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相撲番長

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 小便がしたくなって目が覚めた。
 Tシャツが寝汗で貼り付いている。昨日の夜二回もオナニーしたのに、カチカチに朝勃ちしたちんちんの先っぽが、またパンツから食み出している。
 窓の外の明るさから見て、多分もう昼過ぎだろう。俺はパンツを臍の上まで上げ、セブンスターに火を点けて、便所に入った。煩く蝉が鳴いている。お袋は仕事に行っているみたいだ。
 俺の家はオンボロの公団住宅で、便所は洋式のやつが一つあるだけ。勿論ウォシュレットも尻ヒーターも付いていない。勃起したまま立ってすると、圧迫された尿道から、小便が二つに枝分かれして滅茶苦茶な方向に飛んで行き、便座に付いているタオル地の変なカバーがビショビショになって何時もお袋に怒られるから、ここ最近俺は密かに、女みたいに座って小便をしている。真上を向いたちんちんを思いっきり下に押し込み股の間に挟もうとして、雁首にティッシュペーパーのカスがくっ付いているのに気付いた。またやっちゃってるよ。精子という物は、まるで糊だ。俺の小学校の卒業アルバムは、その時好きだった女の写真が載っていた頁が精子でくっ付いて開けなくなっている。あの頃はまだ俺も初心で、まさか自分の体から飛び出した液が糊になるなんて思ってもいなかったから。二度と開けない思い出の一頁。くっ付いちゃった女の子。実は、今もちょっと好きだけど。
 小便を終え、便所の手洗い場で顔を洗った。その後ちょっと背伸びして、ちんちんの先のティッシュを洗い落とした。その刺激で、何とまた勃起した。自分の顔が映り込みそうなぐらい、雁首がつやつやだ。俺のチャームポイントを十個挙げるとしたら、間違い無くここはベストテンに入るな。
 台所に行って、焼きそばを作る。焼きそばと言ってもフライパンで焼く訳では無く、袋に入ったカチカチの麺をお湯で茹で、水気が飛んで麺も軟らかくなった所で粉のソースと混ぜ、青海苔を振り掛けるタイプの奴で、俺はこれが大好物だ。ちょっと手間は掛かるけど、カップのやつより安いしね。
 冷蔵庫からハムを出して鍋にぶち込む。育ち盛りの中学生に必要な物は、高い豆腐よりも安い肉だ。片手鍋のままでハム入り焼きそばを食いながら、台所のテレビを点けると、みのもんた。もう一時過ぎ。
 汗臭いTシャツを脱ぎ捨て、散らかった居間を通ってベランダに出る。干しっ放しになった洗濯物の中から、一張羅のアロハシャツを取り込み、袖を通した。真夏の匂い。家賃が五倍くらい高そうな向かいのマンションで、小奇麗な主婦が布団を叩いている。開け放した窓から見える室内も奇麗に片付いていて、窓際には洒落た観葉植物まである。俺の家とは大違いだ。
 俺のお袋は、昼間は都内でオフィスビル掃除のおばちゃんをやっている。夜も週三日、地元の弁当屋で働いている。他人の掃除と飯の世話で手一杯なのか、俺の家は荒れ放題で、飯も手抜きだ。普通なら、何やってんだよ、お袋って怒鳴っちゃうくらい散らかった居間には、まさに足の踏み場も無いくらいにいろんな物が転がっている。飲み終わった発泡酒の空き缶。駅前でただで配っている雑誌。やたらファンシーなピンクの寝間着。同じくピンク色のカーラー。バスタオル。原油価格の高騰に合わせて値上がりする前に、山ほどまとめ買いして来たティッシュペーパー。何日か前に取り込んだままで、まだハンガーのくっ付いたシーツ。殺虫剤。痒み止めの薬。
 だらしないと言えばそうに違い無いが、家の事情を考えると仕方無い。母子家庭。お袋は、俺を食わせる為に、昼も夜も無く頑張って働いているのだ。だから俺は、こんな事ぐらいで文句は言わない。おかずがレトルトのハンバーグでも、弁当屋の余り物でも、余裕で平気、上等だ。
 因に親父は俺が生まれてすぐに交通事故で死んだらしい。台風の日に、京葉道でスリップ&壁に激突&即死。俺は子供の頃何度も聞いたその話を疑っている。理由は、アルバムの中。お袋と親父が写っている写真にある。俺の親父とされる男は、少なくともお袋より十歳以上年上で、頭はスキンヘッド。眉毛は殆ど無く、目付きは最悪。首にはぶっとい金のネックレス。どう見てもまともな職業の男には見えない。ポケットに突っ込んでいる手に、ちゃんと五本指があるかどうか、怪しいもんだ。刑務所に居るかどっかに逃げたか。もし本当に死んでいるとしても、とても交通事故死するような顔じゃない。まあいいや。何れお袋に本当の事を聞いてみたいと思うが、何となくそれはまだ早い気がする。何時か俺が結婚をして子供が生まれるような時に、実はね、とお袋が遠い目をする。お前のお父さんはね。なんて感じで真相が語られる。そんな知り方がベストに思えてならない。俺も大人になったもんだ。
 焼きそばを作った鍋を自分で洗った。他の食器も洗ってやりたいけど、洗わない。褒められるのは柄じゃない。点けっ放しのテレビから流れるCMは、保険屋、墓石屋、また保険屋。大人になったら、病気や墓の心配をしなければならないと思うと、ちょっとだけ気が滅入る。
 おっ。
 携帯電話のメール着信音がして、俺はダッシュで部屋に戻った。
「ほいほいほい」
 メールの送り主はきっと明日香だ。そんなタイミング。間違い無いね。
 明日香は俺の中学の一個下の後輩で、とんでもない馬鹿女だ。同じ中二の愛とつるんで年がら年中家出ばかりしている問題児。東京寄りの千葉県に住んでいる俺達の家出先の定番は、何と言っても渋谷だ。明日香と愛は、夏になると毎年必ずテレビでやる渋谷の家出少女ドキュメンタリーに登場するような、喋り方もファッションも行動パターンもまるであんな感じの女で、援交バリバリのヤリマン女だ。何でそんな女からメールが来るかと言うと、夏休み前、偶にしか行かない中学に顔を出した時、明日香が俺に今度遊ぼうよと言ったからで、別にいいよと答えた俺に、愛が水田さんと遊びたいって言ってるんだけど話しといてくんない? とおまけが付いて、そんなら今度水田ん家で四人でまったりしよーぜ。いつ? 来週。じゃあ土曜。土曜は予定あるから。じゃあ金曜でも木曜でも水曜でもいつでもいいよ、どうする? じゃあ木曜。なんで? なんとなく真ん中だから。となって今日がその真ん中、木曜日だからだ。となると当然想像するのがよくエロビデオでやっている乱交プレイ。そんなアブノーマルな体験を中学の内に出来るなんて不良冥利に尽きる。興奮した俺は早速、俺と喧嘩最強ツートップを張る親友の水田雄基に電話をかけ、酒とお菓子とゴムの準備を頼んだ。
作品名:相撲番長 作家名:新宿鮭