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6/12臨帝オンリー新刊サンプル

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迷子の達人


○44P / イベント売り400円
 迷子の迷子の帝人君のラブコメディ 冒頭3ページ


***



 深夜も一時を過ぎれば、都会の喧騒も少しは静かになる。
 終電が終わった池袋をうろつく人間は、その近辺に住んでいるか、それともカラオケや居酒屋を利用して徹夜を決めた若者か、昼夜逆転生活を余儀なくされる職業の人か、まさかの不良なのか。
 いずれにせよ、様々なドラマ行き交うであろう、その街の片隅で今まさに、一人の少年が危機的状況にある、だなんてことは。
 きっとこの巨大な街にしてみれば、些細なことなのかもしれなかった。



 ……当の本人にとっては、死活問題でも。



 深夜一時の暗闇を切り裂くような電子音に、折原臨也は文字通り飛び起きた。
ごそごそと枕元に手を這わせて、けたたましくなり続けている携帯電話を掴む。普段なら、夜はサイレントモードにして寝ているのでこんな風に起されることはないのだが、たった一つの電話番号とメールアドレスだけは例外にしていた。
 奏でられた音楽はビートルズの曲の一つだ。某なんでも鑑定してしまう番組のテーマソングとして有名かもしれない。なんのひねりも無い英語の歌詞が、助けてくれと歌うだけサビを、彼専用に設定したのは臨也だ。これほどぴったりな曲も他にないと自画自賛を何度もした。
 暗闇の中でぱちりと開いた携帯の画面が、メールの着信を告げている。どうせいつものように、「夜分遅くにすみません」から始まるのであろうそのメールの内容は、最早読まずとも推測の範囲内。
「何で電話にしないのかなあ、あの子は」
 苦々しく吐き捨てた臨也の表情はしかし、文句をいう顔にしては嬉しそうだった。受信フォルダから、新着の未読メールを選んで開くと、予想通りの文字列が臨也に助けを求めている。
「っさて、と」
 これが他の誰かなら、眠りを害されたことに盛大な嫌味を言うのだが、何しろ相手は目下片思い中の少年だ。文句どころか、諸手を上げて歓迎すべきである。眠気などきれいに吹き飛ばして、臨也はベッドから跳ね起き、寝間着を脱いでラフな服装に着替え、出かける準備を整えた。それから短縮で少年の電話番号を呼び出す。
「もしもし、帝人君?」
 その声が若干弾んでいる、なんて。
 長年の付き合いがある人間ならばわかったかも知れないが、きっと少年は気づかなかっただろう。
 携帯の向こう側で、帝人のためらうような声が、起こしてしまってごめんなさいと詫びるので、臨也は軽く笑い飛ばした。起きていたよ、と嘘を付くのは優しさだ。
「なんで、もっと早く電話しなかったの? いつでもいいって言ったでしょ」
『そんな、甘えるわけにはいきませんよ。でも結果甘える事になってしまって本当に申し訳ないんですけど』
 申し訳ないというよりは、悔しそうな声だ。あの少年は、気弱そうに見えるが、とてもプライドが高いのである。地味で目立たない平凡な顔立ちとは似つかわしくないほど、苛烈な中身をしているのだ。臨也は少年の、そういうところがとても気に入っている。
 臨也に頼る自分に腹を立てているのであろう、帝人の心情が手に取るように伝わってきて、だから臨也はもう一度声に出して笑った。
「それで、どこにいるのか分かる?」
『……えっと、近くにあるのは、自販機と民家と屏と、あとは石がありますね』
 臨也の笑い声への意趣返しなのか、わざと全く目印にならないものを羅列する帝人に、今度は声に出さないで苦笑して、臨也はいつものコートを羽織った。
「ごめんって、もう笑わないから、ちゃんと教えて。でないと迎えにいけないでしょ」
『……迎えにこさせてしまうことにつきましては、誠に申し訳なく……』
「なにその演説口調。いいから、ほら、目印になりそうな物を言ってくれよ、すぐに回収してあげるから」
 肩と耳で携帯をはさみ、臨也は器用に靴を履きながら尋ねた。向こう側で帝人が息を吐く音が、鼓膜をざわりと揺らす。携帯電話というのは、まるで通話をしている二人の距離がとても近いように思わせるので困る。
 まだ、告白もしてないのに。
『えっと、煙突? 多分銭湯です。あとは、近くにコンビニと……あ、道を真っ直ぐ行ったところに交番が』
「OK、大体わかった」
 玄関のドアを開けて、スキップをしそうな勢いで外に出る。実際、こんな時帝人が臨也に助けを求めるという事実に対して、浮かれている自覚があった。
オートロックのドアがかちりと閉まる音を聞きながら、弾む足取りでエレベーターに向かう。頭の中で池袋近辺の地図が高速で行き来し、大体ここだろうという目安の場所を選び出した。
「言っとくけど、警察に見つからないようにね。君みたいな少年がこんな深夜に徘徊してたら、容赦なく補導だ」
 一階に停止していたエレベーターを呼び出しながら、それだけは厳しい口調で告げると、帝人も向こう側で声を一段落として答える。
『分かっていますよ、僕だって一応、内申とか気にしてるんですから。捕まったら困るから、臨也さんに電話したんじゃないですか』
「だから、もっと早く頼れって言ってるのに、君って子は。こんな深夜でさえなければ、こそこそする必要もないだろ? っていうか、何時間歩きまわったわけ?」
『今日は、まだ三時間くらいです』
「……あのねえ」
 音を立てて到着したエレベーターに乗り込みながら、臨也は大げさなほど大きなため息をついてみせた。本当に厄介な子だ、と分かっているのに、それでも、その厄介なところが好きなんだから仕方が無い。
 三時間とか!
 それだけあれば他に出来ることなど山ほどある。本来彼はそういう効率の悪いことを嫌うはずなのに、どうしてこう、これに関してはむきになるのだろう。
 臨也は思う。帝人君はもっと素直に、自分の性質を認めるべきだ、と。
 万感の思いを込め、臨也は池袋の街にさまよっている少年に向けて叫ぶのだった。




「バイタリティ旺盛な迷子で素晴らしいけど、せめて日付が変わる前には助けを求めてよ!」