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碧の世界

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今日の薄暗い空は蒸し暑い中で暴れることになることを予感させ、空と同様に僕の気持ちもカラリと晴れずにいた。
いつもの場所で、いつもの仲間と、いつものたわいない話をキックオフの時間まで過ごす。薄暗い空が藍に染まり始める頃、件のアナウンスが入る。
「…ご冥福を祈ろうと思います。皆様、御起立下さい。…黙祷!」
そのアナウンスと共に笛が鳴り、スタジアムが静寂に包まれる。
聞こえるのは蝉と鳥の声だけ。一万人以上入ったスタジアムで、こんな静かになることはついぞ見たことがなかったように思う。
再び笛が鳴り、それを合図にしたかのようにピンクの集団からさざ波のように「松田!」のコールと手拍子が鳴りはじめる。
そのコールは対岸の水色の集団に伝染し「松田」コールと手拍子がまたさざ波のように周りに伝わっていく。
僕はその光景を眺めながら自然と同じようにコールと手拍子をしていた。
その瞬間、日本のサッカー界にとって大事な人を亡くしてしまったんだと実感した。僕の目に涙がジワリと滲み、眼鏡を掛けた視界がほんの少しだけ歪んで見えた。
そうやって静かに緩やかに広がったさざ波はキックオフの笛の音で一気に退いていった。負けられない戦いが始まったのだ。
前々節のアウェイと前節のホームで負け、連敗中の我がチーム。ここで勝ち、気合を入れておきたいところなのだ。
景気付けに頭上から水を掛けられて、水滴で僕の眼鏡が曇る。
試合開始前から暴れていたからか、額からは汗が吹き出してこめかみを伝う。それらを適当に拭いチームチャントを声を張り上げて歌った。
掛けられた水なのか、吹き出た汗なのか早々に分からなくなりつつバンテーラを掴み跳ねる。
そして前半11分、ゲームが動いた…悪い方向に。この間A代表に選ばれた清武がヘディングシュート。
目の前で見せつけられたキレイなゴールに僕はカッと頭に血が上り絶句する。
しかし隣から気合の入ったチームコールが聞こえ、慌てて僕も声を上げた。
負けてる時こそ声を張り上げろ!それが僕らの信条。サポーターの僕らは声を張り上げコールし、歌い跳ねるだけだ。
さあ、ゲームはこれからだ。90分間、僕らも選手も全力で戦おう。
作品名:碧の世界 作家名:tesla_quet