もう一度、ミラクル・ロマンス
「好きだよ。好き…なの」
「あ――…ごめん…。俺、好きなやつ…いるから」
ふざけんなよ、黄道十二宮!
星座の瞬き数えたって占えるもんか。小麦粉よりも粉々だ、こんちくしょう。
――まさに玉砕。玉なんて、綺麗な言葉でごまかしたって失恋したことに変わりはない。
誰だよ「双子座は恋愛運が最高☆」つったのは。そうだメグちゃんだ。てっきり女子アナかと思いきやそんなことはなくて、じゃあ何で朝のニュース番組に出てんだよと今も疑問が解けないメグちゃん。かわいこぶって「今日も元気にいってらっしゃ〜い」なんて笑顔振りまいてんじゃねえぞメグちゃん。恨むぞメグちゃん。「意中の相手に勇気を出して告白してみよう!」って言うからその通りにしてフられたらどうすればいいんだ。責任取ってくれるのか?
「ねえ、斎藤ー」
「何だ」
「慰めろ!」
「……ゲゴフッ!! おま、ちょぉ、いきなりラリアットはないだろ!?」
「うるさいあたしの恋を返せー! メグの馬鹿野郎ー! 『おめざでフレッシュ』なんてもう見ないからなー!」
「はあ?」
「バカバカバカバカこんちくしょー!」
「落ち着けよ、な? 話聞いてやるから、頼むから、暴力は止めろ!!」
* * *
奇跡だ――と思ったんだ。
好きだと思った人が好意を向けてくれる、それは奇跡だって思ったんだ。何て素晴らしいんだろう。甘酸っぱいなんてことはない。ひたすら甘くて、幸せだったんだ。
「デートなんて、言わなかったけどさ。何度も一緒に遊んだんだよ。二人っきりだったんだよ。どこの恋愛小説だよって自分でも突っ込みたくなるくらい、ベタだったんだよ」
夏休みの終わりが、あたしの恋の終わりだった。
「あたしだけだったんだ。好きって言ってなかったの、あたしだけだった。あいつはさ、何度もあたしに好きだって言ってくれた。告白じゃなかったけど……あんまり、さりげなく何度もいうから、あれは告白じゃないって、思ってたけど。あたし、照れてたし、恥ずかしかったから、「ふうん」としか言わなかった。意味なんて、聞かなかった。友達ならわざわざ言わないって思ってたし。ねえ、普通そうじゃないの?」
手が触れ合って慌てて引いて。肩がぶつかってドキッとして。目が合って、逸らしちゃって。お互いに挙動不審になりながら、それでも離れないで。
「あたしが悪いの? さっさと素直にならなかったから? あたしが最初に言うべきだったの? 好きだって告白すべきだったの?」
強気な小心者のあたしは、勇気を出すのに二ヶ月半かかった。その二ヶ月半が駄目だったの? 遅かった? 時間かけすぎ?
「怖かったのに……。本当の本当の本当に脈があるか、なかなか見極められなくて。でも、可能性があるってわかって、だから勇気出して、それでようやく告白したらフられてんの。バカみたい。惨めだ。これが嫌だから、恋なんて基本的にはしないって、決めてるのに」
勇気を出した結果がいつも失敗で、それって、もう恋なんてするなって神様に言われてるみたいじゃない? 信じてないけど。でも。告白の前にはいつだって祈った。ああ、それが駄目だった? 都合の良いときだけ頼るなって?
「ねえ、斎藤」
どん、と背中を叩いた。ラリアットかましたときは盛大に騒いだくせに、今は唸りもしないで、だからあたしは「本当に聞いてんのか、コイツ?」と疑問に思わなくもなかったけど、必要なのは本当に聞いてくれることじゃなくて、側にいてくれることだから、あたしが垂れ流す怨嗟の言葉を聞き流してくれることだから、だから、しゃくりあげながら続けた。
こういう時、田口みたいにニヤニヤと笑いながらからかってくるような男子じゃない斎藤は、ありがたいと思う。本当に。
だから、これは、定番だった。あたしが恋をして、フられて、斎藤に八つ当たりをするのは。
「それでも好きだった時間は無駄じゃないなんて、思えるほど、あたし、大人じゃないし。むやみやたらに突っ込んでって砕けるのを何度も繰り返してそれでも笑って「あーあ、また次の恋で頑張ろう」って思えるほど、前向きじゃない。でも、声をかけてきて一緒に遊んで、メールをくれて、あたしのいいところを三個以上も挙げてくれる、そんな人が現れたら、また好きになっちゃうんだよ。怖いから友人の位置から動かないで、ギリギリのギリギリまで相手を観察して、本当に脈がありそうか窺って……勇気を出そうって決めて、それで告白したらまたフられるんだ。本当に脈があっても、遅すぎて、ダメにするんだ」
そこまでわかっていても、早く攻めることなんてどうしても出来ないあたしは、何度も繰り返すんだ。いい加減嫌になっても、思いは止められないから。
「斎藤、あたし、もう、恋なんてしたくないよ……」
鼻水まで出てきて、あたしは思い切りすすって、涙が溢れてきて、それを袖でぐいと拭ったら、ヒリヒリとした。
