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南風堂ガジュ丸
南風堂ガジュ丸
novelistID. 22082
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奇人女は自由落下を夢見る

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「ねぇ、落ちたいって思った事ない?」

屋上の外枠のフェンスの上に座って空を見上げていた彼女が問いかけてきた。
「はぁ?」
「だ・か・ら、高い所から落ちてみたいと思った事はないですか?」
4階建ての校舎の屋上で、3年生の先輩である彼女と2年生である俺は演劇部の活動をやっていた。
演劇部とは名ばかりで、部員が俺と彼女の2人しかいない、さびれた部活だ。1年生の新部員が入ってこない今、廃部寸前。『生ける屍』部とでも呼ぼうか……。
そんな訳で、2人でまともな演劇ができるわけもなく、ただ集まって日が暮れたら帰るのが、この部の活動。
今日もまた、「天気が良いから」と彼女の提案により屋上に出て、ぼーっとしていた。

「黙ってないで何か言ったらどうかね?」

彼女が珍問の答えを俺に求めてくる。
「ないですよ。飛んでみたいと思った事はありますけど」
「君はつまらないなぁ~」
彼女は視線を空から俺に移して、そう言った。
「じゃあ、私が何でそんな事を訊いたのでしょうか?」
またこの人はとんでもなく、おかしな事を訊いてくる。
「………自殺願望?」
「ううん、ただ落ちてみたいだけ」

なんじゃそら……。

「そんなに落ちたいならバンジージャンプでもしてみれば良いじゃないですか」
俺が呆れてそう言うと…。
「あれはヤだなぁ……。あれってビヨーン、ビヨーンってなるじゃない」

……意味が分からん。

「普通に考えて、高い所から何も着けずに落ちたら死にますよ」
「そう、それが問題なんだよねぇ……」
彼女はフェンスの上で『考える人』のポーズをとり、本気で悩んでいる。

いつも彼女はこうだ。

いきなり突飛な事を言い出して、その事で考えたり悩んだり。
まわりの人は彼女を『子供っぽい』と評価しているが、俺から言わせて貰えば彼女は立派に『奇人』である。

「とぉうっ!!」

彼女はいきなりそう叫ぶと、両手を上げて後ろへゆっくりと倒れてゆく。
彼女の後ろは何も無い。
虚空と約20mほど下にグランドがあるだけ……。

「うわっ、ああ!!」

俺は慌てた。
目の前にいる先輩が飛び降り自殺なんて、トラウマ確実だ。
俺は立ち上がって、バンザイ姿の彼女に跳びついた。

が、間に合わず……。


ガシャーーンッ!


彼女の後頭部は勢い良くフェンスの金網に激突した。

「あうちっ!」

足だけでフェンスにぶら下がったまま、長い黒髪と両手を揺らして、女の子らしからぬ悲鳴をあげる彼女。

「何しでかすんスか先輩!? 危ないから戻って下さい!!」
「ん? 大丈夫だよ。ちゃんとスパッツはいてるし」
「いや、スカートがめくれてるとかそうゆーじゃなくて、先輩ホントに死にますよ!!」
今に落ちるじゃないかと気が気でない俺。そんな事も知らない彼女は「それは困るなぁ」と、言われた通りにフェンスの上に座り直す。そのまま珍しいモノを見るような目で俺を見ていた。
「私より君の方が大丈夫じゃなさそうだね。顔色悪いよ」
「誰のせいですか!寿命が縮むかと思いましたよ!!」
もう殆ど怒鳴っていた。それでも彼女に反省の兆しは見えず、ただ笑うだけ。
「ゴメンゴメン。でも別に君が死ぬわけじゃないから良いじゃない?」
「目の前で飛び降りなんてシャレにならないッスよ。死ぬ程ビビりますって……」
体から力が抜けて、俺はその場に座り込んだ。
彼女はフェンスから降りると、ゆっくりと俺の方に歩いてきた。目の前でしゃがみ、俺の肩をたたく。
うつむいていて顔は見えないが、体を震わせて必死に笑いを堪えてるのは見てとれた。彼女が顔を上げた。
やっぱり笑ってやがる……。
「前言撤回だね。君は面白いよ」
それだけ言って、彼女は俺の肩をバンバンたたきながら吹き出す様に笑い始めた。
こんなに嬉しくない誉め言葉を貰ったのは初めてだ。

「ところで君さ……」

ひとしきり笑い終えた彼女が口をひらいた。
さぁ、次はいったい何を言い出すんだ?

「魔法使いになるには、どうすれば良いかな?」

まほ………?

いきなり予想外の爆弾が飛び込んで来た。小学校低学年ならともかく、高校3年生から発せられた言葉とは思えなかった。今や、幼稚園児すらサンタクロースを信じない時代だぞ。
冗談なら笑い事で済む話だからいい。だが若干、マジで訊いている顔をしている。
この人、本当に大丈夫なのか………?
「ねぇ『このアマ、マジでイカレてんじゃねぇか?』って顔をされても困るんだけど」
魔法使いはともかく、超能力者の素質はあるかもしれない……。
「先輩はどうして魔法使いになりたいんスか?」
話題を変えようと、そんな事を言ってみた。それで返ってきた返事はと言うと……。
「魔法使いなら落ちても地面にぶつかる前に宙とか浮けそうじゃない?」
あくまで理由の根源は落ちる事にあるのか……。何故そこまで落ちることにこだわるのか!?
「でも、呪文とか覚えるの大変そうだなぁ」
問題はそこじゃねぇし…。
「ホイミっ、ケアルっ、レスタっ!」
何故、呪文のチョイスが回復系の魔法ばかり……。
「魔法使いなんて、子供じゃあるまいし……」
俺が小さく呟くと、彼女に聞こえていたらしく少しブスッと不機嫌な顔をした。
「夢がないなぁ、君は。それに昔のエライ人も言ってたじゃない。『少年よ大志を抱け』って」
彼女は、また空を見上げてそう言った。
「何か意味間違ってるし、それに先輩は女だから少年じゃなくて少女です。あと先輩の言うエライ人って言うのは、クラーク博士というアメリカの科学者です」
「細かいこというねぇ」
「典型的なA型ですから」
俺は面倒くさくなって、つけはなす様にそう言った。

二人の間で沈黙が続いた。

俺は彼女を眺め、彼女は空を眺めたまま時が過ぎる。しばらくして気まずくなって、俺も同じように空へと視線をおよがせた。
ああ、気まずい…。自分がやったことではあるが、どうにも気まずい……。だが、何もイイ話題が思いつかない。

「ねぇねぇ」

一時して彼女が先に口をひらいた。
俺は安度しつつも自然な顔して黙ったまま、彼女に視線を戻し次の言葉を待った。


「人は、死んじゃったらドコに行くのかなぁ?」


俺は彼女を見つめたままで、彼女は空を見つめたまま。頭の中で、彼女のその言葉が反響するかのように聞こえていた。
彼女が哲学的に『死とはなんぞや』とか考えているとは当然思えないが、魔法使いなんかより、よっぽどマトモな質問だと思う。
ここで俺が墓場とか言ったら、彼女はきっと「君はつまらない人だなぁ」って言うんだろうな……。
「やっぱり天国とか地獄とか、冥土とかじゃないんスかねぇ……」
彼女がこっちを向いた。少し驚いた顔をしている。
「意外だなぁ、まともに答えてくれるなんて…。君の事だから、てっきり墓場とか言うと思ってたのに」
「…………」