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ねえ、ワルツを

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 リビングのテレビはポンコツで、ときどきざあざあ音を立てる。私はそれを常々不満に思っているのだけれど、朝と夕にニュースを確認して、あとは大河ドラマ以外見ないテツは取り合ってくれない。
日本放送協会の何気ない三分番組。どうせ番組と番組のつなぎだ。チャンネルを変えようとしたら、もうニュースになると止められた。テツは社会を拒絶しつつ、でもやっぱり懐かしいんだ。
女の人がくるくるまわる。すその重そうなドレスがふわりと舞った。
「何してるの、このひと?」
「あーダンス踊ってんだろ」
テツの言葉どおり、字幕が現れ『ベニーズワルツを踊る人々』と書いてあった。

「ベニーズワルツ?」
「そうらしいな、ベニーズワルツってわざわざ云うってことは、ノーマルワルツもあんのかねぇ」
そう云ってテツは鼻をかんだ。最近花粉症になったらしい。

「ベニーズワルツ、」

くるくる。くるくる。女の人がまわる。黄色、赤、オレンジピンク紫青。色とりどりのドレスがふわふわする。

「ドレスほしいな」
「こりゃダンス用のドレスだろ。てかお前こないだ洋服買ってやったじゃん」
「あれはもう血まみれ」
そう、こないだテツと遊びに出かけたときにたまたま見つけた懸賞首をとった際、血みどろにしてしまったのだ。
テツは気まずそうにあーとかうーとかうなった。私は別に気にしてはいない。
「こう、すそがふわっとするドレスが欲しい」
どこに着ていくんだよ、云われるかと思ったら、お前も女の子だねえとしみじみと云われた。失礼な。街を歩けばそれなりに人目は引くほうだ。

「いいよ、こないだのあいつ、結構懸賞金かかってたから俺ァ今金持ちなんだよ。ドレスぐらいキャッシュでバーンと買ってやら」
「よっ、大将!」
「何だその掛け声は」
テツは笑った。私も釣られて笑った。くるくる、くるくる。赤、白、黄色緑水色。さあ何色のドレスにしよう。赤はやめよう。赤は血の色。何の変哲もない色だ。



作品名:ねえ、ワルツを 作家名:おねずみ