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樹を降りる

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ウォリアーの独白1



 明るい日差しの下、どこかほこりっぽい路地を抜けたどりついた建物は、やけに人気がないように見えた。
 ここアーモロードでは、大々的に冒険者を募っていて、かつ待遇もいいとのことで、おしのびの王族から身元を明かしたくない怪しげな連中まで、さまざまな連中が我も我もと押し寄せていると聞いた。だからこそ、おれもここにいるわけなんだが――この閑散としたさまはどうだ。まるで世界樹の全容があばかれてしまったかのようだ。
 もしかして建物が違っているのではないかと疑いながら、おれは人気のない建物にかかったプレートを見た。……確かに冒険者ギルドと書いてあるようだ。
 まぁ、こんなところで迷っていてもしかたがない。本格的にメンバーを集めるのはこの後の所用をすませてからとはいえ、手続き方法くらいは確認しておいてもばちはあたるまい。そう思っておれは、南国独特の軽い扉へと手を伸ばした。
 ……あかない。お役所ならば扉は開かれていてしかるべきなのだから、予想の範疇ではあったものの、さて。事情がわからないようでは、この後の用事にも支障をきたす羽目になる。とはいえ、どこで事情を聞くべきか。
 まずは門のところにあった詰め所にでも行ってみるかときびすをかえそうとしたところ、おおいと背後から声がかかった。槍を手にし、ぶかぶかの日よけを身につけたこの国の衛兵がいた。
「今日は冒険者ギルドは休みだよ」
「一体どう言うことだ」
 世界樹が征服されたとでもいうのかというおれの問いに、衛兵は緩慢な動作で首を横にふった。
「その逆だ。なかなか先がみえないってのもあって、最近は世界樹に入りたいって希望者が激増しているんだ。あとはそう、近海にとんでもない海賊が出やがってなぁ、丘水夫が激増してる」
 だから、と。そう言って衛兵は冒険者ギルドを見た。
「しばらくは整理券待ちだ」
 は? と。間抜けに問い返すおれに対し、衛兵はかんでふくめるような口調で事情を説明した。
「本格的な探索の許可が出る前に、最初の階層でちょっとした試験があるんだが。……階層中に試験中の冒険者があふれかえってるようじゃあ、試験になんないだろう。だから、冒険者ギルドは登録を休んでるんだよ」
 候補者が多いのはいいことなんだがなぁ、と。衛兵は大きく嘆息する。
「ちょっと待て、何だそれは!」
 整理券? 順番待ち? いったいどれほどの冒険者が世界樹最奥を目指しているというんだ。
「まぁ、ひところに比べりゃ多少は落ち着いてきてるけどな。海賊を追い払えりゃ、海に戻る船乗りの連中も出るだろうし」
 混乱のさなかにあるおれを、どこか気の毒そうに見ながら、衛兵は元気を出せと言った。……いや、落ち込んじゃあいないんだが。
「その、なんだ。整理券とやらはどこで手に入るんだ」
「元老院にいきな。ついでにお偉いさんの顔でも拝んでくるといい。あとは、酒場(あっせんや)かね。整理券は一枚あればギルドメンバー全員分の登録ができるから、資格持ち連中にはいりこむのも手だ」
 なるほど。……まぁ、今回その手段は使えないわけだが。おれは気のいい衛兵に礼を言った。衛兵は、大したことじゃないと手をふると、じゃあなと言ってゆっくりと立ち去っていった。
 おれはその背中を見送ってから、太陽の高さを確かめた。足元の影は限りなく小さい。約束の時間には、まだしばらくあるだろう。一つうなずくと、元老院へと足を向けた。

fin.

作品名:樹を降りる 作家名:東明