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ありえねぇ !! 5話目 後編

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4.




同日の夕方17時半。
岸谷家の主が、かつて無い程感動の嵐に襲われつつ、滂沱の涙を流しているらしい。


「美味しい、美味しいよセルティ!! 今までで最高の旨さだよ♪ スパイスの配合が抜群♪♪」


ちょっと腰が(と言っても、自分は首から下が全く無いのだが)引け気味な帝人の首幽霊の前で、白衣を纏った闇医者が、号泣しながらセルティお手製の【シナモンポテトアップルパイ】と【レモンメレンゲのクリームチーズパイ】、そして静雄と彼の夕飯用にと、当初は取って置くつもりだった【ピリ辛・茄子とミートのナツメグパイ】を、交互に喰らいつく様は、一体どこぞの欠食児童かと悩みたくなる体たらくだ。

一体、今まで彼は、どういう食生活を送っていたのだろう?
聞いてみたいが、恋人の微笑ましい世界をぶち壊しにするのは野暮。
それに後で後悔しそうなので、首幽霊はぐぐっと口を引き結ぶ。


(……でも、セルティさんって可愛いなぁ……)


首なし妖精な彼女も、涙を流しながら料理を頬張り、絶賛を繰り返す、恋人の嘘偽り無い賛辞がとても嬉しかったのだろう。
現在、ダイニングテーブルの椅子を彼の傍にぺとりとくっつけ、体もぴとりと寄り添い、甲斐甲斐しく皿にお代わりを盛り付け、頬についたパイ屑を、せっせとナプキンで拭ってやっている。
そんな彼女に纏わりつくうねうねとした黒い影は、途切れる事なくハートマークや♪記号を空に向い、ふよふよと止め処無く飛ばして、全身で喜びを表している。


『帝人、帝人♪♪』
こっそり可愛い彼女の仕草に見とれていたら、上機嫌なセルティが、ぶんぶん勢い良くPDAを振り回していた。
文字を読むため、彼女の手元にふよふよと近づくと、セルティは己の影まで使って、物凄い速さで文字を入力しだした。

『今度私は、新羅の誕生日用にデコレーションケーキにチャレンジしたい♪ 後、桜の花が咲いたら、夜桜見をしたいから弁当……、そう、チラシ寿司も作りたいぞ。私はいつも甘酢の加減を間違えてしまうから、日本人好みの味を教えてくれ!!』

《はい、私で良かったら喜んで♪》
『絶対だぞ帝人♪ 約束だからな♪♪』
いつもクールに見えていたのに、それがこんなに物凄く浮かれるなんて、そんなギャップが本当に微笑ましくて。
帝人もほっこりとほころんでしまう。
(……よかった♪ こんな私でも、セルティさんのお役に立てる事ができたんだ……)


だが、視界の端に【彼】を入れてしまった後、慌てて見ないように目を反らせてふと思う。
こんな事を思ってはいけないと自分に言い聞かせ、頑張ってみたのだが、それでもどうしても駄目なものは駄目だった。

二人のいちゃつきも、帝人は極力セルティの頭の無い首の付け根部分を見て、それ以外はなるべく視界に入れないようにしていたのに。

「美味しいよセルティ、メレンゲパイお代わり♪♪ 後はピリ辛ミートパイも追加して♪♪」
『はい♪』

能天気な彼の明るい声に、帝人の頭の中がむかむかしてきた。
いくら視界から遮断していても、帝人の精神安定剤である静雄が居ない今、この家の主の声を聞くだけで、むかつきが止まらない。
実は帝人の首幽霊にとって、今後も決して静雄にもセルティにも、絶対言えないと思った秘密が、たった一つだけあった。


