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ふざけんなぁ!! 4

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18.きっと人徳♪





最後の取立てが、タイムアップで強制的に終わる直前、静雄のポケットから、重厚な『オペラ座の怪人』のテーマ曲が、最大マックスの音量で流れ出した。

インパクトある重々しいフレーズが、高架下のコンクリートにエコーまでつけて響き、男を今正に投げ飛ばさんとして、吊るし上げていた静雄の怒りが、あっという間に霧散する。

「……あー、今のって静雄の携帯? 随分と高尚な趣味だな……」
「……うすっ。帝人に悪戯されたみたいっす……」

と、必死で平然を装おってみたものの、ほっぺたが、かぁぁぁと赤くなる。
昨日、食後に新羅宅で皆で一緒に、このミュージカルDVDをわいわい見ていたのだが、音楽をとても気に入ったらしい帝人が、こっそりセルティと二人、くすくす笑いながら、ソファーの陰に隠れ、静雄の携帯を弄くっていたのだ。

帝人が何か、秘密のラブレターかなんかを入力してくれるかも……と、ちょっと期待があったので、だから気がつかないふりしつつ、うずうずしていたのだが。


早速静雄は、邪魔になった男をぽいっとその辺に放り捨てると、いそいそとポケットから、青い携帯を引っ張り出した。

度重なる法改正の結果、現在、20時を越えたら債権回収の恫喝は、一切できない決まりになっている。例え相手がソープ嬢にのめり込み、毎晩執拗に通いつめた挙句、借金を200万もこしらえてしまった自業自得のエロ男だったとしても、このまま取り立てを続ければ、警察にしょっぴっていかれるのは静雄達である。


結局、携帯には静雄が期待していたような、ラブレターの類は無かった。
だが、帝人からメールが入ったのは間違いなくて。


『お仕事お疲れ様です静雄さん♪ 私、今日、無事に退院の許可を新羅先生から頂戴しましたぁぁぁ♪ なので今からセルティさんに送って貰って、静雄さんの家に、まっしぐらに帰宅します♪ 早く帰ってきてくださいね♪♪ 私今、お部屋で二人っきりになって、すっごく静雄さんにぎゅっと抱きつきたいです♪』


青い携帯を握り締めたまま、静雄は石になって固まった。
トムが煙草を口に咥えて火をつけ、煙をゆうるりと、三回も吐き出しても、彼はだらだらと冷や汗を流したまま、一向に動く気配がなくて。
痺れを切らした上司は、彼の肩に手をかけ、ゆっさゆっさと揺さぶりをかけた。


「ヤベェ……、俺、マジでヤベェっす…………」
「おいおい、静雄、どうしたべ?」
「どうしましょうトムさん、俺、帝人に今日、絶対嫌われる。もう間に合わないっす…………」


ブルブルのガタガタに震え、琥珀色の瞳にうっすらと涙を滲ませ……、池袋の自動喧嘩人形とまで言われた男は、まるで捨てられる寸前な、ドーベルマンのように怯えていた。


★☆★☆★


時間は少し遡る。
それは、臨也のしでかした騒動のせいで、愛しい帝人を新羅宅に入院させてから四日目の夜の事。
門田達バン組が、三人がかりで問答無用で静雄を車に引きずり込み、露西亜寿司へと引っ張っていったのだ。


「話って何だ。手短に済ませろ。今日から帝人が夕メシ作って待ってっから、早く新羅の所に行きたいんだけどよぉ」

そういくら凄んでも、門田は座敷にあぐらをかいてどっかり座り、日本酒の冷酒を、静雄に持たせたぐい飲みに注ぎ、まったく揺らがず射るように見上げ。

「おい静雄。いくらなんでも俺は呆れたぞ。お前、黄巾賊とやりあった夜から、もう20日近くも経ってるってのに、まだ竜ヶ峰と何一つ進展していないんだってな。一体お前、どうなってんだ?」
「門田さん門田さん、決めつけはよくないっす。いくら平和島さんでも、キスぐらいはしてるでしょ」
「そうだよなぁ、小学生や幼稚園児じゃあるまいし。同居してもう三ヶ月だぜ。手を出してないなんて、男の機能障害疑われたっておかしくないって」

