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コンビニへ行こう! 前編

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take5 前進の朝





「あ、臨也さんおはようございます」
にっこり。
太陽のように輝く(ように見える)笑顔の帝人が、自分の名前を呼んでいる。夢にまでみたシュチュエーションに、臨也は今なら死んでもいいと真剣に思った。
「お、はよう!」
ぱあああっと、漫画だったら背後に花束を背負っているであろう微笑を浮かべ、臨也はくるくると回転して『帝人君、らぶ!』と叫びたい気持ちを抑える。まだだ、まだそんなことをしていい段階ではない。印象大事!
今日は栄養ドリンクの補充をしているらしい帝人の他に、レジでは女子大生のバイトがタバコを補充している。店内は土曜日の早朝らしく、いつもどおりガラガラだ。したがって、物陰に隠れて客と会話することも可能なのだろう。
「昨日は送っていただいてありがとうございました。これ、お礼に」
どうやらそろそろ臨也が来る頃と思ってとっておいたらしいビニール袋を差出し、帝人がぺこりと頭を下げる。それに慌てて手を振りながら、
「え!?い、いいよそんなの、当然のことをしただけだし!」
と、わたわたする臨也。
見返りを求めたわけではないので、お礼とか言われても困る。っていうか律儀で真面目な子なんだな、さすが俺の天使!
「たいしたものじゃないですし、いつものプリンですけど……。お礼なので受け取ってください。僕一人だったら今頃カツアゲにあってたかもしれないですしね」
そう、帝人だって考えたのだ。昨日はなんの根拠もなくきっと弱いと決め付けてしまったが、もしかして本当にあの暗闇の向こうには不良かカラーギャングか、何かそういう人たちがいて、危なかったのかもしれない。そして臨也は本当に強くて、そいつ等をやっつけようとしてくれたのかもしれない……少なくともその可能性だけは否定せずにおこう、と。
だとしたら、事前に危機を察して教えてくれた臨也には、お礼をすべきだろう。そういう意味で用意したプリンだ。受け取ってくれと言う意味をこめてじっと見上げた先で、臨也は頬を染めて、「う、あ」と意味の無い声を上げ、そしておずおずとコンビニのビニール袋を受け取った。
「な、なんか、かえって気を使わせちゃって、その……でも、ありがとう」
真っ赤になりながらごにょごにょとそんなことを言う臨也は、今日も素敵に不審者だ。あ、そうだ、今こそ携帯の番号を、そう、また遅くなったら送ってあげるからとでも言い訳をして渡すべきところでは!
「み、帝人君、俺のっ」
真っ赤な顔のまま、携帯の番号をメモしておいた紙を渡そうとコートのポケットに手を突っ込んだ臨也に、
「あ、そういえば臨也さん」
と、何気なく帝人は首をかしげて。
「僕、名乗りましたっけ、名前」
「え!?あ、それは、ええっとね!」
名乗ってない、聞いてないですごめんなさい調べました!
……とは、流石にいえない。調べたとか、どう考えてもストーカーです本当に以下略。臨也は微妙に口元を引きつらせて、三週間も前からずっといつでも渡せるようにと用意してあった携帯番号の書いてある紙を、ポケットの中で握り締めた。冷や汗がだらだらと背中を伝う。どどどどうすればこのピンチを切り抜けられるのか!
働け!俺の頭!
「と、友達が!ほら、たまに朝居る、金髪の!」
「ああ、正臣ですか」
「彼が呼んでたからつい、その、竜ヶ峰帝人って、かっこいい名前だね!エアコンみたいで!」
「臨也さんそれ、褒めてません」
キリガミネじゃあるまいし、と複雑な顔をする帝人だが、それで納得したのか小さく頷いて、そうか、と呟く。臨也はドキドキと高鳴る心臓を押さえて大きく息を吐いた。
ありがとう帝人君の友人!君の声が大きくてホント助かった!
普段は邪魔だ消えろとか思っている少年に感謝を捧げつつ、俺の頭よく回った!と自分も褒めておく。そうこうしているうちに栄養ドリンクの補充を終えた帝人が、時計を見上げて「あ」と呟いた。
「もうこんな時間、ごめんなさい、僕急いでゴミ捨てに行かないと、交代の人が来ちゃう」
「え?」
つられて時計に視線を移すと、時刻は九時少し前。そういえば出掛けに髪型が気に入らなくてものすごく直した記憶がよみがえる。そうか、いつもどおりと思って家を出たのに、いつの間にかものすごく時間がたっていたんだな、と臨也は考えて、そして。
「え、ってことは、九時で終わりなの?」
尋ねれば帝人は、はい、と頷く。
「だからゴミ捨てに行かなきゃいけなくて……」
「ま、待っててもいいかな!」
反射的に尋ねた臨也に、帝人は目を見開く。
「え?」
何を急に言い出すのか、と言う顔だ。そうだよまだ携帯の番号も渡してない友達以前の問題なのに。
一瞬ひらめいた「一緒に朝ごはん」、という願望が、やっぱり一瞬でぷしゅうと音を立ててしぼむのを感じつつ、臨也はしゅんと表情を暗くした。
「あ、だ、だめだよね、そうだよね……」
くぅん、としょぼくれる犬を連想する表情である。どちらかと言うと猫派な帝人だけれども、そんな残念そうな顔をされると慌ててしまう。
「え、あの、いや別にだめじゃないですけど……」
本来なら、昨日初めて言葉を交わした相手が今日突然「待ってる」と言い出すのは変だ、と理解はできる。できるが、臨也はとても変な人なので、もしかして彼の中では普通のことなのかもしれない。帝人はそんなことを考えながら言葉を濁すと、途端に臨也の表情がぱあああっと明るくなっていく。
今この人に尻尾があったなら、ものすごい勢いで振っているんじゃないだろうか。そんな感じの嬉しそうな顔に。
うぅ、と帝人はたじろいだ。なんか眩しい。
「あ、あの、じゃあ、待ってても、その、ファミレスとかっ、朝ごはんが」
勢い込んでそんな意味不明なことを言う臨也の、意図するところを何とか理解して、帝人はどうしようかと一瞬迷いつつ、
「えーっと、僕今お給料日前なので」
お金が無いのでごめんなさい、と口にする前に、臨也は益々目を輝かせて、
「奢る!」
と高らかに宣言する。
うわあ、こんなに意味不明な会話なのに通じるもんなんだなあ、と、妙なところに感心する帝人だった。
だから、思わず。


「は……、はい」


そう、勢いに飲まれたのであって。
決して奢るという単語にひかれたわけではないけれども。
こくりと頷いてしまった帝人に、無意識なのか小さくガッツポーズを決めた臨也のことを、ちょっと可愛いなと思ってしまった時点で負けなのかもしれなかった。





コンビニから歩くこと十分、二十四時間営業のファミレスは、時間帯のせいなのか客もまばらだ。向かい合わせの席に座って、のんきに朝定食にしようかホットケーキセットにしようかと悩んでいる帝人を見詰めつつ、臨也はとても困っていた。


な、何を話せばいいんだろう!


何も考えずに誘ってしまったが、よく考えれば昨日の夜に無難な話題はほとんど出してしまった。自然な話って、ほかにどんなものがあったっけ?そしてどんな会話から電話番号を渡せばいいんだろう?
考えれば考えるほど上手いアイディアが浮かばず、沈黙は益々重くのしかかって臨也の純情な感情を圧迫する。緊張しすぎて言葉が出てこないって、中学生じゃあるまいし。
「臨也さんは何を食べるんですか?」
「うぇお!?」
作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野