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ありえねぇ !! 5話目 後編

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7.





「……そこにある荷物よ。森厳に直接手渡しだから、連絡とかは勝手に取って頂戴……」


臨也の仕事部屋兼打ち合わせルームは、いつも散り一つ無くきちんと片付いている。
秘書に案内され、そのただっ広いテーブルの上に、小さな黒いアタッシュケースと茶封筒がぽつりと置いてあった。

封筒の中身を確かめれば、ジャスト三十万円。
この手の大きさでいつもの相場は五万前後だから、六倍なんてかなり色がついていると見ていい。


「やっぱり駄目だ……嫌、持っていってくれ、早く……、俺の目の前から消えろ……、嫌、やっぱり待って、行かないで……」

さっきから、延々と部屋の主は仕事机に突っ伏したまま、一人不思議な世界に入り込み、勝手にぶつぶつ呟いている。
そんなにヤバイ荷物なのだろうか?
様子が明らかにおかしい臨也に、セルティもこくりと首をかしげる。


『中身はなんだ?』

PDAを突きつけても、腕の中に顔を埋めてぶつぶつ呟く彼は、顔すら上げない。なのでしつこく肩を揺さぶって起こしてみたら、心底忌々しそうに剥れて顔だけ上げた彼の左頬は、大きなガーゼが貼り付けてある。

自慢の色男が台無しだ。
不気味な独り言から一転、今度は子供のように頬を膨らませての拗ねた態度に、セルティは声は出せないけど、静かに笑みを漏らしたのだが、勘の良い彼にはバレてしまったようだ。


「何だよ……、ああそれ、森厳が長いこと欲しがってた標本。一応ホルマリンに漬かっているから、割れ物注意で宜しく。壊れても当然保険かかってないから、弁済は首なしライダー持ちになるからね」
『ちなみに値段は?』
「さあね、ネブラから……いくらくれてたっけ、波江?」
有能な秘書は、己の仕事をする手を止めず、パソコンに何やら入力しながら、こっちを見もせず言い切った。

「前金で一億。届け終わったらもう一億入る筈よ」

という事は、届け損なえば二億の負債となり、新羅共々、森厳が死ぬまで奴隷確定だ。
嫌過ぎる。

アタッシュケースを開いてみれば、箱の中はビロードで何層も包まれた上、標本も黒い布でしっかりと覆われた後、クッション材を幾重にも巻き付けてあって中身も見えない。
これが本当に、二億の価値がある物とも素直に思えなくて。
今まで運び屋仕事で臨也が自分を騙した事はないけれど、高額すぎる設定金額に、嫌な予感に身震いする。

『臨也、もしかして今回の届け物、【私】込みの金額じゃないだろうな?』

ネブラがデュラハンな自分を、捕らえて解剖したがっているのは周知の事実だけど、森厳の義娘扱いと言う事で、今のところは放置されているが、相手は機関だ。何時方針が覆るか判ったものではない。

「嫌なら断ってくれていいよ。俺に取り入りたい運び屋なんていくらでもいるし、その代わり二度と俺から仕事が回ってくるとは思わない事だね」

そう強気に出られると、彼女の仕事は殆ど臨也の紹介だから辛い。
セルティはケースの蓋をしっかりと閉じると、懐の財布に茶封筒を押し込み、彼の事務所を後にした。


★☆★☆★


首なしライダーに荷物を託す間、臨也がじっと机に突っ伏し、身を両腕で抱きしめていたのは理由があった。
彼は体内を駆け巡る、おぞましい『蟲』の囁きと戦っていたのだ。


【……駄目!!駄目!!駄目!!駄目!!これを手放しちゃ駄目ぇぇぇ!!……】


そんな甲高い声が延々と脳内に鳴り響き、体も自分の意志と真逆に、一時でも気を抜けば、きっとセルティから荷物を奪い返そうと、喚き散らして飛び掛っていただろう。

気持ち悪い。
あの眼鏡の少女。
死んだ筈なのに、いつまでも延々、臨也の記憶と心に巣食って支配力を緩めやがらない。


(俺は……、お前の【子供】になんか、ならない………。俺自身は、俺だけのものだ……)


ぎりぎりと歯を食いしばる。
身体中にべったり噴出す脂汗が気色悪い。
憎たらしい。
お荷物だった『首』なのに、このまま手放すのが身を切られるように悲しく思えるなんて。
化け物に操られ、支配されていたのがありありと自覚でき、それが悔しく、許せない。

(早く……、行け………)


ようやくセルティが、臨也の事務所から出て行った。
その途端、脳裏をあれほど這いずり回っていた蟲が蠢くような不快感が霧散する。
だが。


【あはははははははははははははははははははははははははははははははは】



心に、園原の声とは全く違う。
別な女の哄笑が、確かに響き渡った。


ぞくぞくっと肌が一気に粟立った。
自分は今、何をした?
今、一体何を手放した?

ばっと立ち上がり、臨也は洗面所に駆け込んだ。
明かりもつけずに鏡を凝視したが、己の目は全く赤く光っていない。

ああ、今は正気なんだ。
今は正気、ならばさっきは?
じわじわと、悪寒が全身に走り出す。

「俺、………やられた……!!」



そう、やられた。
俺は、もうとっくに。

罪歌に、操られていたんだ!!

今までが操られていて、罪歌を、よりによって野に放ってしまった。


「……くそっ、携帯!!」

今度は慌てて仕事机に逆戻りし、机の上に出しっぱなしの黒い電話を握り締めるが、セルティの番号を画面に出せても、その先がどうしても指が動かない。
脂汗を滲ませながら、窓ガラスに映った自分を見れば、またもやちかちかと目が赤く点滅している。
彼女に連絡を早く取り、呼び戻さなけりゃならないのに、体が言うことをきいてくれない。


(くそっ……、俺はまだ【母の望みを、叶えていない】)
「………煩い黙れ!! 黙れぇぇぇぇぇぇ!!……」


がんっと、己の頭を机にしたたか打ち付ける。

「ふざけんじゃねぇぇぇ!!」
この折原臨也を、妖刀風情が好き勝手に扱いやがって。
やられっぱなしで、この自分が黙ってる訳ないだろが。


「俺はお前なんぞに屈するものか!! 人間は俺のもの、お前達妖刀なんぞに……!!」
罪歌のファイルと、外付けハードディスクを引っつかみ、ボストンバックに放り込む。
そして、事務所のスペアキィを、波江に向かって放り投げた。

「何処へ行くの?」

そんな彼女を無視して携帯を鳴らす。

「赤林さんですか? 折原です。園原杏里の件ですが、今から有力な情報を提供します。ですから俺に協力してください。今からそっちへ行きます!!」

こっちも一方的に言いたいことだけ相手に告げ、とっとと携帯をぶっち切る。

「俺、暫く新宿を離れるから。帰りは判んないけどまあ、一ヶ月は見ておいて。その間の顧客、お前だってもう適当にあしらっておけるだろ、頼んだ」
早足で歩きながら、波江に指示を一方的に叩きつけ、いつもの黒いファーコートを肩に引っ掛けた。

体内に宿る罪歌の子供なんぞに、負けてたまるものか。

「化け物め、人間の意地をなめんなよ!!」


★☆★☆★


雇い主が豹変したのは驚いたけど、どうせもともと思考回路が常人と異なっていたし、波江も、彼が長旅に出かけるのは願ったりだ。
何せ、自分も今から大仕事が待っている。

憎い憎い張間美香。
誠司の子を身ごもるなんて、妬ましくて殺しても飽き足らない。

「けど……、誠司の子……、ふふふふふふふ、あはははははははははは」