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ありえねぇ !! 4話目 前編

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新羅を先に病院に向わせ会社に戻ると、誰も居ない事務室では、トムが帝人をパソコン机に置いたまま、少し離れた窓辺で一服していた。
紫煙を吐き出しながら、空を眺めている上司にの元に行く。


「トムさん、竜ヶ峰の体マジでヤバイっす」
小声で話しかけた途端、びくっと肩を震わせる。
何か思案に暮れていたのだろう、静雄が帰ってきていた事すら気がついていなかったようだ。
だが、自分の告げた一言が脳に届いたのか、直ぐに真剣な表情に切り替わった。

「何かあったのか?」
「はい、今回の竜ヶ峰が轢かれた事故は、黄巾賊のトップが、抹殺指令を出しやがったせいみたいっす」
「何でまた?」

理由を聞かれて一瞬迷うが、相手はトムだ。信頼できる。
「オフレコですが、【ダラーズ】のトップが、実は竜ヶ峰だって噂に。それで……」
「あー、また臨也か。子供にまでひでぇ事するな」
「……あ、あの……、それは……」
「お前を傷つける為なら何でもしやがる。全く、しつこい蛇だ。性格破綻者が」

学生時代から、臨也は静雄が気を許した者を見つけては、憎い相手を元の孤立状態に戻す為、静雄を忌避するようになるまでとことん嫌がらせをしかけてきた男だ。
トムも例外ではなく、高校時代に何度もあのノミ蟲に嵌められた前科がある為、直ぐに思い当たったらしい。

只し、今回は勘違いである。
彼は結構早とちりをするし、不幸にも、静雄は状況を旨く説明できるスキルがない。

「ミカドちゃんの体、動かせるのか?」
「今、新羅が確認しに先に行ってます。あいつも一応医者ですし、実際状態は目で見た方が早いんで。動かすにせよ寝かせておくにせよ、安全な場所に運ぶのに、首幽霊が必要になるかもしれないので、俺は竜ヶ峰の首を新羅に届けたら、直ぐ戻ってきます」

だが、トムはドレッドヘアをがりがり掻き毟ると、再び虚ろな目で天井を向け、紫煙をふかした。


「あー、静雄。今日の分の仕事は、全く気にしなくていいぞ。うん、マジで」
「そういう訳にはいきません。今日みたいな日曜日、回収だって稼ぎ時ですよ?」
「いいっていいって。だからとっとと行ってやれ」

静雄の直感が、オカシイと囁いた。

「……もしかしてトムさん、竜ヶ峰の奴、また何かやらかしたんっすか?」

途端、ギックーんと、上司の体が強張る。
そして彼は大きく溜息を吐き、顔を背けたまま、タバコを持つ手で事務机を指指した。


「……なんつーかあの子さ……、マジすげーな? 静雄が来るまで好きにしていいべって、ノートパソコンを渡しておいたんだ。事務の姉ちゃん達は隣室だし、同僚は俺らがいる時は避けて休憩室か外に飛び出しちまうし。だからさ、暇つぶしで、インターネットで動画や無料のネットゲームで遊んで貰うつもりだったんだけど……」


いつも飄々とした上司なのに、口調が重く、言葉も濁している。
帝人の首は、パソコンの縦置きハードディスクやディスプレイの陰に隠れ、ここからでは真っ黒い旋毛部分しか見えない。
何か楽しんで没頭しているらしく、鼻歌を歌いながらリズムに乗り、頭がぴこぴこ揺れている。

