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波間に揺れる

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波間に揺れる





起きているのか眠っているのか。
釣り糸を垂れている間のタリズマンはウトウトとしている事が多かった。
もっと本格的なものを予想していたシャムロックは意外でもあったし、納得する部分もある。とかく空と地上のギャップが激しい男だ。

しかして波間の浮が沈むと途端に目を覚まして魚を釣り上げる。釣った魚はどうするのかというと元の海に離してしまう。言葉通り、のんびりすることだけが目的らしい。

「退屈か?」

苦笑するタリズマンに、シャムロックはいいやと首を横に振った。
今までこんな経験は殆どしなかったが、新鮮だと感じる。波の音も、潮風も気持ちが良い。

「時々来ているのか?」

シャムロックが問いかけるとタリズマンも首を横に振った。最近は忙しすぎて寝る時間さえなかったのだと言いながら。
それもそうだろう。あれだけ“歩く宣伝”にされていては。
上層部のやり方に眉を潜めながらも、漸く羽を伸ばしている1番機に微笑みかける。もはやウトウトどころか本格的に寝始めている彼に上着をかけながら。

余程疲れているのだろう。
上着をかけてやり、海を眺める。

静かな時間だ。

そういえばと思い当たる。
タリズマンは昨日も1人でどこかに出かけていた。もしや単独行動が好きなのだろうか?

「・・・僕が迷惑でなければ良いんだけど」

踏み込んでしまったからそれに付き合っているだけなのかもしれないと考えていると、誰かが近付いてくる気配に振り返る。

「あ、やっぱり! そうですよね、テレビに出てた戦闘機乗りの人でしょう!」

数名の若い男女がそこにいた。
騒がしくするのでタリズマンが目を覚ましてしまう。そうして突然現れた人間達に驚いている。シャムロックは溜息を吐いた。

「うわあ! こんな所で会えるなんて。ファンなんです、握手してください!」
「すっげえ。英雄と会えるなんてよ。エメリアを守ってくれてありがとうな!」
「おい、止せよ、」
「そうだぜ。最初グレースメリアを見捨てて撤退しやがったじゃねえか! あの時どれ程俺達が苦労したかこいつら知らねえんだよ! おい、言えよ、何で見捨てやがった! 戦争屋の癖に、俺達の盾になって戦うのがお前らの仕事じゃねえのかよ、誰の税金で食って生きてんだと思ってんだテメエ! 働けよ!」
「止めろよこんな所で!」
「うっせえんだよ! こいつらが見捨てたせいで俺の親父もお袋も死んだんだ!」

暴れる男を仲間達が抑えている。
突然あれこれと言われて驚きを隠せないタリズマンであったが、やがてゆっくりと立ち上がると唯一言「すまなかった」と言った。

怒鳴り返してやろうかと思っていたシャムロックをそれだけで抑えたのだ。

しかし、このような人間に謝罪した所で火に油。けれど、どれ程罵声を浴びせられようとタリズマンはそれ以上何も言わず、ただジッと耳を傾けていた。
やがて引きずられるように去っていく男とその仲間を見やりながら、タリズマンは深く息を吐く。

「どうして止めたんだ」

シャムロックの問いに、タリズマンは「あれも1つの意見だ」とだけ言って、再び同じ場所に座った。

「でも僕たちは、」

見捨てた訳ではない。
グレースメリアを取り戻す間の半年間、どれ程戦い、熱望し、戻ってきた事か。どれ程悔しく悲しい思いをしたことか!

「シャムロック」
「きみは悔しくはないのか!?」
「・・・俺の唯一の肉親だった祖母も、シャンデリアの砲撃で亡くなった」

だから、どうしてあそこで守ってくれなかったのかと、撤退などせずに最後まで残って戦わなかったのかと、憤るあの男の気持ちが痛いほど解かるのだとタリズマンは静かに言った。

シャムロックは目を丸くする。
初めて聞かされた彼の肉親の話が、まさかそれだとは。

「命令とはいえ“歩く宣伝”になったのも、祖母のような人を1人でも減らしたくてやったんだが、中々思うようにはいかないな」
「そんな話、今初めて聞いた」

眉間に皺を寄せて呟くシャムロックに、怒らせただろうかとタリズマンは思う。けれど、それが何故なのかまでには至らない。

「そうだな。初めて話した」
「何故」
「話したくなかった」

その言葉は、酷く撥ね退けられたように感じ取れた。
これ以上踏み込むなと、強い拒絶をもってして。

それ程迷惑だったのかとシャムロックは強く胸が痛んだが、感情的になる前に疑問がわく。どうして今まで話さなかった事を今話す気になったのかということだ。
見るとタリズマンは不安そうにシャムロックを見ていた。

「すまない」

こんな話、聞きたくないだろう?と。
それで漸くシャムロックは理解した。

先日もそうであったではないか。誰かに頼る事を酷く悪いように感じ取っているらしい、タリズマンの傾向を。
まさか今までずっとこうして1人で我慢してきたのかと思い始めると、急激に胸の痛みは和らいだが、怒りも湧き上がってきた。

「確かに僕はずっときみに頼ってばかりいたけど、これでも一家を支えていたんだ。そこまで不甲斐ないつもりはないよ」

もっと頼ってくれ。
弱みだって見せて欲しい。

最も辛い時にずっと傍にいてくれた彼に、シャムロックは訴えた。
彼は受け止めるばかりで、決して誰かに強く言ったりはしない。空にいる時ははっきりと言うのに、何故地上に降り立つと真逆になるのか。

「“この戦争で、大事な人間が沢山死んでしまった。でも残された物もある”」

何かを準えるようにタリズマンはぼそりと呟いた。

「時々解からなくなる。俺に残されたものって何だろうか」

平和な世の中と人々?
取り戻したグレースメリア?

「彷徨ってみても、まだ見つからない。その内、出会えるかな・・・」
「他人事みたいに言うな。きみ自身の事だぞ」
「ああ、その通りだ。馬鹿な事言って悪かった」
「隠すな」
「・・・・・」
「本当に、きみってやつは! 何でもそうやって我慢して!」
「言えなかったんだ」

誰にも言えなかった。
解放に沸き立つ皆を見て、言えなかった。
家族を失った苦しみにもがくシャムロックにも言えなかった。

誰にも、言えなかった。

そう独白するタリズマンを、強く抱きしめた。

「僕がいる・・・僕がいるから」
「・・・・・」

タリズマンからの返事はなかったが、シャムロックの背中を軽く叩いて、肩の力を抜いていた。



※※※



拗ねていただけなのだろうと今では思う。
夜道、車を運転しながらタリズマンは考えていた。

肉親を失って、けれど周りに合わせて、どうしようもできなくなって、1人で飛び出して。心配していたシャムロックのことも全部放り出して。

だがここまで考えてくれていたとは想像もしなかったのだ。

ガルーダ隊1番機。
その肩書きが無くなってしまえば、自分の存在のことなどどうでも良くなるものだと思っていたから。

そうやって拗ねてヘソを曲げて、1人でいじけていただけなのだ。
もう少し話してみてもいいだろうか。

自分の事を―――――シャムロックになら。

「ああ、しまった」

突然助手席のシャムロックが呟いた。携帯画面を見ている。

「凄い着信履歴だ。これは怒ってるな・・・留守番電話を聞くのがうんざりだよ」
「誰から?」
作品名:波間に揺れる 作家名:やつか