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ルノ・ラダ ~白黒~

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訓練中



その男はラダにせまった。


毎日のように志願してくる者がいる。
かといって誰でも入れるわけではない。
中にはスパイがいるかもしれないし、役に立つどころか、戦いのたの字も知らないような何しに来たの?と聞きたくなるような者もいる。
そういう人でも、どうしても自分もともに戦いたいというきちんとした人物なら、兵士ではなく違うところでの仕事を紹介してはいたが。

だからきちんと受付をし、毎週決まった日に面接と試験を行っていた。そこである程度の履歴や人柄、腕前をはかりふるい分けていた。

ラダは基本それには参加しない。
最初顔を出していたら、試験を受けに来ていた者が皆ラダに気をとられて気もそぞろになっていたので、それ以来邪魔にならないよう顔を出さないようにしていた。
だがその反面ラダの顔を知らないまま入隊してきている者ばかりなので、初めてラダを見た者は大抵ラダの魅力にそそられ声をかけてくる。
声をかけてこない者も、ただそういったことに臆病なだけで、ラダをこっそり見たりしていた。そういった反応にもいい加減慣れてはいたが、たまにしつこい、たちの悪い者もいた。

この男もそうだった。

「よお、何で無視すんだ?なあ、こっちこいよ?お前何だ?その細っこい体で戦う気かよ?やめときなって。そんな事より俺を楽しませちゃくれねえか?良い思いさせてやんぜ?」

ニヤニヤとしながらテントの中にいるラダにそう声をかけてきた。
今回は戦いではなく演習だった。なのでラダはたまたま歩いていたルノにもたまには見学しませんか、と声をかけて一緒に来ていた。

「っお前っ・・・」

あまりにも下品な物言いに、いつもは温厚なルノは隅に座っていたが立ち上がりその男に向かおうとした。

「大丈夫です。」

その前にすかさずラダがルノを止め、ニッコリとルノを見て言った。
慣れているので、と。

「なんだあ?喧嘩売る気かよ?お前も細っこいな?俺に倒される前にやめとけって。で、どうよ?俺といい思い、しねえか?」
「遠慮します。そんな事より演習、しっかりやって下さい。」

周りはその男と同じくラダの事を知らない新参者か、知っているが様子を見ている者だったのでシーン、としていた。

「んだよ、つれねえな?何堅いこと言ってんだよ?演習はまかせとけって。俺はこれでも腕は確かだぜ?んな事よりよお、まだだろ?開始時間まで時間あんじゃねえか。ちょっと出てさあ、な?」

男はラダの細い腕をつかんだ。

「その手を離しなさい。」

ラダは冷静に、だがきっぱりと言った。

「聞こえねえな?おら、行こうぜえ?」

男は相変わらずニヤニヤとしてラダの腕をつかんだまま連れて行こうとした。
ルノは我慢できないとばかりにまた立ち上がろうとした。
だがその前にラダが、知っている者が聞いたら身も凍るような声色で言った。

「・・・分かりました。あなたには口で言っても無駄のようですね。いいでしょう。体に言い聞かせます。表に出ましょう?」

お、ようやくその気になったか?と男はラダを連れて外に出て行った。
ラダの事を知らない中の一人がはっとして言った。

「と、止めに行かないとっ。あんな、あんな事・・・あの子が可哀想だっ。」
「そっ、そうだなっ。」

幾人かがそれに同意して一緒に外に出ようとした。
その前にお待ちください、と青年に止められた。

「だっだがっ・・・」
「・・・大丈夫ですよ?・・・それにしても、あなた方は止めようとは思わなかったんですか?」

その青年が静かな声で、同意もせず、黙って見ていた他の新参者に聞いた。

「・・・だってよお、あいつ、すげえ強えんだぜ?俺にゃあかなわねえよ・・・。割り合わねえ事はしねえ主義でね。」
「あの小っこいのだってその気だったんじゃねえの?いいよな、俺も後で・・・」
「・・・そうですか。」
「クラウスッ。」

その時先程出て行った少年の声が入り口からした。
皆が見ると、その少年は出て行った時と何一つ変わらず、ただぐったりしたあの男の首もとの服を引きずるようにして立っていた。

「はい、何でしょうかラダ様。」

クラウスと呼ばれた静かに話す青年はその少年に向かってそう言った。

「・・・ラ、ダ・・・様・・・?」

新参者たちはざわざわとしだした。
ラダ様、といえばあのルカを打ち倒した、この同盟軍の軍主ではないか・・・。

「今回はちょっと酷い。もう少し慎重に面談をしてもらわなくては困る。この者と、今お前の質問に対してろくでもない事しか言えなかった者達への対応は任せる。とりあえず今からの演習からは外してくれ。」

その少年は冷酷ともいえる表情のまま、気絶している先程のしつこい男を軽々と投げてきた。

「はい、かしこまりました。申し訳ありません。・・・ハンフリー、モンド、お願いします。」
「・・・分かった・・・。」
「承知。」

気絶している男をハンフリーと呼ばれた男が軽々と担ぎ上げた。
他の黙って見ていた新参者達もこの2人に連れられ出て行った。

助けようとしていた幾人かの新参者は唖然とその光景を見ていた。と、そこにラダ、と呼ばれた少年が近づいてきた。

「あなた方、どうもありがとう。私を助けてくれようとしてくれて。その優しい心を忘れずにこれから頑張っていって下さい。」
「は・・・はいっ。」

皆がかしこまって神聖なものでも見るようにラダを見た。


「あれは・・・仕組まれた事なの・・・?」

後でルノがラダに聞いた。

「いいえ。たまたまです。まあ、私にちょっかいかけようとする新参者はよくいるんですよ。大抵は私が乗らないと諦めてくれるんですがね。でも今回のようにどうしようもない者が判明しやすいという利点もありますし、皆もそれは分かっているようで自然とああいった流れになるんです。」

ラダは淡々と説明した。

「そう・・・。でも・・・とても嫌な思いするだろう・・・?」

ルノは心配そうに言った。
ラダはじっとルノを見つめた後、ニッコリした。

「大丈夫です。これも軍主の務めと思ってます。でも・・・ありがとうございます。あの時も・・・。」
「え?」
「温厚なあなたが私の為にあんな風に怒ってくれた。とっても嬉しかったんですよ・・・?」
「ああ・・・。・・・でも当然じゃない。」

でも本当に嬉しかったんです、とラダは優しく囁いてギュウッとルノを抱きしめた。
作品名:ルノ・ラダ ~白黒~ 作家名:かなみ