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手を伸ばしても届かないこと僕は知ってる

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「え、まじで?」
 その言葉を聞いたとき、僕の頭は一瞬真っ白になった。でもすぐに自意識が頭をもたげて、本能的に僕は平静を装おうとする。平静を装ってはいたものの(できていたかどうかは別として)、心臓はどきどきと鳴っていたし頭に血が上って目の前で発せられている声がよく聞き取れない。
 そうさせるだけの威力が、その言葉にはあった。

 目の前の友人曰く、「高木奈々に彼氏がいる」。

 高木奈々は、僕と同じ高校一年生で、隣のクラスに在籍している。顔がかわいいとかスタイルがいいとか騒がれることはないが、決して不細工ではない女生徒。成績が特別いいという話も聞いたことはないし目立ちたがりでもない。あまり話題に上ることのない人物だ。
 けれど僕の場合、その平凡極まりない「高木奈々」のプロフィールに大幅な修正を加えなくてはならない。
 僕からしてみれば高木奈々の目はきれいなアーモンド形で、光があたるとなんともいえない茶色になって実に見事だ。笑ったときの体をちぢこめる仕草が可愛らしい。そのときちらりと覗く白い歯は、まるでピアノの鍵盤みたいに形が整っている。何より、彼女の走っている姿は流れるようでつい見とれてしまう。ときたま場所が同じになる体育の持久走の時間は、僕の楽しみだ。
 内面のほうも最高だ。友好関係は広くはないようだが、とても仲のよさそうな固定メンバー数人と談笑していることが多いことから、性格のほうも申し分ないことが伺える。
 お分かりだろう。
 彼女は僕の片思いの対象なのだ。
 けれど――。
「なあ、それまじで? 彼氏、いるの?」
「おう」
 ああ友人よ、笑顔で請け負わないでくれ。
 根も葉もない噂であることを願ってみるが、友人はすぐさま、
「ていうのはな、その高木のお相手、俺の近所に住んでる兄ちゃんで昔っから仲良くてよ。本人から聞いたんだ。あ、ちなみに高二でバスケ部な」
 とご本人からののろけ話というかなりの信憑性がある情報元を披露してくださった。
 ……本格的に、僕の恋は終わってしまったらしい。
 僕は打ちのめされた。友人にとっては単なる世間話でしかなくても、僕にとっては大問題だ。へらへらと笑っている友人が恨めしい。
 取り繕っていたつもりが少し顔に出ていたらしい。友人は僕の顔を覗きこんで、
「ん、どうかしたか?」
 と訊いた。