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コンビニへ行こう! 前編

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take4 夜道の誤解




ギクシャクと手足を動かす。
ギクシャクと、ギクシャクと。
俺はロボットか!心の中で突っ込んだりもするが、隣に帝人がいるというだけで、正常な歩き方さえろくに思い出せなかった。落ち着け、落ち着くんだ折原臨也。
「い、家どのへんなの?」
「えっと、この先の角折れて、五分くらい歩くんですけど」
「ふーん、ってことは、高校は来良?」
「そうですよ」
「俺、卒業生だよ」
「わあ、じゃあ先輩ですね、折原さん」
ふわりと帝人が笑うから、胸がぎゅうっと締め付けられる。本当に奇跡じゃないだろうか、並んで夜道を歩いているだなんて!
最初こそ思いっきり不審者だったものの、臨也が普段より上手く話せないことが帝人には逆に好印象だった。これでぺらぺらと普段どおりの口の聞き方をしていたら、おそらく帝人は胡散臭い人と臨也を認定しただろうけれど。そういう意味では、今非常に良い風が臨也に吹いている、と言って過言ではない。
もっとも、口下手=人見知り=恥ずかしがりや、そんな方程式が帝人の中で成り立ち、可愛い人認定されているだなんて、臨也は夢にも思わないのだけれども。何しろ現在進行形で夢心地なので。
「いつも、朝大変じゃない?起きるのとか、え、えらいよね!」
とにかく少しでも多く会話をしたくて、とても必死である。
「慣れると楽ですよ、あの時間帯はお客さんも少ないですし。それに、早起きは折原さんも同じじゃないですか」
くすくすと帝人が笑うので、え?なんで?と一瞬本気で考えたあと、そういえば自分はその時間帯の客なのだということに気づいた臨也である。寝起きが悪いほうだというのに、帝人に会いたい一心で、早起きの辛さなど欠片も感じていなかった自分に今更思い当たる。
いや、だって、土曜の朝じゃないと帝人君あんまりレジに居ないし!と心の中で言い訳しつつ、「え、あう、」と口ごもる。ここでさらりと「君に会いに行ってます」とでも言えるようなら、この恋も少しは報われるのかもしれないが、もちろん今の臨也にはそんな台詞が吐ける余裕は欠片もない。
もごもごと口ごもる臨也に、そういえば、と帝人が口を開いた。
「ずっと気になっていたんですけど……」
「ふえ!?」
気になってた、だと?
お、おおお俺が気になってたってこと!?
「いつも土曜日の朝来ますよね」
「あ、ああ、うん、そうだね!」
「それで、いつも僕がレジじゃないですか」
「そ、そそそそうだ、ね!」
「それで、あの」
言いづらそうに上目遣いで見られて、臨也は大変取り乱した。まさかこの恋心はばれているとでもいうのだろうか。それとも帝人のほうも、臨也のことがラブだったり……それはないか。
自分で思っておいて自分で否定し、臨也はがっくりと肩を落とした。そんな百面相を面白い人だなあと眺めつつ、帝人は思い切って尋ねる。


「あの……プリンはストローで食べるんですか?」


真顔。
「……あ、そっちね、そうだよね、それ気になるよね、うん」
やっぱりな!そんなことだろうと思ったよ!と臨也は遠い目をしつつ、わくわくと目を輝かせて見詰めてくる帝人になんと答えるべきか考えた。ちくしょう可愛いな、君の瞳は百万ボルトってこういうことか、昔の人は比喩が上手いぜ、なんてつらつらと思いながら。
まさか正直に、「君の興味を引くためです」なんて、言えるはずも無いのだが、普段より回転の遅い頭では、他にろくな理由が思いつかない。
「……それは秘密です」
無難に切り抜けた臨也に、帝人が不満そうな声をあげる。
「ええー、教えてくれてもいいじゃないですか」
「だめ、秘密」
「僕も、ちゃんと秘密にしますよ!」
「っだ、だめだってば」
二人きりの秘密と言うのも憧れるものがあるが、とりあえずはその前の段階に居ることくらいは、いくら臨也でも把握している。今ここでネタをばらすことは、どう考えても懸命ではない。
とりあえずは、そう。
すべては、お友達になってからだ!
決意を新たにする臨也なのだった。問題は、どうやってこちらの携帯の番号とメールアドレスを自然に渡せるかというところだけれども。そして渡したあとは、どうやって平常心で電話ができるかという問題も残っているのだけれども。なんとかなると信じたい。
「あ、そこの路地右です」
不意に帝人が臨也のコートのすそを引いてそう告げた。このあたりは大分大通りからも外れていて、人通りも少ない場所だ。俗にいう裏道である。
多分近道なのだろうな、と理解したその瞬間、臨也は道の先の物陰から数名の男達がこちらに向かって歩いてくる姿を捉えて足を止める。
「みか……竜ヶ峰君、待って」
うっかり、調べた名前で呼びかけて慌てて訂正しつつ、臨也は帝人の肩を掴んで帝人の足も止めると、
「はい?」
と不思議そうに振り返った帝人を自分の背後に隠すように押した。幸い、街灯に照らされているわけでもないので、まだ向こうにも気づかれていない。何かあったときすぐに反撃できるような体制をとりつつ、臨也は前の暗闇を顎で示した。
「前からガラ悪そうな集団が来るんだけど、この辺は物騒なのかな?」
「え」
帝人が驚いたように前方に目を凝らすが、よく見えないようで首を傾げる。臨也は半分気配で察しているようなものなので、一般人には分からないのも無理は無い。
こう見えて、危ない橋を渡っている百戦錬磨だとか、喧嘩人形とも対等に渡り合う強さだ、なんて。帝人は決して信じないだろうけれど、事実だ。
「物騒っていうか……関係あるかどうかは分かりませんけど、最近カツアゲなんかが多いって、聞いています」
心配そうに見上げる帝人の視線に、どきりと胸が高鳴る。これはもしかしてフラグなのか。そうなのか!
悪漢から姫を助けて好感度アップですね、わかります!
臨也の心は、ただでさえ舞い上がっているのに、さらに突風に巻き上げられた枯葉のごとくハイスピードで空中を舞う。幸い、不良グループの一つや二つ、あの平和島静雄と戦うことに比べたらはるかに楽な相手である。
ここは俺がかっこいいところ見せちゃうよ!と意気込んだ臨也だが、そのコートのすそをもう一度帝人が引いたので、はっと我に返った。
「あの、折原さん。ガッツポーズまでしているところ恐縮なんですが」
……無意識って怖い。この状況でガッツポーズとかありえない。
「な、なに?」
あわてて手をパタパタと振りつつ尋ねる臨也に、不安そうな帝人の声が問う。
「もしかして、戦う気ですか?」
「大丈夫だよ俺強いから!心配してくれるのかな、優しいね、ありがとう!でも大丈夫だよ俺強いから!」
大事なことなので二度言いました。そんなテンションの臨也に、不安そうに帝人は益々強く臨也のコートのすそを掴む。
帝人は思った。


こんな変な人が強いわけが無い。


良くも悪くも、帝人にとって「折原さん」は挙動不審な人見知りだ。大体自分で「俺強いから」とか言っちゃう人間が本当に強いことなんて稀だと思う。これはもしかしてあれだろうか。
帝人は真剣な顔で考えた。
きっと、引きこもりでゲームとテレビとインターネット三昧で、自分をアニメの主人公やゲームのプレイヤーに自己投影しちゃってる可愛そうな人なんだろう、と。
帝人はさらに考えた。
作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野