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ありえねぇ !! 4話目 前編

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『赤林のおじさん、折り入ってお願いがあるのですが』

園原杏里から電話があったのは、秋の初め頃だった。

『私、引越ししたいんです』

クラスで仲の良い友人ができ、その子達の隣室が空いたのだという。
けれど、杏里は未成年。
部屋を借り直すのも保証人と保護者が必要で、彼女には赤林しか頼れる大人が居なかった。

『紀田君と竜ヶ峰君は、私を守ってくれるんです』

彼女は中学時代、手酷い虐めを繰り返し受けていた。
その原因は自分だ。
赤林は定期的に彼女と食事を一緒にし、私話を聞いていた。
だが、そんなささやかな逢瀬すら、目撃した女子生徒達に、【あいつ、援助交際してた】と誤解され、学校中に噂を広められてしまったのだ。

心配した唯一の親友が、態々ランクを落として同じ高校を受験してくれたと聞いていたから安心していたのに、その娘が高校で恋人を作った為、あっさり疎遠になってしまった。
その途端、また同じ中学だった奴らが、再び虐めの標的にしてきたらしい。


「でもね、その友達は男の子なのだろう? おいちゃんは賛成できないなぁ。杏里ちゃんは女の子なのに何かあったらどうする?」
『私に対して性的な事や、下心とかなら、全く心配いらないです。だって、二人は恋人同士なんですもの』

聞き間違いだと思いたかった。
他人の性癖は何だろうが構わないが、自分が保護してきた大切な娘に、あえて社会的にカミングアウトしている輩を関わらせようなんて思わないだろう。

「……あの、杏里ちゃん、それは……、所謂『ホモセクシャル』という奴かね?」
『おじさん、そんな色眼鏡で見ないで下さい。彼らは男の人が好きとかじゃなくて、お互いだから愛してしまったんです。性別が同じなのは不幸でしたが、傍から見てても応援したくなるぐらい純愛で、今はもう……、私にとって、友達というよりも……、紀田君がお父さんで、竜ヶ峰君がお母さんみたい。そんな風に、安らげる家族みたいな存在なんです』
(杏里ちゃん、勘弁してくれぇぇぇぇぇ!!)


どうやら彼女の役割は、二人同時に惚れられている設定の、カモフラージュ用の女の子らしい。

物知らずでピュアな彼女が、ホモカップルなんぞに良い様に利用されては堪らない。そう断定した自分は、彼女の為だと心を鬼にし、ろくに話を聞かないまま突っぱねる事に決めた。
男子生徒二人に恋われているなどと思われれば、妬まれ、更に女生徒からの苛めが酷くなるに決まっている。

「おいちゃんは、杏里ちゃんがその子達と付き合うのは反対だなぁ。あんまり彼らが図々しい事を言ってきたら、つい腹を立てて、さくっと埋めちゃうかもしれないよ♪」
さらっとそんな、釘まで刺した。


結果、彼女の口から二度と、二人の少年の話題と、引越しの件は出る事はなかった。


それから数ヶ月後。
今から丁度九日前。



来良学園の制服姿の男子生徒二人が、この、粟楠会の所轄する事務所に駆け込んできた。
例え、杏里から前もって赤林との関係話を聞いていたとしても、年若い彼らが、池袋でもバリバリ活躍中の暴力団事務所に入るのは、さぞかし怖かっただろうに。

だが、紀田正臣と竜ヶ峰帝人という名の少年達は、大勢のヤクザに囲まれ、凄まれ、どやしつけられても、『赤林さんに会わせてください!!』『僕達は園原杏里の件で話があって来ました』と、一歩も引かない。
今時の子にしては珍しく、一本筋が入ったような、将来が楽しみな子達だった。
だから、杏里に付きまとう害虫風情が、大した根性みせるんじゃねーかと、悪感情を持ちつつも、話ぐらいは聞いてやる気になったのだ。

だが……。

「赤林さん、園原さんを知りませんか? 昨日から全く連絡が取れないんです。学校にも来てないし、家に行っても彼女、部屋に居る気配が無いみたいで」
「杏里、二学期からずっと、那須島ってセンコーに、『一緒に逃げよう』って執拗に言い寄られてたんだ。そいつも昨日から姿消しやがってて……」
「警察の捜索願いは、身内でないと駄目なんですよね? だから、どうか早く……園原さんを……、あのエロ教師から助けてやって下さい!!…………だってあいつ、二学期になって職員室で別な女子生徒と、刃傷沙汰起こしたって……、園原さんこの前、その女に刃物で襲われたし……、ふううう、えっえっ……」
「ああああ、だから俺達と一緒に住もうって言ったのに、変な遠慮ばっかしやがって、馬鹿杏里が!! 強引に攫えば良かった。俺達で守ってやれれば……、ちくしょう、ちくしょう!!」



涙脆い黒髪の少年がしゃくりあげて泣き出し、金髪の少年も、彼の肩を抱きしめながら唇を噛み締める。


だが、自分のショックはもっと上だ。
今更悟ってどうする?
秋に『引越したい』と言っていたのは、自分の身を守る為。
彼ら二人だって、真剣に杏里を守ろうとしてくれていたなんて。



俺は馬鹿だ。
何故彼女の話をきちんと聞かなかった?
何故二人を『埋める』なんて脅した?
そうすれば、こんな事になる前に防げたかもしれないのに。


★☆★☆★


簡素な三階建てマンションの前に、スモークガラスで窓を覆った黒塗りの車二台を横付けで止める。
派手な柄のスーツに、色の入ったサングラスをかけた集団と、それらに囲まれた来良の制服を着た二人が一斉に降りれば、一般人なら何かあったのかと怯えるだろう。


まだ日も高く、学校帰りの子供や、世間話に花を咲かせていた主婦達が、遠巻きにしつつ顔を蒼白にして、怯える視線をこちらに向ける。
だが赤林は堂々と配下達と少年らを引き連れ、己が後見している娘が住む部屋を目指し、仕込み刃が入った重い杖を突きながら、階段を駆け上がった。
もう世間に隠している余裕なんてない。

【やくざが面倒を見ているなんて知られればどうなる?】と、彼女の将来を思い、なるべく関わりを持たないように、距離を置いた結果がこれだ。
行方不明なんて。
しかも学校の教師に拉致されたかも知れないなんて。
学校は? 担任は? 一体何をやっていたんだ!!
 
「お前達はここで待っていろ。二人はおいちゃんと一緒に来てくれ」
「「「へい」」」
「「はい」」

管理人から預かった鍵で、【園原杏里】の部屋の扉を開く。


其処はたったワンルームしかない簡素な間取りで、玄関から全てが一望できた。
物が必要最小限しかない部屋は、食器棚も、洋服ダンスも、本棚も、全て綺麗に片付けられている。

まるでモデルルームのように生活感が無くなった場所に、温もりが感じられたのは勉強机の上だけだ。

ちょこんと置かれた三十センチのミッキーマウスのぬいぐるみ。
それと背後に立てかけられたコルクボードには、数枚の写真が丁寧に貼られている。
殆どが紀田正臣と竜ヶ峰帝人のツーショットだが、下段の一番隅に、ひっそりと杏里の姿があった。


夏休みに、三人でディズニーランドへ遊びに行ったのだろう。
シンデレラ城を背景に、これと同じぬいぐるみを抱きかかえた杏里を真ん中にして、少年達二人が、彼女の肩をそれぞれ抱き、ピースサインをして写っている。

小さなフレームの中で、彼女は幸せそうに笑っていた。
心底嬉しそうで。
それは赤林が、今まで見た事もない表情だった。