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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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きんぎょの日

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「ええ? つまんない。どうしてえ」
 ともだちからのでんわに、まいは大きな声をあげました。プールに行こうとやくそくしたのに、あいちゃんもなっちゃんもきゅうにつごうがわるくなったというのです。そして、こんどはえみちゃんまで。
 新しい水ぎをきてはりきっていたのに、まいはしょんぼりして、いまのソファーによこになるとにわを見ました。
 にわはまなつのおひさまの光でいっぱいです。花だんのひまわりはうんとせのびをして、だれが一ばんおひさまににているか、きょうそうしているみたいにさいています。
「いいなあ、ひまわりはこんなにあつい日でもへいきで外にいられて」
 まいはそっとまどをあけてみました。
「わ」
 ムッとするようなねっきが入ってきたので、まいは急いでまどをしめました。へやの中はクーラーがきいていてとてすずしいのです。
「やっぱりプールでおよぎたいな」
 まいはぽつりとつぶやきました。
 そのとき、まどガラスごしに赤いものがちらりとゆれました。目をこらしてみると、たくさんのひまわりの中にたった一りんだけ、赤いきんぎょそうがさいていたのです。
 こんなにあつくなるまえまでは、たくさんのきんぎょそうが花だんをにぎわしていたのをまいは思い出しました。ひとりぼっちのきんぎょそうはなんだかぐったりしています。
「あなたもひとりぼっちなの?」
 まいは花だんのそばに行くと、話しかけました。そしてお母さんの日がさをさしかけて、日かげをつくってやりました。
「わたしもね、お友だちがみんなお出かけするからって、プールに行けなくなっちゃったの。こんなあつい日はプールでおよぐときもちいいのに。あなたもひとりじゃつまらないわよね」
というと、小さな声がきこえました。
『わたしもおよいでみたいわ』
 きんぎょそうが話したのです。まいは目をまん丸にして花を見つめました。
『わたしって、きんぎょににているんでしょう? きっとうまくおよげると思うわ』
 まいはにっこりしてうなずきました。
「うん。そうよね、きっと」
 そして花だけをそうっととると、まいはいえの中に入りました。
「これがいいわ」
 しょっきだなからガラスのサラダボールをとり出して水をはると、花をうかべました。
『わあ、気もちいい』
 きんぎょそうはとてもよろこびました。そして、まいの目の前で赤いきんぎょになると、水の中をすいすいおよぎだしたのです。
 はじめてとは思えないくらい、じょうずにおよいでいます。
『まいちゃんもいっしょにおよぎましょう』
「でも、わたしはこのなかにはいれないわ」
 まいがこまったようにいうと、きんぎょがいいました。
『だいじょうぶ。ほら手を入れて』
 まいはそうっとゆびを水につけてみました。
 するとたちまち、自分の目の前に大きなきんぎょがあらわれたので、びっくりしました。
『わたしよ。まいちゃん。まいちゃんが小さくなってお水の中に入ったの』
 あたりを見まわすと、テレビやソファーがゆがんでへんな形に見えます。そこはまちがいなくまいのいえのいまでした。まいはサラダボールの水の中にいるのです。
「まあ、わたしもきんぎょになったのね」
 まいはきんぎょといっしょにたのしくおよぎました。おにごっこしたり、くるくるとかいてんしたり。水の中は気もちよくて、からだがとてもかるくかんじるのです。

 ぱたん。ドアの音がして、いまにだれかかが入ってきました。
「あ、ママだわ。ママー」
と、まいは水の中から手をふりました。
 けれどママは気づきません。それどころか、
「まあ、まいったらこんなところでおままごとなんかして」
と、おこっています。ママの目にはきんぎょそうの花が二りん、水にうかんでいるようにしか見えないのです。
「ママ! わたしはここよ」
 まいがさけんでも、ママにはきこえません。ママはサラダボールをつかむと、ばしゃっと水をまどからすててしまったのです。
「いたた!」
 水からほうりだされたまいはもとどおりになって、しばふの上にしりもちをつきました。 とつぜんまいがあらわれたのでママはびっくり。口をぽかんとあけています。
「わたし、きんぎょになってたの」
 そういってわらったまいのあたまには、赤いきんぎょそうの花がくっついていました。

作品名:きんぎょの日 作家名:せき あゆみ