新羅が怖い……というか、【存在自体、吐き気がする程おぞましい】だなんて。



会ったのは今日を入れてまだ二回目なのだけど、帝人がちょっと気を緩めると、直ぐに【不思議な目】のフィルターが勝手に発動してしまう。
その、変なものが見えてしまう【目】で見た新羅は、全身どす黒い【嘘だらけ】の漆黒の闇に包まれ、肌色一つ見えず、そこらのお化けよりも禍々しく歪んでいたのだ。

これは、帝人が無くした記憶の代わりに得た能力の一つだ。
人が嘘をついた瞬間、彼の目にははっきりと、その本人の口から黒い影が出てくるのが判る。


静雄も極稀に、帝人幽霊の前で平然と嘘をつこうと頑張る時があったのだが、ポーカーフェイスが苦手な彼は、言葉の黒ずみを発見する以前にバレバレだった。
それに、どちらかと言えば首幽霊を気遣っての、彼なりの優しさをまじえた隠し事らしいから、口から吐き出るウソの影も、ほんのりグレーっぽい、温かみのある色合いで済む。

しかし、新羅は全く違う。
まるで全身が、其処の空間だけ切り離し、墨汁で塗りつぶしたように、見まごう事無く真っ黒なのだ。
逆にセルティは元妖精という事もあり、例えかぐろい影に全身を包み込んでいようとも、帝人の【幽霊の目】から見れば、それすら穢れ一つ無い優しい闇。そして全身が輝く、生まれたての赤子のような、綺麗で稀有な存在だった。

静雄も、嘘がまともにつけない純朴な人だから、五歳児がそれ並みに美しい輝きを持つ肉体だ。

なのに、新羅だけ、悪い方に別格なのだ。
きっと彼は、今まで延々と、事有る毎に賛美し【愛してるよセルティ♪】といい続ける恋人にすら、数多の嘘偽りを浴びせ続けてきた筈。
本当に恋人の事を愛しく思っているなら、どうしてこうも致命的な大嘘をつき続けていられるのか?
その理由が、帝人の首幽霊には判らないし、許せない。
未だ十代半ばという潔癖で多感な年頃の少年にとって、新羅という人間を忌避し、不気味に思う十分な理由でもあった。


(きっと新羅さんって、セルティさんに真顔で嘘をつき続けすぎて、それが現実に雁字搦めになっちゃってる人なんだろうなぁ)


ちなみに、帝人がこの手のタイプと同じぐらい、墨汁で塗りつぶされた真っ黒な人を見つけたいと思えば、TVのニュース番組を見れば、まず発見できるだろう。
大抵、痴情のもつれで相手を殺してしまった元旦那とか恋人とか。
それかストーカー殺人の犯人とかだけど。

……恐ろしすぎる。

いくら首幽霊になってしまった帝人でも、極力お近づきになりたくない人種なのは確定だ。

(うううう、セルティさんも静雄さんも、この人当たりの良さげな青年の笑顔に、きっと騙されてるんだぁ)


幸せな食卓風景を繰り広げるセルティに、そっと哀れみの篭った目線をばれないように送った後、帝人はゆっくりと気配を消し、ふよふよと浮いてキッチンの奥へと戻っていった。

絶対に、この気持ちは気づかれてはならない。
セルティは天然が入っているので、帝人がドジを踏まなければまず大丈夫だろうけれど、静雄は動物的な勘が鋭いし、新羅は明らかに観察と分析能力に長けている。
もし、新羅に自分の姿が見えていたら、多分一発で見破られていたかもしれない。


帝人が新羅を苦手にするのは勝手だけど、大恩あるセルティが、心の底から愛している人なのだ。
また現在、大好きで一番頼りにしている静雄にとっても、新羅は数少ない友達でもある。
帝人自身も実験動物扱いだけど、何かと力になってくれると約束してくれた優秀な人だ。

個人の【好き嫌い】という、ちゃちな感情で、今の関係をぶち壊してはいけない。
それぐらい、帝人の頭でも理解できる。
けれど、生理的に受け付けないのも事実だから。
誰にもばれないように、こそっと頭を抱えるしかできなくて。