さい頑張り屋である少女に、どっさりと課題を渡して何になるのか。

(それに…新人の時にそんなに仕事が来る訳ないじゃん…)

学園の卒業オーディションで合格した自分を含めた人間、皆そうだ。
仕事と言っても、運が良ければ「新人アイドル」カテゴリのインタビューやネット番組収録。
それ以外は、各企業への売り込み時の挨拶回りやレッスン達。
主にレッスンに時間が取られている気がする。

(しかし、何で楽器のレッスンもあるんだよ…)

社長曰く、

「最近のイケメンは、楽器も弾けないのはダメダメなのよ」

那月は天才であり、別段彼の望まない演奏方法を求めなければ弾くだろう、と翔は考えている。
自身は、然程上手くない。
弾ける、程度ではあるが、那月と並んでしまうと技術的にも天性の勘的にも…

(…悔しいけど、負けてるしな…)

自分がヴァイオリンを辞めた理由が頭をよぎる。
幼い時に見た耳にした、那月の表現力が耳の奥でぐわんぐわん大音響で鳴っている。

「翔ちゃん、ただいま〜」

那月の何時もの声で、その音に酔いそうになっていた翔は現実に戻った。
レッスンから那月が戻ってきたのである。

「おう、おかえり」

自分の部屋に荷物を置きに行く那月の後姿を確認した後、翔は冷蔵庫に向かいアイスティの入った入れ物を取り出し、食卓用の机の上に置いた。

「うわぁ、ありがとう翔ちゃん」

グラスに注いだアイスティの中にシロップをどっさり入れて、美味しそうに那月はアイスティを飲みほした。

「レッスンどうだった?」
「うーん、そろそろ課題も終わっちゃいそうだから、新しいのをやろうか?だって」
「そっか」
「新しいの…何が良いと思う?」
「うーん…」

翔は言葉に詰まってしまう。
今日のレッスンは、楽器のレッスンだったのだ。
事務所が探して来た講師は、何故かクラシック関連の人間だった。
那月の顔を見た瞬間に青ざめ、「何をしているんだ?」とぶしつけな質問をしてきたらしい。

(初日に…しかも開口一番かよ…)

その日のレッスン後の那月は、かなり沈んでいたのを翔は覚えている。
レッスン後、事務所の会議室でのミーティングで姿と雰囲気を見て、「これはまずい」と直感的に感じ取っていた。
甘いものを与えながら、何があったのかを聴き出したのである。
現在講師はそのうつけな講師から代わったから良いものの、やはりクラシック関連の人間だった。
事務所もどうしてもっと上手く選べないのかと、翔はこの部分は納得がいっていない。
砂月と一緒になったとはいえ、まだ安定している、とは思えないのだ。

「お前が弾きたいものでいいんじゃねぇの」

無責任だと思いながらも、無難な答えを口にする。
今はテンションを落とされては困るのだ。
現時点で、四日経過。
トキヤと音也チームの楽曲製作が佳境に入っている、そんな状況である。
もうすぐ自分たちの番が来る。
その時に、那月のテンションが下がっている状態では、春歌が心配すると踏んでいた。
加えて、時間がない。
全ての時間楽曲製作に費やせない以上、テンションを保たせる、と言う事も必要だと思っていた。
まだ彼一人では無理だ、自分が少しでも手伝わないと。
翔なりの抱いている責任感。

「僕は、ハルちゃんの作った歌が弾きたいです。僕の為に作ってくれた、ハルちゃんの歌が」

ストレートな告白に、翔は一瞬戸惑う。
だが、自分の心の中も同じなので強くうなずいていた。

「俺も同じだよ。弾くなら、あいつの歌だよな」
「はい!僕、ハルちゃんの歌、大好きです」

那月は、にこにこしながら翔の両手をぐっと手で包み込み、目を輝かせる。
ふと、自分の心配は深すぎたかと反省の色が翔に滲んできた。
あたたかくて大きな手。
皆が温かい気持ちになる、音を楽しんで貰える、幸せを感じて貰える、そんな歌を歌いたい。
そんな風に表現していた気持ちが体に流れ込んできて、同時に翔はやる気も出てきた。

「よぅし!そうと決まればあいつが来るまでに、土台をある程度作っておこうぜ」
「土台?」
「まぁ、テーマ…か。どうしたいか?って言われて何も答えられないとか一緒に考えようじゃなくて、こっちから提案すんの」
「でも、ハルちゃんは嫌がらないでしょうか。ハルちゃんにもきっと、歌って欲しい歌はあると思います」
「あ、あぁ…ま、まぁそうだな…」

意外と的を得た突っ込みに、翔は黙ってしまった。
確かにそれはあるかもしれない。
春歌に確認できればいいが、でも今はトキヤと音也の楽曲の事だけに集中して欲しい。

翔自身は、ある程度ソロについては考えていた。
やっぱり楽しい曲が良い。
聴いているだけで体が自然と動くような。
だが、那月はどうだろう。
音楽に関しては天才と言っても過言ではない目の前のこの大男。

(那月は…どうなんだろう)

思いきって問うてみる事にした。
そうしなければ、行けない気がしていたからだ。

「お前は…どうなんだよ」
「え?」
「歌…歌いたいジャンルとかないのかよ」
「…」

翔に聞かれて那月は黙ってしまう。
視線を落として、唇に親指を置き、考えているポーズを見せる。
十数秒後、視線を上げてにこり微笑みながら答えを投げてきた。

「ハルちゃんと一緒にいて浮かぶ歌が良いです」

答えになってない、と翔は思う。
ガックリ肩を落としてしまった。
少し期待したのだ。
自分が歌いたい歌が明確な輪郭のある状態になっている、と言う事を。
やはり彼は”普通ではない“気がしてならない。

「じゃぁ、翔君はあるんですか?」
「は?」

逆に質問されてしまった。
歌いたいジャンルとかはあるのかと、問われたのだ。
翔は、嘘偽りなく自分の曲へのイメージを伝えた。
それを聴くと、翔ちゃんはそこまで考えていて凄い、と拍手をしながら褒めてくる。

「褒めてる場合じゃねぇだろ!考えろよ!少しは!!」

立ちあがって指をさして怒鳴ってしまう。
頭が痛い存在だと翔は思った。
学園生活が終わっても、環境が変化しても変わらずの那月っぷりにいらいらした。
肩を上下させながら、怒りを納めようと努力する。
少し経過してどかっと乱暴に椅子に座って、顔をそむけた。

「ご、御免翔ちゃん…」

おろおろした態度で那月が謝罪してくる。
謝られても困る…こちらが悪い事をしている気分になるじゃないか、と翔はまたうつむいてしまう。
その姿を見て、那月は大きな体を更に縮ませる。

(違うだろ、バカ…)

つい心の中で舌打ちを翔はしてしまう。
このままでは埒が明かない、と考え、翔は那月の手を握る。
力強く。
温度で那月に伝える。
自分が伝えたい事はそう言う事じゃないと言う事を。

「…翔…ちゃん?」

思い切り不思議そうな表情をして四ノ宮が疑問符を投げかけてきた。

「き、気にすんな…と、とと、兎に角…七海への労力を減らす必要があるだろ?俺はそう考えてる」
「…はい」
「今回は完全にイレギュラーだ。そう思う。でも、それを乗り越えないといけない」
作品名:tremolo 作家名:くぼくろ