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コンビニへ行こう! 前編

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take4 逃亡者の憂鬱





『ごめんなさい、今週の土曜日は用事があるのでご飯ご一緒できません』




「波江さん……俺はもうだめだ、生きていく希望が無いよ……」
ずーん、と暗雲立ち込める雇い主の鬱陶しいその姿に、波江は一つ息を吐いた。さっきから、臨也が見詰めているのは携帯電話の画面だ。
竜ヶ峰帝人に、初めて朝ごはんを断られる折原臨也の図、である。
受信したときこそ、帝人君からの初メール!と小躍りして喜んだものの、開いてみれば臨也が何よりも楽しみにしている土曜日の朝ごはんお断りのメールだったわけで、正に天国から地獄。その落差たるや、面白いを通り越してあきれるほどだ。
回転式の椅子の上で体育座りで膝を抱え、臨也は打ちひしがれていた……仕事中だというのに。
「何よ、一度食事を断られたくらいで。むしろ今まで良く断られないでいたわね」
あっさりと一蹴する波江に、がばりと顔をあげて、臨也は叫ぶ。
「酷い!俺だって頑張って一生懸命誘ってるんだから、フォローとか入れてよ!今気休めでもいいから大丈夫って言って欲しかった!」
「振られたわけでもないのに」
「ふ、ふふふふられ……!不吉なこと言わないでよ波江のばかああああ!」
うわあああん!とマジ泣きするこの男が、素敵で無敵な情報屋の折原臨也だと、誰が信じられるだろう。恋と言うものは、こうも無残に人を変えてしまうものなのか。
波江は思った……もっと泣くがいいわ、と。
「用事って何の用事かしらねー?」
「……う」
「どうして内容を聞かなかったのよ」
「聞けるわけないだろ!」
「そうよねえ、もしかして彼女ができたかもしれないし?」
「……っ!?」
「今後もうあなたと朝食をとる時間は、一切無いかもしれないわね」
「……そ、そんなこと、っ」
「ありえないとは言い切れないわよね?」
「波江の鬼畜ぅうう!」
帝人に、彼女。
臨也はその可能性について、考えないように考えないようにしてきたが、ありえないことではない。むしろ、あんな天使に惚れる女子が居ないほうがおかしい。何しろ帝人ときたら優しいし可愛いし魅惑的なおでこだし、なんか後光が差してキラキラしている。今まで彼女が居なかったことのほうがむしろ信じられない。俺が女の子だったら絶対にほっとかないのに!とか思う。
だがしかし、女子高生がバトルフィールドに踏み入ってきたら、臨也には勝ち目がまるで無いのではない。
どう頑張っても臨也は男。
万が一、帝人も男同士に抵抗がないと仮定したとしても、臨也の抱く感情は帝人を押し倒したいとか抱きたいとかそういう類のものだ。同じ男なんだからよく分かる、男なんだもんやっぱり押し倒されるより押し倒したいに決まっている。帝人と恋人同士になれるというのならば自分が押し倒されることもやぶさかではないが、同性を押し倒すというのは強い恋慕がなければ到底出来ないことだ。
そして今のところ、帝人から臨也への脈は、皆無。
要するに絶望的である。
「うああああ!」
回転式の椅子に座って、その上で体育座りをしつつ、ぎったんばったんと前後に揺れていた臨也が、
「う?ぎゃあああ!」
と悲鳴を上げつつ椅子ごと床に転げ落ちた姿を見るに見かねて、波江はまた助け舟を出してやることにした。このままでは事務所内が崩壊されてしまう。そんな様子を見るのも面白いけれど、流石に落ち込みモードばかりだと飽きるし。
「そんなに気になるなら、あとをつければいいじゃない」
「……え?」
なにそれどういう意味?
顔をあげて目をぱちくりさせた臨也に、波江は馬鹿ねえと息を吐きながら、続ける。
「だから、用事がなんなのか気になるんでしょう?」
「気になるよ!」
「彼女とデートかもしれないし、友達と遊ぶのかもしれないし、もしかして学校関係の用事なのかもしれないわ」
「そ、そうだね」
「ここでうだうだ考えていても始まらないのよ。あなた、もうその天使とやらの家を知っているんなら、朝出かけるときから張り込めばいいじゃないの」
真っ先にそれを考え付かないなんて、普段の臨也らしからぬ頭の回転の鈍さだ。波江に言われて臨也はそうか!とぐっと手のひらを握り締めた。
「そしてあわよくば途中で偶然を装って遭遇すればいいんだね!」
「……できるのならそうすれば?」
普段の臨也ならともかく、「竜ヶ峰帝人」が絡んでいるときの臨也にソレができるかどうかは疑問だが。まあ無理だとしても、ここでうじうじと悲しみを訴えられて居るよりはマシだろう。
「ほら、分かったらとっとと今日の仕事を終わらせるわよ!」
ともあれ、本当に彼女とデートだった場合、臨也が負う心の傷の大きさは相当なものなのだろうけれど、そこまでは波江の知ったことではない。
失恋の痛手に絶望する臨也。
それはそれでとても楽しそうな見世物だ。
波江はにんまりと笑って、土曜日が楽しみだわ、と口笛を吹くのだった。



そして決戦は土曜日。



まさか早朝から遊びに行くのではないだろうと踏んだ臨也は、帝人の自宅ではなく、バイト先のコンビニへと足を向けていた。外からちらりと中をうかがえば、やはり案の定、レジに居る帝人の姿が見える。
「うぅ、帝人君……!」
今すぐ駆け込んで会話をしたい。だが、一度会話をしてしまったら心が浮かれて尾行どころではなくなってしまいそうで怖い。
ここは一時の楽しみよりも、帝人の予定を探ることを優先すべし。恋する臨也にしては壮大な決意と共に店内を覗き込む臨也の前を、時々早朝シフトに一緒に入っている金髪の少年がすいっと通り過ぎた。
バイトの交代か、と思いきや、店内で帝人と会話をしてから、雑誌を立ち読みし始める。
おや?
これはもしかして、用事と言うのは彼と出かけるということだろうか。そういえば、普段からとても仲がよさそうだし……。ああイラつくむかつくうらやましい!いや、それはこの際置いておくとしても、雑誌を読んで待っているということは、その可能性が高い。
注意深く臨也が見守る中、帝人は早朝シフトを終えて一度バックヤードに引っ込み、すぐに私服姿で店内に戻ってきた。そして、やはり臨也の読みどおりに雑誌を読んで待っていた金髪の少年の肩に手を置く。
二人が笑顔でにこやかに会話をしている様子を外から見つめながら、臨也はその距離の近さがねたましくてうらやましくてたまらない。
「ああああ俺だってそのくらい近くで会話したいのに!したいのに!」
地団太を踏んで悔しがる臨也である。
だがどうしても帝人を前にすると言葉が上手く出てこないし、頭に血が上ってしまってスマートな行動が取れないのだ。こればかりは慣れるのを待つしかない。
恨みのこもった視線で見つめる先、二人は話をしながらコンビニから出てきた。
「で、何の映画見るの?」
「ほら、こないだ公開した、SFあるじゃん」
そんな会話が遠くから聞こえてきて、今日の用事と言うのが大体伺い知れた。
ここから一番近い映画館まで、歩いて十五分程度。そして初回の一番すいている上映回は九時半からだ。それに間に合うつもりなのだろう。
いいなあ、俺もいつか帝人君と二人で映画に行きたい!
作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野