クリスタル
翻弄される、その温もりに
「君はねえ、一生懸命過ぎるんだよ」
それは言葉を選んだ結果ですか、と尋ねようとした口を噤んだのは、彼の目があんまり穏やかで、凪ぎのようで、そのくせ涼やかな甘さの中にひりりと辛さを感じさせる、“危険ではないが安全でもない”という、一種、皮膚感覚に似た直感を私に抱かせたからだ。
「金属なんだね」
私の沈黙を、取りあえず続きを聞く意志があるという返答と受け取ったらしい彼は、きっと私にその意志が無くても続けただろう言葉を、舌の上に踊らせた。
「すごく、熱しやすい」
「でも、冷めやすいですか?」
「ああ…」
彼は。微笑した。
「分かっているね。君はとても、君のことを、分かっている」
「私は……私のことを、分かっているとは、思いません」
そうだね、と彼はまた微笑した。
「だから、つまり」
次の言葉へ移るのに、間があったなんて思わなかったけれど、その時確かに、彼は言葉を切ったのだと、私は思った。そう、思った。
「君は、君が思っている以上に熱しやすくて、君が思っているより、ずっと冷めやすいんだよ」
それはきっと、私には分かっていたからだと思う。私には分かってしまっていたのだと思う。その刹那に満たない空白は、それこそが答えなのだと。だから、だから、私は。
「だから、駄目なんですね」
胸が震える。肩が寒い。誰が氷を温めたの。溶けかけの頃が、一番、冷たくて、寒いのに。
「だから私は……私じゃ、駄目なんですね?」
まだ、駄目だ。氷を、落としては駄目。手放してしまいたい。駄目。落としてしまいたい。まだ、待って。
「それでも私は、あなたが好きなんです」
指の先から凍えて、血液を凍らせて、冷える、冷える、凍る、 落 ち る 。
「うん」
「好きです」
「うん」
「好き、なんです」
滲んだのは、声ではなくて、喉だ。溢れるのは嗚咽。ああ、こんなにも。
「ごめんね」
こんなにもあなたが、好きです。
「ごめんね」
好 き 。
「――さん、」
溶けて罅入り砕けて落ちた、割れた欠片を拾い握った、滴る色をただ見送った。滲まず床に溜まっているそれは、ただ、液面から分子が飛び出すのを待っている。
「だから、手を抜かないで」
見つめた目は縋る色をしていなかったと確信しているけれど、その努力を全て無に帰してしまったのは、この、震えて涙の滲んだ声だ。止めたはずの嗚咽が、また、溢れ出す。
「手を抜かないで、きちんと」
この想いを殺して下さい。私は確かにそう言いたかったのに、彼が首を小さく振って、それに合わせて前髪が揺れて、気づいたらもう、顔が見えなくなっていて。
「ごめんね」
ただ繰り返される静かな声に、私は、いつまでも地面にたどり着けずに、ただ落ちていくばかりの氷の欠片を思い浮かべた。確かに溶けていくのに、与えられる熱の源は、決して、見えない。
* * *
(そして、気化するだけの熱は、与えられないままで――)
− 翻弄される、その温もりに − END −



