二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みっふー♪
みっふー♪
novelistID. 21864
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ワンルーム☆パラダイス

INDEX|7ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

(3) 201+(202) もっと、あなたのソバでいたくて



「……お女少ちゃんこれ、」
畳に揃えた膝先に厚みの封筒を差し出して眼帯剣士のボクっ娘が言った。
「少ないけど、今月の足しにしてくれ」
「まぁぁいつもありがとう、」
姉は朗らかな笑みに言った、「これでまたキュウちゃん貯金にたくさん貯めておけるわね」
「お女少ちゃん!」
封筒を持って立ち上がった姉を追うようにボクっ娘も畳に片膝を立てた。
「……、」
髪を揺らして姉が振り向いた。ボクっ娘はぽつりと漏らした。
「前から言おうと思っていたんだが、どうして、――援助ならいくらでも僕がするのに、それとも僕がこうしてお女少ちゃんに構うことも迷惑なのか……?」
ボクっ娘は片腿に置いた手を固く握った。俯いた隻眼からぱたりとひとつ大粒の涙が拳を濡らす。
「……キュウちゃん、」
姉はボクっ娘の前に座り直した。
「――、」
女々しさを恥じて荒っぽく涙を拭った手を取って、優しく諭すように言葉を続ける。
「キュウちゃんの気持ちは嬉しいわ、それにとても感謝もしている。でもね、このお金は私たちが使うわけにはいかないの。もちろんキュウちゃんに貰ったお金がイヤとかそういうんじゃないわ、ただ、けじめというか、気持ちの問題なの」
「お女少ちゃんっ……!」
(……。)
六畳一間に姉弟ふたり、昼間は開け放している間仕切りのちょうど中央部分あたりにちんまり正座した少年は目の前で展開される彼女らのやり取りをじっと見ていた。――危ない危ない、もーちょっとで完全に空気だったよ、と、
――コンコン、
部屋のドアをノックする音がした。
「……はぁい、」
取り込み中の姉に代わって弟がいそいそと応対した。
「あのこれ、お裾分けしようと思って、」
廊下に立っていたのは同じ階の住人の先生だった。晒しの掛かった皿を少年に差し出しながら、先生はちらと背中の方を見た。
「それとお姉さんにお客さんが……」
「え?」
ドアを押して少年は廊下に身を乗り出した。
「やっどぉもーっ!」
――はっはっは! 豪快な笑いを響かせて招かゴリラ……ざる客が名刺片手にずかずか中に入ってきた。
「貴ッ様ァァ!!!」
半ベソかいてたボクっ娘が即座に起立して剣を構えた。――昼間ギッタンギッタンにのしといたのに、やはり止めを刺しておくべきだった、――そのくらいにしといてやってくれないか、マヨラー男の隊員にゴリラ激写と思われるお女少ちゃん五枚組プライベートフォトを握らされてついふらふらと下衆の取引に応じた己の愚昧さよ、歯噛みするボクっ娘をまるで無視する格好に、いつもの隊服姿でなくどういう趣向か引っ越し屋のツナギをまとった特殊警察局長が、棒立ちの少年の手にさっと名刺を持たせて言った。
「ワタクシこの度、お隣に引っ越して参りました……」
「シンちゃん、電話」
局長が言い掛けた途端、ぴしゃりと切って姉が言った。
「――ハイッ!」
少年は名刺を持って電話のある大家の部屋に駆け出そうとした。向こうも身内の恥は晒したくないだろう、名刺にある内線に掛ければ一発で引き取りに来てくれるはずだ、
「ちょ、ちょちょちょ待ってよジョーダンだってば本当は仕事で来たんだよっ!」
血相を変えた少年の袖を引いて局長が弁解した。
「おのれよくもしゃあしゃあと!」
