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クリスタル

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ダイアモンドを溶かす熱



「君はねえ、一生懸命過ぎるんだよ」
 それは言葉を選んだ結果ですか、と問われたら苦笑するしか無かったけれど、その顔を作ることは簡単だったけれど、万が一という言葉がふと頭を掠めて、払拭出来ない自分に気づいてしまったから、犯してもいない失敗を取り繕うとして、剣呑な気配を発してしまった。
「金属なんだね」
 その瞬間に、反論するならそれもいいと思っていたけれど(何故なら、そう言った自分が、その言葉を信じてはいない)、返事が無かったから、半ばほっとして、そのまま、続きの言葉に音を乗せた。
「すごく、熱しやすい」
「でも、冷めやすいですか?」
「ああ…」
 苦笑、するしかなかった。
「分かっているね。君はとても、君のことを分かっている」
「私は……私のことを、分かっているとは、思いません」
 そうだね。呟くように言って、また、苦笑する。
「だから、つまり」
 次の言葉へ移るのに、間を作ったつもりなんてなかったけれど、その時確かに自分は言葉を切ったのだと、ボクは思った。そう、思った。
「君は、君が思っている以上に熱しやすくて、君が思っているより、ずっと冷めやすいんだよ」
 きっと君は気づくと思う。もしかしたら疾うに気づいていたのじゃないかとも思う。その刹那に満たない空白は、それこそが出来損ないの模範解答なのだと。だから、だから、どうか。
「だから、駄目なんですね」
 どうかこれ以上は(ボクの戯言なんかに、君は、傷つく必要なんてこれっぽっちも無いから)。
「だから私は……私じゃ、駄目なんですね?」
 彼女の瞳から、滴が零れた。ダイアモンド。融解、した――。溶けてしまった。どうして、今になって。
「それでも私は、あなたが好きなんです」
 砕けなかったダイアモンド。その硬さ故に脆さが目立つはずのそれは、どこまでも硬く、冷たく。けれど、彼女のそれを、溶かす熱を与えたのは確かに自分だ。融点3500℃。彼女のダイアモンドを、ボクが溶かした。
「うん」
「好きです」
「うん」
「好き、なんです」
 それなのに彼女を……彼女の想いを、殺す言葉を、見つけられないでいる。
「ごめんね」
 口にすることは出来ないから、胸の中で呟く。こんなにも君が、好きでした。
「ごめんね」
 口にすることは出来ないから、心の中で語る。この想いは、過去形ではないのだと。
「――さん、」
 言えやしない。言えや、しない。今更。とっくに諦めて……いたから。今も。君の瞳から逃げ出したくて、逃げられなくて。疾うに捕まっているのに、捉えられているのに、君は、気づかないままに、冷えていくから。
「だから、手を抜かないで」
 見つめてくる目に縋る色は全く見えない。けれど震えて……声が、震えて。滲むのは涙。気づかぬ振りをした嗚咽が、また、溢れ出す。触れる資格などボクにはありはしないから、伸ばせぬ手のもどかしさを、殺そうと藻掻いた。
「手を抜かないで、きちんと」
 言い訳にすらならないけれど――思いもしなかった。与えた熱が、無駄だと知って手放したはずの想いが、今になって彼女を、すっかり溶かしてしまうなんて。温度が、保たれて、加熱されていて――ああ、それなのに。
「ごめんね」
 ボクには、再結晶化した彼女の想いを(その破片でさえも)、握りしめられない。砕けない。その勇気が無いから、決定的な言葉を見つけられないまま、ボクは立ち尽くす。立ち尽くすというのは久しくしていなかったから――すっかり忘れていた焦燥に、それを覚えた自分に、ひどく、困惑した。

   *   *   *

(高すぎたのだ。この熱はようやく彼女を溶かしはしたけれど、ボクはすっかり、焼け爛れてしまった)




   − ダイアモンドを溶かす熱 − END −


作品名:クリスタル 作家名:覇王