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物体もじ。
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バルカイストに30のお題

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16/A.S.A.P



 ログインして、カオスゲートの隣ですぐにショートメールを送る。

 その相手はここのところ決まっていて、どんな時間帯にザ・ワールド(この世界)にいるのか、大体わかるようになった。


 返事を待つ間、することもないから、視点だけをぐるぐる動かしてタウンを眺める。

 あるいは気忙しく、あるいはのんびりと行き過ぎるPCたち。

 彼ら(あるいは彼女ら)の中に、時おりこちらを注視する者がいるのは、恐らく自分の不正規なPCカラーを不審がっているのだろう、と思う。

 ベテランプレイヤーならば、武器や装備の種類はおろか、エディット可能なPCの型や色まで熟知している、とそう教えられたのは、ついこの間のことだ。

 そんな者たちからすれば、自分はチートでも行う悪質なプレイヤーにしか見えないことだろう。


 「彼」が、そう思ったように。



「あ」



 思わずFMDの下で苦笑を漏らしたとき、メーラーが着信を告げた。

 慌てて開けば、それは思ったとおり、先刻送った相手からの返信。



『すぐに行く』



 まさに即答と言いたくなるような二つ返事に、今度は喜びで笑みが浮かぶ。

 「すぐに」という言葉のまさにそのまま、カオスゲートの脇、ちょうど自分のすぐ傍らに、誰かがゲートアウトしてくることを示す金色の輪が現れた。



(そう言えば、今日の英語の時間にやったな。こういうときの言葉)



 それに合わせるようにPCの向きを調整し、モーションコマンドをショートカット入力する。



「こんばんは、バルムンク」



 来てくれた相手を、ちょうど笑顔で迎えられるように。



「こんばんは、カイト」



 生真面目な返礼が何となくおかしくて、浮かんだ笑みが深くなったけれど、PCの顔は時間切れで元のニュートラルな無表情に戻ってしまった。

 もちろん、するべきことがあって人を呼び出しているわけだから、PC同様、自分も頭を切り替えなければならないのだけれど。



「今日はどこへ行くんだ?」

「えっと、BBS、見た? 変なPCの目撃証言」

「ああ。あそこか」

「エリアレベル的に、一人じゃキツイと思って」

「賢明だな」



 言葉を交わしながら、さっきよりもこちらを注目するPCが格段に増えていることに気づく。

 画面の中、自分の隣に並んでいるPCを見て、それもそうかとため息が出た。


 例え自分のように、フィアナの末裔の名を知らない初心者であったとしても、この白い翼には目を奪われずにはいられないだろう。まして、その名を知っているのなら、なおさら。


 これはさっさとタウンから出たほうがいい、とパーティを組んで、目的のエリアへ飛んだ。

 不正規色と羽根付きの剣士などという目立つ組み合わせでも、エリアであれば、注目するPCがそもそもいない。


 本当は……というか、こんなイレギュラーな事態さえ起こっていなかったならば、自分だってもう少し、タウンでのんびりして、他のPC達と話したりとかもしてみたいのだけれど。


 何よりも優先して、すべきことが今はある。



「ねえバルムンク」



 くるりとPCごと振り向いて、すぐ傍らに立つ白銀のPCを見つめてみる。

 ニュートラルな無表情の向こうで、「彼」は今、どんな顔をしているのだろう。



「どうした」

「今日、学校で、英語の授業でね。比較を習ったんだ。原級の、イディオム」

「……それで」

「あのね。I want to help him as soon as possible. ……合ってる?」



 発音には自信がないからそこだけキィボードを叩いて、恐るおそる確認した。

 訊いたことはないけれど、バルムンクは自分よりも年上だと思うから、通じるだろう、と思って。


 1秒、2秒、息が詰まりそうな沈黙があった。



「―――少し、違うな」

「え、うそ、どこ?」

「正しくは、We want to help him as soon as possible. だな」



 耳に届く、奇麗な発音を正しく拾って、ログに英文が流れる。

 目で追ったその違いに気づいて、思わず、指がショートカットキーを押していた。


 PCが浮かべるいつもと同じ笑顔に、少しもどかしくなる。

 もっと、この気持ちを表すことが出来ればいいのに。



「うん。そうだね」

「そのために、俺たちはここにいるんだ」

「うん」



 けれど、応えるように、隣のPCが浮かべてくれた笑みに、そのもどかしさもどこかへ消えた。

 代わりに、嬉しさと、安堵が湧いてくる。



「行くぞ、カイト」

「OK!」



 言うなり、背中の白い翼を翻したPCを追って、出来る限りの速さで、エリアを走り出した。



「今日もよろしく、バルムンク」




 今日も、「自分たち」は、自分たちに出来る限りのことを。