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宇宙の果てまで

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友達は宇宙人を信じている。
 彼女は昔宇宙人に誘拐されて、改造されて、十日後に家に帰ったらしい。
 だから彼女の頭の中には宇宙人の機密の書き込まれたチップが埋まっていて、沢山の宇宙人がそれを狙っているそうだ。
 特に木星人の襲撃が怖いと、彼女は言う。
 だけどそんなことは全部彼女の妄想で、彼女の両親に確認したところ、小さいときに誘拐されたこともないと言う。
 彼女に何があってそんな妄想を抱くようになったのかは知らない。
 私が彼女に出会ったとき彼女はすでに精神病棟の住人で、宇宙人の襲撃に怯えていて、私に助けを求めてきていた。
 彼女の頭の中で、何故か私は善良な火星人で、彼女を守る宇宙警察官ということになっている。
 勿論私は火星人でも、宇宙警察官でもない。
 そのときの私はただの盲腸で入院していた患者で、院内を散歩していたところを、同じく散歩中だった彼女に捕まっただけの人間だった。
 だけどあの時から、彼女と私の友情は始まってしまった。
 だから私は彼女のお見舞いに出かける。私の母はそれを嫌がるけれど、そんなことは気にしやしない。
 私は出かけて行って宇宙警察官に成りすまし、そうしている間彼女は安心して笑っていることができる。
 長らく一人で宇宙人の襲来に怯えていた彼女も、漸く私という味方を手に入れ、僅かの間平穏を手にすることができるようになったのだ。
 彼女の母は私に頭を下げる。彼女の宇宙話に付き合う私に、いつもごめんね。と言う。
 私はこれでも楽しんでいる。彼女の頭の中は遥か彼方の宇宙と繋がっていて、それと交信しているとき、私は自由になれる。
 だから私は、本当は、彼女の病気が治らなければ良いのに。と思っている。
作品名:宇宙の果てまで 作家名:ハル