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小さな鍵と記憶の言葉

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第7章


7 二時半のお茶会  “A Melancholy Tea-Party”


 部屋の外に出る気になれずに、ひとりぼんやりと自分の部屋で時間を過ごした。

 朝も昼も食欲が無くて、食堂に行ってもあまり口をつけなかった。タツキや給仕さんたちに悪いことをしたかな。そう思うのにナイフもフォークも上手く動かない。今日はフィンの仕事に付いて回ることもしないでクッションを抱えている。
 それにしても、一日が長い。
 もともと長く感じるのは慣れない場所だからだと思っていたけれど、この部屋に、この城に馴染んだ今でさえ体感時間は長いままだ。(もしかして、実際の時間だと2日分の時間の流れだったりするんじゃないだろうか?)
 窓の外は今日も灰色。鳥の鳴き声も風の音もしないで、ただ重たい雲が広がっている。あの空が晴れ渡ることはあるのだろうか?真っ白な雲が優雅に漂う日は?アリスになれと請われた日から、何か変化はあっただろうか。

 ふと、その斑空を眺めながら、私は今のこの状況に思いを馳せる。
 穏やかな人だったと懐かしまれる『前のアリス』がいなくなって、新しいアリスになることさえ頷かないまま滞在中の、ニセモノのアリス。私。
 じゃあ例えば、私がアリスになると決意したら?
 けれど私は首を振り直す。例えばアリスになったとして、この世界に何も変化が生まれなかったら?
 私がアリスでないと皆が知ってしまったら。
 『何もしなくていい』。
 『前のアリスはこの場所に嫌気が差して帰ったんだ』。
 慕われていた前のアリスが、逃げ出すほどの世界。ここにはまだ知らないことがたくさんある。そんな中で、私に何が出来ると言うのだろう。

 思い出すのはやっぱり、あの冷ややかな瞳だ。
 もしかしたら、見透かされてしまったのかもしれない。
 そう。私に務まるはずがない。彼は私がずっと目を逸らしていたことを代わりに暴いてくれただけだった。

 なのに、どうして。
 どうしてこうも気持ちが落ち込んでいるのだろう。
 全て忘れて帰ってしまえば、楽になれるのかな。
 それが正答ではないと知りながら、今の私にはその答えしか見つけられない。

 溜め息をひとつこぼすと、それを打ち消すように部屋のドアがノックされた。
「はい」
 応えると白兎が一匹部屋に紛れ込んできた。勿論本物の兎じゃなくて、長い耳の生えていない人間の兎。私の――《アリス》の、一番のしもべ。
 だから私は思わず、驚嘆の声をあげた。

「フィン?」