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感情の切断

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第二話


トリスが旅に出たのは、約8年前。
幼い頃から、ひとつだけ絶対に信じていたことがあった。
「家族は死ぬまで一緒にいる」…

その夢想が覆されたのは、7年前のとある冬の日。

あの日も、今日のように雪が降っていた。





オーフスは、コペンハーゲンに続くデンマーク第二の都市である。現在人口は約29万人。
トリスは、そこに母と二人で住んでいた。


「トリスー?」
台所から声がする。
庭で草をむしっていたトリスは、急いで近くの井戸で手を洗って家に戻った。
当時トリスは12歳。
そして、来週13歳の誕生日を迎える。
トリスの家では誕生日がすごく派手だ。
親戚全員を呼んで、パーティーを開いて、盛大に生誕を祝う。
「何ーお母さーん?」
「これ、晩御飯できたからテーブルに運んでちょうだい」
「はーい」
この頃のトリスは、食べ盛りが過ぎたせいか少し太り気味だった。
身長がそこそこ高いので何とか違和感は無いが、近所の人間からはよくごついごついといわれていた。
しかしトリス自身、好きなものをたらふく食べての幸せ太りなので、そんなことは気にしない。
「わあ、シチューだ」
今日の献立は、トリスの大好きな角豚肉のシチューに街角の出店で買った魚のパイ。
飲み物はザクロとクロイチゴを使った果汁。デザートにはとダリオールよいうアーモンドクリームを詰めた折りパイ生地を小さな型に入れて焼いた菓子がある。
当時のヨーロッパでは衛生上の懸念や医師の助言、飲み物の中で相対的に低い位置づけにより水はあまり好まれず、むしろアルコール飲料が好まれた。
しかしトリスはアルコールが飲める年ではないので、母が絞ってくれる果汁をいつも飲んでいる。
パイは、イチジク・干しブドウ・リンゴ・ナシ・インシチチアスモモと子タラがパイ皮の中で渾然としている。
「じゃあいただきまーす」
胸の前で十字をきって手を合わせから、スプーンを手にする。
美味しそうに料理をほおばる彼女を見ながら、母も食事を始めた。
「そういえばお母さん、どうして今日はこんなに献立が豪華なの?
いつもならパンと果汁とサラダだけなのに」
トリスがなんとなく聞いた瞬間、母の顔が少し引きつった気がした。
「?…お母さん…?」
「トリス、あなた来週誕生日でしょ?だからそれまでカウントダウンとして作ろうかなって」
「じゃあ、誕生日まで毎日この料理なの?」
「ええ」
「やったあ、ありがとうお母さん!」
「当日はもっと豪華な料理にしなくちゃね」
幸せそうに料理を食べ続けるトリス。
しかし母のスプーンを持つ手は止まり、表情もあまり晴れない。
まあ何かあって一時的なものだろう、とそのときは思っていた。


日が経つにつれ、母の行動がおかしくなっていった。
いきなり何かを考えるように黙り込んだり、ふとしたことですぐに落ち込む。
今日も家事をする以外は部屋にほとんどこもっていた。
しかし、料理はきちんと作ってくれた。
毎日具材を変え、飽きないように味付けも変えてくれた。
いつも通りに対応は優しく穏やかだ。
…いや、いつもより、優しすぎる気がする。
悪く言えば気持ち悪いぐらいにだ。
「どうしたんだろうお母さん…」
一人で呟きながら庭の草むしりをする。
母の変化が始まったのが最近いきなりなので、トリス自身、彼女が大丈夫なのか不安だ。
「うーん…何だろうな……野菜は上手に育ってるし…家畜たちも問題ないし…」
ただ目の前に広がる雑草を一心にむしりながら呟く。
…と、
「何を一人で呟いてるんですかー?」
自分の頭上で声がした。
振り向くと、見知った顔が覗きこんでいた。
「モニカ姉さん…」
近所に住んでいる15歳の親友、モニカ・ウィッティンだ。
兄弟がいないトリスにとって、姉のような存在である。
モニカの家は宗教上の問題でかなり規律が厳しいため、年下でも敬語を使わなければならない。
だから、小さいころからトリスと喋る時も敬語だ。
「あ、うん…お母さんがね、最近変なんだ‎」
「お母様が?」
「うん。なんていうか…こう、優しくなったというか…」
「あなたのお母様はいつも優しいでしょ?」
「あ、いや、そういうことじゃなくて…変に優しすぎるんだ」
「変に優しすぎる?」
「うん…」
俯きながらトリスがうなずく。
するとモニカはうーんと一回唸って
「…何か隠していらっしゃるのかしら」
「え?」
トリスが顔を上げる。
「何か隠そうとすると人って不自然に優しくなりません?」
「隠し事…」

母が隠し事…

そんなこと、今まで一度もなかった…

確信はないが、モニカの仮定が本当ならば、説明がつく。
作品名:感情の切断 作家名:karigyura