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ありえねぇ !! 5話目 後編

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5.






「畜生……、畜生、平和島静雄、紀田ぁぁぁ……」


どうしよう?
どうしたらいいんだ?
俺は……。
俺はぁぁぁぁぁ!!


夕方、黄巾賊の溜まり場である廃工場に集まりつつある面々を前に、革張りソファーに座り込んだ法螺田は、ただ頭を抱えていた。
自身も、ミイラ男もかくやというぐらい、包帯ぐるぐるのボロボロだが、ここに今いる仲間達の3分の一が、同じ体たらくである。


これらは全て、昨日今日の2日間で、平和島静雄と、『紀田正臣』を慕い崇める、『黄巾賊の将軍親衛隊』にヤラレタ結果だ。


【竜ヶ峰帝人】がダラーズの創始者(アダム)、それは新宿を拠点にしている【情報屋:折原臨也】経由のネタだった。
だから法螺田は、絶対の自信を持って、少年の抹殺指令を出したのに。

現実は、臨也を困らせたかった彼の秘書によるガセネタ。
少年は紀田のルームメイト兼幼馴染の親友で。
しかも、折原臨也にとっても大のお気に入りだったらしく、『そっちの秘書のせいじゃねーか!!』といくら弁解しても、彼の怒りは果てしなく深くて収まらず、結局法螺田はばっさりと、後ろ盾だった彼からも拒絶されてしまった。

お陰で黄巾賊の新将軍に名乗りを上げた後、『粟楠会』に橋渡しをして貰い、ゆくゆくは組織ごと『粟楠会』の傘下に納まり、ヤクザをバックに勢力を拡大し、泉井が刑期を終えて無事に出所する頃には、盛大に出迎えるという彼の野望は、初っ端から躓いてしまった。

だが、今となっては夢を失っただけならまだ良かった。
まさか【竜ヶ峰帝人】が、平和島静雄が激怒して動く程、大切に思われていた少年だったなんて。

「俺のせいじゃねぇ……、俺は嵌められた、嵌められたんだぁ……」

頭に巻いた包帯を掻き毟ると、指が傷口に触れてじくりと痛む。
顔面も鼻骨をへし折られ、顎もガタガタな上、随分と歯も折られた。
己自身、現状鏡も見たくない程惨い有様で、これらは昨日、直々に手下三十人を引き連れて静雄にお礼参りしに行き、返り討ちにあった結果だった。

不幸中の幸い、彼は『新将軍:法螺田』の名前は知っていても、面は割れておらず、それでぶん殴られても他人のフリをして難を逃れられたのだが、一夜明けた今日、今度は池袋の街で、静雄の方から黄巾賊狩りを始めやがった。

『池袋最強』
『自動喧嘩人形』

素手で標識をへし折り、自動販売機を空高く投げるような化け物に、目をつけられ、追いかけられているのは自分だ。
恐ろしすぎる。
ありえねぇ。

「……将軍、これからどうするんっすか?……」
「うるせぇ!! 今考え中だ!! とにかく静雄に聞かれても、しらばっくれ続けろ。……くっそう、臨也めぇ………、とっとと出ろよ!!」


何度も何度も、臨也の携帯を鳴らすが、やはり着信すら拒否されている。
あいつの情報と策略があったから、こうして黄巾賊を楽々のっ取る事ができたのだ。
今後は全て一人でやっていけと急に言われたって、しかも【静雄】という緊急事態まで発生しているのに、できる訳がない。
何とか急いで臨也の機嫌を取らないと。

静雄は今池袋で『法螺田の携帯の番号を教えろ』『居場所は何処だ』『法螺田、殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス!!』と喚き散らしながら、黄巾賊の人間を、片っ端からどんどん締め上げているらしい。
でも、彼はあまり頭が良くない為、年若いメンバーが『自分は紀田のシンパ』だと嘘をつき、法螺田の悪口を一つ二つ零せば、すんなり拳を振るう事なく見逃してくれるという。