そういえば自分がここに帰ってきているのに、帝人の首が《おかえりなさい♪》と、跳ねてきやがらねぇ。

「一体何を熱心にやってやが………!!」

ひょいっと覗き込んだ途端、息が止まるかと思った。
ぎゃあああああああ!!!!と、叫ばなかった自分を、マジで褒めてやりてぇ。

「……楽しみを邪魔しちゃなんねぇし、俺もちょっと正視に堪えなくてさ……」

ぽつりと呟くトムの言葉に、哀愁が漂っていた。
無理もねぇ。

帝人の首は、画面の前で楽しげにちょこちょこ揺れていた。
だが、今日の彼は、口にボールペンを咥えていない。
代わりにキーボードには、首の付け根からうねうねと蠢く、セルティと同じような影の触手が無数に伸びていて、すさまじい速さでキーボードを叩いている。

全体像から言うなれば、タコの化け物が相応しいだろう。


「何だありゃぁ!!」
「いやぁ、最初は可愛らしく上目遣いで《私も、お仕事お手伝いしたいです》っつーから、回収客の最新リストでもって、ぽちぽち入力してて貰ってたんだが……」

いつの間にか未回収客のデーター入力しがてら、ついでに色んな所にハッキングを仕掛けだし、ネット上で調べられる限りの個人資産や、戸籍や家族構成や現住所に現職等の個人情報を勝手に洗い出し始めたのだという。

だが、ハッキング行為はスピードが命だ。
相手のセキュリティに引っかかれば、まず攻防戦が始まる。
ばれればそのまま逆探知され、最悪データーを盗もうとした罪でこっちが犯罪者となり、警察にお縄となる。
ボールペン一本で、キーボード入力なんて、全然追いつける訳がねぇ。

きっと焦っているうちに、自分の潜在能力に目覚めたのだろう。経過はしんねぇけど、今は明らかに影で作った触手を駆使し、ノリノリで侵入活動を楽しんでいやがる。

プリンターから印刷され、吐き出されたてのぴらりと落ちた紙が、足元まで飛んできた。
拾ってざっと目を通せば、回収に便利な、来週一週間分のスケジュール表だ。

今まで、一日大体五件程度しか回れない自分達なのに、ワーキング・シートには毎日十五件もの回収予定が組まれている。
続いて吐き出された紙は、月曜日の客の個人情報と、家までの道順から、次の回収先まで、バスや地下鉄の駅名や地図、それにタイムテーブルまで予想され、ばっちり無駄なく動けるように調べ上げられている。

一緒に覗き込んでいたトムが、再び深い溜息をついた。

「……ホント、見てくれの平凡さからは信じられないぐらい優秀な子だべ。うちの会社、バイトでいいからこの子一人雇ったらさ、俺達回収業者の人件費が半分以下ですむんじゃねーか?」
「……そうっすね……」

リストラが始まるか、社長が欲をかき、業務拡大に走るかは知らないが、帝人の存在は会社にとってとんでもないインパクトになるのは間違いないだろう。

(ああ、そういや紀田の前で、俺……、同じ事言ったっけ)


『竜ヶ峰が平凡? ありえねぇだろが。十分インパクト絶大だろう』
そう呟いた途端、紀田の琥珀色の瞳が、まんまるに見開かれた。
『そう、そうなんです。帝人の本当の良さを理解できるなんて、結構鋭いですね、平和島さんは…………』


あの時は飛び跳ねる首幽霊が、珍しい存在だと思ったから、素直にそう言っただけに過ぎない。
だが今は、池袋最大カラーギャング【ダラーズ】を作り上げた【創始者】だって知って……、さっきまでありえねぇって思っていた癖に、このパソコン仕事を見て、今は納得しちまえそうになっている自分がいる。


こくりと喉が鳴った。
【竜ヶ峰帝人】って、本当は一体どんな奴だったんだろう?


自分が知っている以前の五体満足な彼は、平凡な外見の単なる高校生で、自分をヒーローのように熱っぽく憧れてくれる珍しい存在だった。
話していてば癒され、小動物みたいに和む奴。
ただ其れだけだった。

だが、今は知りたい。
竜ヶ峰帝人は、一体どんな風にダラーズを作ったのだろう? 何の為に? どういう思いで?

失くしてしまった彼の記憶が、本当に悔やまれる。