いつもは、そこで斎藤が振り向いて「ああもう」と呆れた声で笑って、「女の子だろーが」って掠れた声で優しく窘めて、そして、「そんなこと言わないでさ、何度でも恋すりゃいいじゃん」って。「恋してる女の子は綺麗とか何とか、言うだろ?」って。照れながら言ってくれるんだ。くさくてもあたしはその言葉でほんの少し気が楽になって、そして一週間とちょっともすれば元通りになって、そして恋をするんだ。
でも、もう、さ。あたし、嫌だよ。
「あたし、そこまでブスかなあ? 顔、人並みだと思ってたけど、本当はブス? 性格もダメ? 素直じゃない子は幸せになれない?」
今日は、涙が、いつまで経っても止まってくれないし、斎藤がいつまで経っても振り向いてくれないし、ああ、もう、ダメかな。いい加減、あたしも斎藤も、ダメなのかな。
あたしはもう恋なんて出来ないし、斎藤はもう、あたしの話なんか聞いてくれない。
そう思ったら涙がさらに溢れて流れて、痛いのはわかってるけど袖口で拭ったらやっぱり痛くて、その痛みで涙がまた溢れて、あたしはもうどうにもならなくなって、声をあげて泣こうとした。
そうした、ら、
「サイテーだな」
ぽつりと呟いた斎藤が、ゆっくりと振り向いて、ぐしゃぐしゃになったあたしの顔をじっと見つめて、手を伸ばしてきた。
「お互いに、わかってることじゃん。なあ? 相手が、好意もってることくらい……西島がわかってんだからさ、相手だって、わかってるよなあ?」
涙を拭って、「なあ、西島」って。今までも優しい声で慰めてくれたのに、今日はもっと優しい声で。
「どうして、告白しないで、させようって思うんだろうな。さっさと言えばいいのは、そいつらの方だっつーの。……こんなに泣かせて、サイテーだな、本当に」
「っ、斎藤、」
「笑える。ていうか、笑えねえ。……自分も、そーいう奴らと同類になるところだった」
さっきからすっかり思考の止まっているあたしは、ただ斎藤の顔を見つめながら涙を流すだけだ。
「弱みにつけ込むのもサイテーだと思うけどな。でも、もう、嫌だ。泣いてる西島を見るのは、嫌だ。だから終わりにしようぜ」
一瞬だけ、自嘲気味に笑って。
「好きだ」
ぽつりと言った。
「ずっと、西島が好きだった」
「――…、っ、っ」
「あ――…ごめん…。俺、好きなやつ…いるから」
ふざけんなよ、黄道十二宮!
星座の瞬き数えたって占えるもんか。小麦粉よりも粉々だ、こんちくしょう。
――まさに玉砕。玉なんて、綺麗な言葉でごまかしたって失恋したことに変わりはない。
誰だよ「双子座は恋愛運が最高☆」つったのは。そうだメグちゃんだ。てっきり女子アナかと思いきやそんなことはなくて、じゃあ何で朝のニュース番組に出てんだよと今も疑問が解けないメグちゃん。かわいこぶって「今日も元気にいってらっしゃ〜い」なんて笑顔振りまいてんじゃねえぞメグちゃん。恨むぞメグちゃん。「意中の相手に勇気を出して告白してみよう!」って言うからその通りにしてフられたらどうすればいいんだ。責任取ってくれるのか?
「ねえ、斎藤ー」
「何だ」
「慰めろ!」
「……ゲゴフッ!! おま、ちょぉ、いきなりラリアットはないだろ!?」
「うるさいあたしの恋を返せー! メグの馬鹿野郎ー! 『おめざでフレッシュ』なんてもう見ないからなー!」
「はあ?」
「バカバカバカバカこんちくしょー!」
「落ち着けよ、な? 話聞いてやるから、頼むから、暴力は止めろ!!」
* * *
奇跡だ――と思ったんだ。
好きだと思った人が好意を向けてくれる、それは奇跡だって思ったんだ。何て素晴らしいんだろう。甘酸っぱいなんてことはない。ひたすら甘くて、幸せだったんだ。
「デートなんて、言わなかったけどさ。何度も一緒に遊んだんだよ。二人っきりだったんだよ。どこの恋愛小説だよって自分でも突っ込みたくなるくらい、ベタだったんだよ」
夏休みの終わりが、あたしの恋の終わりだった。
「あたしだけだったんだ。好きって言ってなかったの、あたしだけだった。あいつはさ、何度もあたしに好きだって言ってくれた。告白じゃなかったけど……あんまり、さりげなく何度もいうから、あれは告白じゃないって、思ってたけど。あたし、照れてたし、恥ずかしかったから、「ふうん」としか言わなかった。意味なんて、聞かなかった。友達ならわざわざ言わないって思ってたし。ねえ、普通そうじゃないの?」
手が触れ合って慌てて引いて。肩がぶつかってドキッとして。目が合って、逸らしちゃって。お互いに挙動不審になりながら、それでも離れないで。
「あたしが悪いの? さっさと素直にならなかったから? あたしが最初に言うべきだったの? 好きだって告白すべきだったの?」
強気な小心者のあたしは、勇気を出すのに二ヶ月半かかった。その二ヶ月半が駄目だったの? 遅かった? 時間かけすぎ?