法螺田の情報とここの廃工場がチームの溜まり場になっている事は、絶対口を割るなと緘口令を敷いてあるが、人間、純粋な暴力と恐怖には逆らえない。
池袋の怒れる大魔神と対峙して、何時吐かされるメンバーが出るか判らない今、最早一刻の猶予もない。


「あ、あの……いっそ、今から折原臨也を探し出して、皆でぼこって言う事を聞かせるってのはどうっすか?」
「馬鹿か!! あいつに下手に手を出してみろ。それこそ静雄より性質が悪い。お前、家族親戚ひっくるめて、社会的に抹殺されっぞ!!」


この情報が全てを支配するような現代社会において、あいつを出し抜けるぐらい頭が良くなければ、まず脅したって無理である。


「じゃあ、平和島静雄に『これ以上暴れたら、竜ヶ峰帝人をまた襲うぞ』とか、言ったらどうすかね? 止めてくれるかも……」
「………じゃあお前がその伝言、竜ヶ峰ヤラレテ頭きてる静雄に伝えてこい。すげぇ勇気あるよな。骨は拾ってやる……」
「……嫌っす……」

できもしない事を提案した部下の顔色も、瞬時に青くなった。
当たり前だ。
いくら自分の頭が臨也より悪いといっても、それが自殺行為かぐらいは判る。

「それに、紀田の動向も気になりますし。何でも今入った情報によると、池袋の中央公園に随分と人を集めてて、池袋に偵察に行かせた中坊や高校生の兵隊、見つけ次第片っ端から狩られてるみたいっす」

法螺田は、貧血を起こして倒れそうになった。
静雄の件だけでも頭痛いのに、あの餓鬼までか!?


ダラーズの創始者を始末し、新将軍の名乗りを上げ、ダラーズのトップと親しくしていたと言いがかりをつけ、紀田を、『裏切り者』に仕立てて処刑命令を出したのは金曜日の晩。
けれど、創始者の件が根底から間違っていた今、法螺田は覇王を競っての戦いを覚悟した。

だって竜ヶ峰は『黄巾賊の創始者【将軍】の【親友】』で、法螺田はそれに手をかけて、勝手に新将軍を名乗り、紀田を抹殺しようとした男と言う事になってしまったのだ。

いくら臨也の所のトラブルに巻き込まれたと弁明したって、やってしまった過去は消えない。
クーデターを起こしたのは法螺田の側からだ。
だから彼はもう、いつ【元黄巾賊将軍:紀田正臣】に粛清されてもおかしくない。

賊を一年前に抜けたとしても、組織を一から立ち上げた創始者だ。OBの権力は絶大だし、今でも紀田を慕い、憧れてるメンバーは法螺田のシンパより数多くいる。

このままでは、池袋の街を歩けなくなるのは自分だ。
黄巾賊を乗っ取り、勢力を拡大し、ブルースクウェアと名を変え、泉井を迎えるという自分の目標どころか、今まで一年かけて黄巾賊の幹部へと上り詰め、支配力を張り巡らせてきた努力も全て水の泡である。

冗談ではない。
何とかしなければいけない。
特に黄巾賊は、この勢力は、絶対に手放したくない。
なら、方法はただ一つ。
邪魔者を排除してしまうしかない。


「………将軍は、二人もいらねぇんだよなぁ……、ああ、そうだよ。紀田と静雄が潰しあえば……、丸く納まるよなぁ………」


懐に手を忍ばせれば、金属の冷たい塊が指に触れる。
粟楠会が捜している『チョコレート』の最後の一枚……、彼らが回収しそこねた拳銃は、回り回って今ここに……法螺田が所有している。
事実、これが彼にとって、権力にしがみつく為に必要な、最後の印籠になっている。
拳銃がある限り、ここにいる誰一人、法螺田には逆らえない。
これさえあれば、池袋最強だろうが恐るるに足らない筈。

助言者を失い、二人を始末しなければ、自分がヤラレルという脅迫観念に駆られた男の精神は、ゆっくりとだが、崩壊しつつあった。



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