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Alf Laylar wa Laylah

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――はじまりのはじまり――




「ワリィ。俺はここまでだ」
 出会った頃に比べ貫禄の増した、だが変わらずに気さくな雰囲気をした男が肩をすくめ苦笑い。そうすれば、その向かいに立つ、涼しげな顔立ちの男が、仕方ない、とでもいうように首を振った。
「おまえさんには、本当に感謝してんだ、俺は」
 初めに口を開いた男がそう、言葉を接げば、首を振った、青年然とした男は「知ってるさ」と短く返した。
「気にするな。仕方のないことだ。それに、私も楽しかった」
 初めて会った日のことを思い浮かべ、彼は目を細めた。目の前の男は、知恵の回る、駆け出しの商人、ほんの少年だった。だが今や彼は一城の主となっていた。
 過ごした時間は、人間にとってはそれなりに長い時間だっただろうが、自分にとっては、ほんの瞬きほどの間だった。
 楽しかった、それは、けして修辞ではなく、本心だった。それが、目の前の男にも伝わったのだろう。軽く見張られた目の理由は、気付いたからに違いない。
 確かに、彼は、この数百年の間に出会った人間の中では、格段に勘のよい男だった。
「…ひとつ、頼みがある」
 静かに口にすれば、顎髭が似合うようになった顔を真剣なものにして、なんでも聞こう、と返してくれる。豪気な、と笑うことはしない。互いの性格は理解できていた。
「私を封印してくれ。そして、誰も来ない場所に捨ててくれ」
「…なんで、」
 呆気にとられる男は、人間だった。どこまでも、底抜けに。生涯初めての、最高の友と認めたその相手は、人間らしい真っすぐさを持っていた。なればこそ、理解できなかったのだろう。
「おまえと世界中巡ったのは、楽しかったな」
 魔法の絨毯で夜空を翔けて、不思議な冒険を数多くしてきた。夢のような日々は瞬く間に過ぎ、少年は青年となり、姫君に恋をした。国を牛耳る悪い魔法使いを倒した、それが最後の冒険になった。
いずれにせよ、潮時だったのに違いない。
 自分達は、初めからあまりにも違うものだったのだ。それが一時、偶然に生きる時間が重なったに過ぎない。もとより、長く続く間柄ではないと互いに知っていた。
「だからもういい。私は少し、長く生きすぎたんだろう」
もうあんな日々は来ない。腹の底から大声で笑いあうような日々は、二度と来ない。今までが夢を見ていたのだ。それだけの話。
 しかし、人間、は、淡々と語る十年来の人ならざる友の手を握り、首を振った。
「そいつぁ早計ってもんだ、相棒」
 彼はにっと笑って、強く握手した手を振った。
「最後に賭をしようぜ、相棒」
「賭? 正気か、イフリート相手に」
 ジンの中でも上位に当たるイフリート相手に賭だなど、ただの人間が無謀に過ぎるというものだ。
だが親友は笑うのだ。
「大丈夫だ。俺の勘はいいからな」
 彼は、自信たっぷりに胸をそらし、そして告げる。
「おまえの前にきっと現れる」
「…何が」
「俺はここまでだったけどな。地の果てだろうがジャハンナムだろうが一緒に行く奴が、さ」
 念を押すように人差し指を突きつける人間を、イフリートは目を見開いて呆然と見るしかできなかった。
「マース、」
「俺は種をまく。いつか絶対に芽吹いて、そしたらおまえはもうずっとひとりじゃなくなるんだ」
 何を、という苦笑いは、相手の不意の抱擁で失せた。
「だから今日はこれでサヨナラだ。またな、…親友」
 ぱっと体を離して、既に王となった男は、永訣とは思えない気安い顔で笑ったのだった。


 そうして、永の別れがなされたのは、時に、マース王の初年のこと。若き日をジンと過ごした彼はその後冒険王と呼ばれ、永きに渡り人々に愛される王となった。
「ねぇ、おかあさん。ジンはそのあとどうしたの?」
「そうねえ。王様はランプに封じてどこかに隠したというけれど」
 お気に入りの寝物語に、愛らしい頬をした子供が疑問を投げたのは、それは、既に冒険王が伝説になった時代のこと。
 金色の大きな目をした子供は、隣で寝息を立てる弟と対照的に目を輝かせた。
「王様、ばっかだなあ」
「あら。どうして?」
「おれだったら、世界の果てだって何回だって見に行くのに。だって、魔法の絨毯はすごく速いんだ、きっと!」
 くすくすと母親は笑い、幼子の頭を撫でる。子供は嬉しそうに目を細めた。
「エドはジンが好きなのねぇ」
「うん! 強くてカッコイイもん。それに王様のジンはいっぱい魔法が使えたから、きっとイフリートなんだよ!」
 まあ、と母親は口を押さえて、少しだけ困ったような顔を我が子に向ける。
「エド? ジンに見入られてしまうわよ。イフリートなんて、口にしてはいけないわ。ジャハンナムに連れて行かれたらどうするの?」
「…はぁい」
 幼子は肩をすくめて掛布にもぐりこむ。もう、とため息をついた母親は、おやすみなさい、と子供達の頭のてっぺんにキスを贈る。


 ――その十年後、本当に我が子がランプのジンに巡り会うなんてことは、夢にも思わずに。

作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