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ワンルーム☆パラダイス

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【付録5】眼鏡少年と謎の叔父上★



とあるまったりぐったりした平日の昼下がりだった。
立場上の上司にまとめ借りDVDの返却お遣いに出されていた少年は、『堂々完結!』店頭の販促ポスターにふと目を奪われた。世界的大ベストセラー児童書の足かけウン年、実写化シリーズのアレ、……そういや第一作が世に出たとき、僕っていくつだったんだっけ、指折り数えかけて少年は頭を振った。いかんいかん、こんなところで墓穴掘ってどーする、――そんなことよりもだ、クイと眼鏡の蔓を持ち上げて少年はポスターの中央に陣取る表情を見つめた。
(……。)
ボクだって仮にも由緒正しい眼鏡っ子なのだもの、ちょっくら何とかどーにかすれば、いずれまほーの一つや二つ……、ほんのその場の思いつきから意外にもガチの行動力(家系の血及び獅子座の星)を発揮して、少年は日々のヲタ活動がてら、最寄り駅の某古書店街に足を伸ばしては手当たり次第に魔本を漁り、たゆまぬ努力の甲斐あってついに禁断の召喚魔法の基礎理論を会得した。
かくてとある新月の晩、骨董屋やら漢方屋やらを回って揃えた秘伝の薬種と道具一式、いざ理論を実践に移すべく、
――ナンタラカンタラウンタラタラバマツバヅヴァイ!
円状に蝋燭を灯した自室の座布団に胡座を組み、気合いを込めた少年の呪文とともにあたり一面白煙が湧き上がる。
やがて煙が晴れると、半円分の火が消えた薄暗がりに、小袖に羽織姿の品の良さそーなおじさんがゲホゲホ言いながら読みかけの書見台ごと少年の前に姿を現した。
「……あっ、あのー、」
少年は恐る恐る問いかけた。どうやら実験は大失敗、召喚違いは確実のようだ。自分が呼び出そうとしたのはグラサンによれよれ半纏のくたびれたおっさんであって、目の前のこの紳士然としたおじさんではない。
「失礼ですがどちら様ですか?」
「……」
総髪を髷に結ったおじさんがゆったりとした動作で振り向いた。少年は瞬きをした。……眼鏡がおかしいのか、単に暗さに目が慣れないからか、おじさんの顔がぼやけて輪郭がはっきりしない。
ピントのブレたおじさんの顔が背筋を伸ばして穏やかに答えた。
「いやいや、いいんだ、名乗るほどのモンじゃないのでね」
「はぁ……」
少年は眼鏡の蔓に触れながら返した。だったらおじさんのことを何と呼べば、……おじさん? いやこのおじさんをおじさんと呼ぶのはいささか気安すぎる気がする、そりゃおじさんの外見は確かにれっきとしたおじさんなのだけれど、だけど何つかこー、普段自分が接しているおじさんがいかにもおじさんおじさんしたおじさんなのに比べるとこのおじさんは(中略)おじさんではなく、言うなれば半おじさん! ……違うか、それじゃどっか半分だけおっさん、みたいなハンパもんだ、そうじゃなくて、こう、漢字で“叔父さん”とでも呼びかけたくなるような……、
「そうだ叔父上!」
声に発したあとで、少年は眼前がぱぁっと明るく開けたのを感じた。しかし名も知らぬおじさんの顔は未だ判然としない。
「ウン、まぁそんな風に呼ばれてないこともないけど……」
ピンボケフェイスのおじさんが、何か差し障りがあるのか、やや口ごもりながら言った。と言うか、たったいま気が付いたのだが、ピンボケはどうやら眼鏡のせいではないらしい、というのもおじさんが自分の顔の前で尋常でない高速で手を振っているもんだから、それで顔の輪郭がブレてぼやけて見えるのだ。
「あの、なんか突然本当すみませんでした」
疑問は多々あるが、取り敢えず少年は胡坐を正座に組み直し、召喚違いの非礼を詫びた。
――いやいやいいんだよはっはっは、手を振りながらおじさんは言った、
「集中してたつもりが、うっかり目を開けたままうたた寝していた私も悪いんだからね」
「……、」
少年はほっとした。――よかった、なんか心の広いいい人そうだ、……いい人?
(……。)
一瞬ちらりと少年の胸を不穏の影が過ぎった、この非・常識的な状況を慌てず騒がず受け入れるって、単に器がデカいとかそーゆー問題でもない気がするぞ……、が、そこを敢えて突っ込むと余計ドツボにハマる気がしたのでこの際捨て置くこととした。
「君は誰かおじさんを探しているのかい?」
手を振る動作のままおじさんが訊ねた。
「あっハイ、」
意識が明後日にとっ散らかっていたもので、少年はつい素直に応じた。別に、話すつもりもなかったことまでつらつら口に出た。
「まぁ、おじさんって言ってもおじさんみたいな立派な叔父上とは対極にいるってカンジの、まるでダメなくたびれたグダグダおやじなんですけどね」
「……」
高速にブレる手シャッターの向こうで、おじさんが目を細めた、……ような気がした。
「それは君の本心なのかな?」
おじさんが言った。
「――え?」
少年はまじまじおじさんの顔を見つめた。どんなに眼鏡を凝らしてもおじさんの顔は確認できない。少年を見て、おじさんがまた笑った、ように思えた。
「まぁ、君が捜しているおじさんも君の本当の気持ちはわかっているはずさ」
「……」
少年は視線を落とした。揃えた膝の上に拳を握って一つ息を吐く。
「だから余計性質が悪いんです」
――あの人は知ってていつも途中で逃げ出すんだ、胸に詰まった乾いた声を絞り出す。
「僕は……、僕はそれでももう迷わないって決めたつもりだったけど、こうもしょっちゅう肩透かし喰らってばっかだと、だんだん心がギスギスしてきて……!」
いくら笑って許していようと思っても、ときどきどうしようもなくおじさんを憎んでしまいそうになる、
「ボクはっ、ボクはこのまま心の狭いダメガネ野郎になってしまうんでしょーかっ?!」
少年はおじさんに詰め寄った。――ははははは、光速おじさんは扇子でも扇ぐみたいに手を振りながら笑っている、ウンやっぱこの人相当ヘンな人だぞ、認めてしまったら少年はいくらかすっきりした。
「君みたいな若者から見たら、卑怯で臆病に思えるかもしれないけれど」
呟くようにおじさんは言った、
「……何て言うかな、おじさんという生き物はいつでも精神許容量八割……いいとこ八割五分くらいで、――はっはっは、とか、――こらこら止しなさい、とか余裕ぶっこいてキープしていたい繊細な生き物なのさ」
「え?」
少年は訊ね返した、「そんな、15%も遊びが必要なんですか?」
「……、」
――ウン、おじさんはしみじみ頷いた。
「9割超えるとたちまち生存モード発揮して、恥も外聞も投げ捨てた厚かましい居直りオヤジに豹変してしまうからね、おじさんという健気な生き物はそのギリギリ五分のところでいつまでも心にピュアな少年を飼っていたいものなんだ」
「はぁ……」
わかったよーなわからないよーな、少年は曖昧に相槌を打った。おじさんは続けた。
「そこを理解されないで、一方的にこうテンション上げてガーッと来られると、わーなんでだよ頭パーン!ってなって、一発ちゅどーーん、ココロが暗黒宇宙行きなのさ」
「……はぁ、」
やっぱりよくわかんないけど、見えないところでこのおじさんもいろいろ苦労してるんだな、少年は改めて同情した。
「……さて、そろそろ時間のようだ」