今日は狩沢が欠席で、テーブル席に男のみの饗宴の為、あけすけに言いたい放題である。

「おい、てめぇら……、俺の何処が機能障害だって?」

静雄に男の不具合はない。
ただ、人一倍純情なだけである。
でも、人間図星を突かれると、イラッとくるものであり、しかもそれが、自分自身が一番情けないと思っている、弱点を突かれれば尚更だ。

額に青い血管をぶちぶちに浮かび上がらせたバーテンは、今正にテーブルに両手をかけ、ちゃぶ台返しのカウントダウンだ。
だが、それを押し留めたのは、カウンターで魚をさばきながら聞き耳を立てている店長や、緑茶をいそいそ運んできたサイモンでもなく。

「お前、いい加減にしないと、帝人ちゃんにマジで愛想つかされるぞ」
そう、門田が重々しく言いつつ、静雄に紙袋を押し付けた。

「んなぁ!!」

奇声を発し、静雄が取り落としたその袋には、可愛いパッケージに包まれたコンドームが数種類、それとカラー写真がふんだんに使われた、ぎっしり厚みがあるB5サイズの【How to sex】本が入っていた。

表と裏表紙ですら、素っ裸のやや年配の姉ちゃんと男優が、色んな体位でばんばん絡み合っており、カラフルでどぎつい色文字で、性感がどうとか、ここが快楽のポイントとか、読む気もしないあおり言葉を、延々垂れ流しにしてやがる。


「門田ぁぁぁぁ、お前俺の事、舐めてんのかぁぁぁぁ!! 女の抱き方ぐらい、常識だろうが!!」
「心配してんだ。お前、23にもなって童貞だろ? 裏家業に片足突っ込んでる癖に、風俗とか行った事ねぇのかよ?」
「うるっせぇ!! 俺がマジで抱いたら、女が壊れちまうだろが!!」


「……なら、このままじゃ平和島さん、一生帝人ちゃんを抱けないっすね……」
「……哀れな……」
遊馬崎と渡草の同情の視線を無視し、門田がコホンと咳払いをする。

「静雄、心配しなくたって、女は結構頑丈だぞ。考えても見ろ。腹に子供作ってさ、時には真ん中をかっさばいて出産するっていうのに、その後もぴんぴん生きているじゃねーか」

「……おい、門田君よぉぉぉぉぉぉ、いい加減、人を馬鹿にするんじゃねーぞぉぉぉぉぉぉ」

確かに自分は馬鹿だけど、そんな小学生の子供に言い聞かせるみたいに言ってこなくたって、【帝王切開】という単語ぐらい知っている。


三人をぶん殴らないように腕を組み、額に青筋を浮かべたまま、煙草を口に咥えてすぱすぱ煙を吐き出して、必死で怒りの感情を我慢した。
こいつらは一応、自分を真剣に心配してくれているのだ。
特に門田など、『お前、何時から俺の兄貴分になった?』と問い詰めたいぐらい、眉毛を八の字にして、こっちを見てきやがる。


「門田ぁ、お前さ、何で急に俺の恋路にちょっかいかけてきやがるんだ?」
「臨也がお前達に絡んでんの知って、黙って見過ごせる訳ないだろ。俺だってあの性格破綻者とは、足かけ八年も付き合いあるんだぞ。いいか、もし何かあったら、臨也をマジでヤル前に絶対俺を頼れよ。お前が殺人犯になっちまったらさ、お前をマジで好いてくれた、竜ヶ峰が不幸になるって、肝に命じとけ。いいな?」

真剣な門田の背後から、渡草と遊馬崎の暖かな……、それに、店長とサイモンのにぃぃぃ♪とした、こっちも心休まる慈愛の視線を感じる。
悪くない。
こんな化け物みたいな自分にも、こうして心配してくれる奴らがいる。
作品名:ふざけんなぁ!! 4 作家名:みかる