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コンビニへ行こう! 前編

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Take2 道化師の落下





「まあ飲んで!さあ飲んで!俺のおごり!」


急に呼び出されて、断ったのにしつこいので指定された居酒屋にきてみたら、既に完全に酔っ払った高校時代からの腐れ縁が上機嫌だった。
これが他の誰かならここまであっけにとられもしないが、今回は相手が相手だ。岸谷新羅は、すでに先に付き合わされてぐったりしていた門田京平に目配せをした。


……帰っていい?
……あとで煩いぞ。


それもそうかと納得の上、仕方なしに居酒屋のお座敷に上がりこむ新羅を、満面の笑みで臨也が迎える。
「何でも好きなの食べて飲めばいいよ!そして俺の話を聞いてよ!」
「じゃあ遠慮なく」
「聞いてよ帝人君が昨日ね!初めて!帝人君から俺に電話をしてくれたんだよ!ものすごい進歩だと思わないこれ、フラグだよ!フラグたったよ!」
あー、やっぱりその話ね。
折原臨也がコンビニの店員に恋をして数ヶ月。何か少しでも進展があるたびに呼びつけられ、こうしてよく分からないうちに食事を奢られる日々。最初のうちは微笑ましく思っていた臨也の浮かれっぷりも、何度も繰り返されるたびにうざったい。
延々繰り返されるのろけ話と「いかに帝人君が天使か」という臨也の持論に、もういい加減耳タコである。
「っていうか昨日初めてなのか」
「それは進展が遅いといわざるを得ないよね」
「ちょっと二人とも辛口じゃない!?俺頑張ってるよ!頑張ってるけど目を合わせてお話しするのは恥ずかしいじゃない!」
出たよ乙女思考。っていうか恥ずかしいって、そういうキャラじゃないだろうお前!
突っ込みたい、盛大に突っ込んでやりたいが、ここはぐっとこらえる門田である。今日は夕方、池袋の繁華街をスキップしながらくるくる回って歩き、道行く通行人たちをドン引きさせている臨也を見つけてしまったのが、門田の運の尽きだった。そりゃ、こんな残念なイケメンが小躍りしながら歩いていたら、通行人はモーゼの波のごとく避けるに決まっている。そしてそんな臨也がワゴン車に寄りかかって、本を買いに行ったまま戻らない狩沢と遊馬崎を待っていた門田を見つけて、大声で
「ドタチン!」
なんて叫んだものだから、つい反射で、
「ドタチン言うな!」
と叫び返してしまったのだ。あの時の周囲の冷たい視線は忘れ難い。
返事をしてしまったら、もう、この変人の仲間だと思われてしまうのを避けられない。門田は一瞬だけ迷って、それから臨也をワゴン車に回収した。これ以上放っておいてさらに奇行に走られたらいたたまれないし。
そして回収された臨也はというと、ワゴン車の中で両手をばっと広げて、とろけきった笑顔で当然の様に叫んだのだった。


「さあ飲みに行こうドタチン!今日は俺の奢り!」


切実に、断りたかった。
それができたら、今ここに座っていない。
そして今、一人ではこの男に付き合いきれないというので、新羅を呼び出し三人になった飲み会の席。「初めて帝人君から電話!」と大はしゃぎの臨也を遠い目で見つめる門田だった。
「へえ、初めて電話がかかってきておめでとう記念なのかい?」
本当に無遠慮に料理を注文してから、確かめるような新羅の言葉に、そう!と満面の笑みを返す臨也だった。
「……疑問なんだが、その帝人君とかいうのは」
「帝人君、俺の天使!」
「……お前の話を聞いていると、普通の男子高校生なんだよな?」
「普通の男子高校生で俺の天使だよ!」
「それで、どこに惹かれたんだ?」
そういえばそれを聞いていなかった。思い出したので何の気なしに聞いてみれば、臨也はキラッキラに目を輝かせて「それだよ!」と身を乗り出す。
「何でそれをもっと早く聞かないかな!」
「待ってたのか」
「そりゃもう話したくて話したくてうずうずしていたとも!よし、そんなに聞きたいならば語ってあげよう、俺と天使の出会いを!」
「なんか聞きたくなくなってきた……!」
「無駄だよ、臨也やる気満々だから……」
ただでさえ上機嫌なところを、さらに上機嫌になって臨也はオシボリをマイク代わりに握り締める。



「そう、あれはまだ肌寒い春先の朝だった……」




その日折原臨也は、とにかくもうめちゃくちゃに疲れていた。
深夜遅くに、クライアントに指定された場所まで資料を取りに行ったまではいい。その帰りに平和島静雄と出くわし、壮絶なバトルと追いかけっこの末にどうにか煙に巻いたのがついさっき。暗がりの戦いは思った以上に苦戦を強いられ、おまけにしつこい追跡を巻くのに骨が折れた。
今日は追いかけっこしてる暇は無かったのに、あの怪物め!
投げやりにそんなことを思いながら、ボロボロの自分の体を見下ろす。どこかに引っ掛けたのか、コートさえ破れている。辛うじて資料は守れたからいいものの、帰ってすぐにこれを分析して調べ物をして情報にまとめなくては、提出の期限が迫っている。
ただでさえ時間が無いのに、疲れ果てて今にも寝てしまいたい。
そんなことを思いながら、それでもビジネスはビジネス。約束をすっぽかしていい相手と、悪い相手がいる。今回の相手は確実に悪いほうだ。
ため息をつきながら、臨也はとにかく手近なコンビニへ足を踏み入れた。滋養強壮には栄養ドリンクと睡眠打破系飲料だろうか。その実あまり効果は期待していないが、無いよりはマシのはず。
店内の時計を見上げて、後時間的猶予はどのくらいあるかを計算する。今から家までの時間を含めて、約二時間。そうすると調べ物に費やせる時間は半分程度だろうか、それなら何とかなりそうだ。
土曜日の早朝、住宅街にあるそのコンビニはとても空いていた。こんなんで商売大丈夫なのか、なんて疑問まで浮かべつつ、狭い店内を歩き回り、栄養ドリンクの棚の前でしばし考慮する。余りこういうのは買わないのでよく分からない。だが、きっと高いほうが効果がある……はず。
眠気覚ましの飲料と、結局千円近い栄養剤を手に取りレジに向かった臨也を、店員の「いらっしゃいませ」という爽やかな声が迎えた。ああ、本当に清清しい朝だ、俺が徹夜でさえなければ!
ピッと音を立ててバーコードを読み取ったその数字を見ながら、小銭はあるけど出すのが面倒なのでとりあえず万札をぽいと投げるように台に置く。
「あ、ごめん追加」
ふと目に止まったレジ前のミント系タブレットを会計に追加しつつ、ぼーっと店員を見下ろしていた臨也は、その店員が余りに幼い顔をしているのに軽く驚いた。


え?いつからコンビニって中学生OKになったっけ?


第一印象なんてそんなものだ。
ぎこちなくも一生懸命レジ袋に商品を詰めている手つきを見るに、どうやら新人バイトらしい。いやさすがに中学生ではあるまい、と冷静に店内を見渡せば、張ってあるアルバイト募集のチラシは高校生以上が条件なので、中学生ではなく童顔な高校生なのだろう。なんとも初々しい。
万札に「げ」という顔をするあたり、まだまだ接客には慣れていなさそうだけど。
「八千七百二十円のお返しになります」
作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野