「怖かったのに……。本当の本当の本当に脈があるか、なかなか見極められなくて。でも、可能性があるってわかって、だから勇気出して、それでようやく告白したらフられてんの。バカみたい。惨めだ。これが嫌だから、恋なんて基本的にはしないって、決めてるのに」
勇気を出した結果がいつも失敗で、それって、もう恋なんてするなって神様に言われてるみたいじゃない? 信じてないけど。でも。告白の前にはいつだって祈った。ああ、それが駄目だった? 都合の良いときだけ頼るなって?
「ねえ、斎藤」
どん、と背中を叩いた。ラリアットかましたときは盛大に騒いだくせに、今は唸りもしないで、だからあたしは「本当に聞いてんのか、コイツ?」と疑問に思わなくもなかったけど、必要なのは本当に聞いてくれることじゃなくて、側にいてくれることだから、あたしが垂れ流す怨嗟の言葉を聞き流してくれることだから、だから、しゃくりあげながら続けた。
こういう時、田口みたいにニヤニヤと笑いながらからかってくるような男子じゃない斎藤は、ありがたいと思う。本当に。
だから、これは、定番だった。あたしが恋をして、フられて、斎藤に八つ当たりをするのは。
「それでも好きだった時間は無駄じゃないなんて、思えるほど、あたし、大人じゃないし。むやみやたらに突っ込んでって砕けるのを何度も繰り返してそれでも笑って「あーあ、また次の恋で頑張ろう」って思えるほど、前向きじゃない。でも、声をかけてきて一緒に遊んで、メールをくれて、あたしのいいところを三個以上も挙げてくれる、そんな人が現れたら、また好きになっちゃうんだよ。怖いから友人の位置から動かないで、ギリギリのギリギリまで相手を観察して、本当に脈がありそうか窺って……勇気を出そうって決めて、それで告白したらまたフられるんだ。本当に脈があっても、遅すぎて、ダメにするんだ」
そこまでわかっていても、早く攻めることなんてどうしても出来ないあたしは、何度も繰り返すんだ。いい加減嫌になっても、思いは止められないから。
「斎藤、あたし、もう、恋なんてしたくないよ……」
鼻水まで出てきて、あたしは思い切りすすって、涙が溢れてきて、それを袖でぐいと拭ったら、ヒリヒリとした。
いつもは、そこで斎藤が振り向いて「ああもう」と呆れた声で笑って、「女の子だろーが」って掠れた声で優しく窘めて、そして、「そんなこと言わないでさ、何度でも恋すりゃいいじゃん」って。「恋してる女の子は綺麗とか何とか、言うだろ?」って。照れながら言ってくれるんだ。くさくてもあたしはその言葉でほんの少し気が楽になって、そして一週間とちょっともすれば元通りになって、そして恋をするんだ。
でも、もう、さ。あたし、嫌だよ。
「あたし、そこまでブスかなあ? 顔、人並みだと思ってたけど、本当はブス? 性格もダメ? 素直じゃない子は幸せになれない?」
今日は、涙が、いつまで経っても止まってくれないし、斎藤がいつまで経っても振り向いてくれないし、ああ、もう、ダメかな。いい加減、あたしも斎藤も、ダメなのかな。
あたしはもう恋なんて出来ないし、斎藤はもう、あたしの話なんか聞いてくれない。
そう思ったら涙がさらに溢れて流れて、痛いのはわかってるけど袖口で拭ったらやっぱり痛くて、その痛みで涙がまた溢れて、あたしはもうどうにもならなくなって、声をあげて泣こうとした。
そうした、ら、
「サイテーだな」
ぽつりと呟いた斎藤が、ゆっくりと振り向いて、ぐしゃぐしゃになったあたしの顔をじっと見つめて、手を伸ばしてきた。
「お互いに、わかってることじゃん。なあ? 相手が、好意もってることくらい……西島がわかってんだからさ、相手だって、わかってるよなあ?」
涙を拭って、「なあ、西島」って。今までも優しい声で慰めてくれたのに、今日はもっと優しい声で。
「どうして、告白しないで、させようって思うんだろうな。さっさと言えばいいのは、そいつらの方だっつーの。……こんなに泣かせて、サイテーだな、本当に」
「っ、斎藤、」
「笑える。ていうか、笑えねえ。……自分も、そーいう奴らと同類になるところだった」
さっきからすっかり思考の止まっているあたしは、ただ斎藤の顔を見つめながら涙を流すだけだ。
「弱みにつけ込むのもサイテーだと思うけどな。でも、もう、嫌だ。泣いてる西島を見るのは、嫌だ。だから終わりにしようぜ」
一瞬だけ、自嘲気味に笑って。
「好きだ」
ぽつりと言った。
「ずっと、西島が好きだった」
「――…、っ、っ」
作品名:もう一度、ミラクル・ロマンス 作家名:覇王