自身の後ろ暗さも手伝って、手加減無しのボクっ娘の剣が少年の頬を掠めて局長の前に突き出された。薄皮一枚、少年はヒィと青ざめた。
「……。」
姉は着物の袂を組んだまま、氷のような眼差しに局長を見ている。局長にしてみれば、完全アウェイの孤立無援だった。
「――、」
ボクっ娘の突き付ける切っ先を顎下に見据えたまま、ゴホンと一つ咳払いして局長は言った、
「……や、今月は地域の治安維持強化月間になってましてね、特にこの界隈に不穏な動きアリと、そこで大家のまだむさんにもご協力頂いて、張り込み潜入捜査に参ったわけです!」
「……。」
三人の胡散臭い視線が一斉に彼に注がれた。よそ見していた先生はサンドウィッチの皿片手に、剥がれかけていた壁のポスターをぴしっと押し付けて、手を放したらだらんとダレてきたので、今度こそ気合いでえいっ!てやったのに結局また剥がれてきたり、を何が楽しいのか延々繰り返していた。――為せば為る、日頃みかん箱に向かってちまちま小難しい論文ばかり捏ねているようで、意外にそういう古典的な精神主義も持ち合わせているところが先生のユニークさを際立たせている要素の一つでもある。
三方を敵方に囲まれながら、ゴリラ局長は懸命に説得を試みた、
「だから! 俺は本当に仕事で来たんですよぉっ! ……今日はほら、ちゃんと変装だってしてるでしょぉっ! 潜伏先がたまたまお女少さんとこの隣の空き室になったのは本当に本当の偶然なんですってば!」
「ならば今すぐ僕が借り受けるっ! 何ならアパートごと買い取ってやるから大家を呼べっ!」
まだむが聞いたら何様なんだいと顔を顰めそうなことを言ってボクっ娘が喚いた。
「キミねー、そういう問題じゃないでしょー?」
局長が疲れたように溜め息をついた。
「……何かい君はこう言いたいのかい? お女少さんの隣に住みたいがために、俺が国家権力を私的流用しているとでも?」
「よくわかってるじゃないか、」
ボクっ娘が不敵に口元を歪めた。――まぁそこは真理だろうな、傍で聞いていた姉弟もしみじみ頷いた。
「ならば異論はあるまいっ! この場で貴様に決闘を申し込むっ」
後楯を得てさらにテンションを高めたボクっ娘が、懐に常備していた果し状を局長の足元に放った。
「……やれやれほんと無茶苦茶だな君は、」
呆れ口調に局長がぼやいた。ボクっ娘はいよいよいきり立つ、
「なんだだらしない逃げるのか?」
「君と決闘する理由がないと言っているんだ、」
あくまで冷静を装う局長の態度に、ボクっ娘の歪んだ嘲笑が吐き捨てた。
「……片腹痛い、いくら理屈をこねたところで貴様はただの軟弱者だ、ならば僕が引導を渡してやろう、今すぐお女少ちゃんの前から永遠に往ねい!」
どうであっても剣を収めるつもりのないボクっ娘の頑なさに、
「まったく君は子供だな、まるで状況を理解していない、」
――コレは極秘事項なんだが、前置きした上で局長は話し始めた……、
(……。)
イヤ、普通に職務違反だろと少年は思った。
……ともかく、局長が己の首を懸けて漏らした情報によると、このアパートの周辺に、国家転覆を企むテロリストと急進派革命思想家と芸術団体を装った異星出自の暴力組織がまとめて潜伏しているらしい、点在している彼らが接触を図ったらどういう展開が生まれるか、予測がつかないだけに事は深刻を極めるのだという。
「……あ、そのうち一人はたぶん私です、」
はにかみながら先生が控えめに手を上げた。数秒持ちこたえていた壁のポスターが、時間差でぺろりと剥げた。目をやって、先生は一瞬悲しい顔をした。
「しーっ!」
局長は慌てた、――敢えて伏せてやってんのに何を自らぶっちゃけてるんですかアナタはっ!
「……。」
何度も廊下でヤバげな内容の原稿拾って部屋に届けたし、薄々勘付いていたことではあったが、どうフォローしていいのかわからないので姉弟は顔を見合わせて沈黙した。