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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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成績をあげていけっ!

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「でな、そん時に俺がそう言ってやったら、日本史の教育実習生黙り込んじまってさ。こんな不良にそういわれたんじゃこえぇよなあ、さすがにー」

学校からの帰り道、今日の授業での武勇伝を話しているのは小田将司(オダ・マサシ)。
高い上背にピアスと着崩した制服をまとっている。普通の高校生ならば、ひと睨みされただけで間違いなく逃げ出してしまうような格好。
「でも将司が言ってること正しいんだから良いと思うけど」
彼の言葉に相槌を打つのは田村明良(タムラ・アキラ)。
こちらは生徒手帳の服装規定のお手本のような格好。華奢な背格好に人好きするような笑顔が似合う。
「あー、そうだ。あとこの間の話だけど・・・」
そういって将司は話を続け、明良はニコニコとそれをきいている。
そのまましばらく一緒に歩いていくと見慣れた住宅街へと入ってきた。
そうするとすぐに明良の家。
「あ、明良の家ついたな。じゃあまた明日な!」
「うん、また明日」
手を振って家の前で別れる。
将司が次の角を曲がるまで明良が見送るのもいつものこと。
見送られている本人はそんなことにちっとも気がつかないのだけど。

将司は、明良と別れた後は自然といつも早足になる。明良の家からは歩いて5分ほど。けれど明良と一緒に帰っているときに比べると一人で帰るのは味気ない。
「ただいまー」
そういいながら家のドアを開けるまでの時間はとても長く感じた。



翌日の昼休み。
隣のクラスの明良が将司のところへ顔を出す。
「将司、ごめん。今日一緒に帰れないや。委員会の仕事が入っちゃった」
「えーマジかー。今日うちに寄ってかねー?って誘うつもりだったのに」
「ごめん、なんかあったの?」
「いんや、別に来れないならいいし」
「ごめん。もし今日、委員会の仕事早めに終わったら将司のところに寄らせてもらうよ」
教室移動の途中だったのかそれだけ言うと廊下で待っている友達のところへ戻っていった。
「なーんか、そっけねえの」
明良が教室の外に出て見えなくなるとそうつぶやいた。
それを聞いた将司の友人、弓田が声をかける。
「将司ってさあ、なんで田村と仲いいん?」
弓田も将司と似たような背格好で金髪の髪を天井に向かって逆立てている。
そのせいで常に生徒指導の教員と追いかけっこ。
「なんだよいきなり」
「だってなんか田村と将司って仲良くなれそうなタイプじゃないっていうかなんていうか・・・」
そう言いながらも弓田は言葉を出し渋る様子。
「何だよはっきり言えばいいだろ」
「だって、お前は俺らとおんなじで勉強嫌いで先公に嫌われててわがままに生きてるけど、田村って優等生タイプだしお前に対しても絶対文句とかいわなそうだから大変だろうなって」
からかうように弓田が言うと予想通り将司は激怒。
「なんだとぉ!?」
腕でぎりぎりと首を絞められる。
「だから言いたくなかったんだよぉー」
泣きそうに文句を言われるとやっと腕を放した。
「俺と明良は小学校はいる前からずーっと一緒に遊んでて、小学校の頃からずっと一緒に登下校をしてるんだよ。今さらだろ」
腕組みをして乱暴に自分の椅子へと座った。
「そんな怒るなよー。これじゃ田村も大変だな」
さわらぬ神にはたたりなし、とばかりに弓田が将司のそばから離れるとすぐに昼休み終了の予鈴が鳴った。


6時間目が終わった後、将司はため息をついた。
いつものように明良が迎えに来ることはない・・・けれど、そのくらいのことはたまにある。気にかかっているのは昼休み終わりの弓田の言葉。
「俺ってわがままなんかなあ・・・」
なんとなく教室のドアのほうを見てしまう。
「おーい、そろそろお怒りは収まったかー?」
弓田が声をかけてきた。
「・・・なあ、なんで大変なんだよ」
「は?なんだよいきなり」
「さっき言っただろ『田村も大変だ』って」
「だってなあ、お前と田村が一緒にいるところ結構みたことあるけど、しゃべってるのずっとお前じゃん?迎えに来るのもいつも田村のほうだし」
「そんなこと・・・」
ない、とは言い切れない。
思い起こしてみれば帰り道もしゃべってるのはずっと自分。
迎えに来るのはいつも明良。登校のときもいつも家の前で待っていて、自分が明良を待ったことは一度もない気がする。
「・・・でも俺だって別に約束の時間に遅れてるわけじゃないし、明良ってそんなしゃべるほうじゃないっつーか・・・」
「そうなんか?そうでもない気もすっけど。お、みてみー。ちょうどうわさの本人が歩いてるぜー?」
弓田に誘われるままに窓の外を見ると明良が数人の友達と一緒に歩いている。
おそらく委員会の友達だろう。
「よく見てみぃ。誰がしゃべってるよ?」
明良が委員会の友達と楽しそうに歩いてる姿が見える。
主にしゃべっているのは明良のほう。
・・・俺といるときは自分からあんまりしゃべらないのに。
「時が立てば立つほど、物理的距離に依存した関係はなくなりやすいんだってさ」
「なんだよ、それ」
「年をとればとるほど、近所の友達って少なくなってくだろ?自分の移動できる距離が伸びるから近所の友達より気の合う友達を選ぶようになる。田村も例外じゃないと思うけどぉ?」

もしかして今日一緒に帰れないって言ったのは俺と一緒に帰るのが嫌になったとか・・?
だって、俺は明良があんなに楽しそうに自分でしゃべってるの見たことない。

「おーい、将司ぃ?・・・って聞こえてないか。ま、あんまり本気にしすぎるなよ。じゃあな」
未だに呆然としてる将司を差し置いて弓田は教室を出て行った。




暖かくなった季節の太陽が沈む直前の時間。
やっと昇降口に待ち人の姿が現れた。
「あれ、将司?」
「明良、おせーよ」
「え、ごめん。でも今日は先に帰ってって言ったよね・・・?」
「いいから、帰ろうぜ」
靴を履き替えている明良を待ちもせずに歩き始める。
明良が追いついていつもどおりに隣を歩くけれども、彼はかばんを背中に担いで歩き続けるだけ。
「あのさ・・・将司どうしたの?なにかあった?」
明良の心配の声にも何も答えない。
「将司・・・?」
心配そうに名前を呼ばれると、さすがに何も言わないことに罪悪感を覚えたのか、立ち止まった。
「・・・なんか言いたいこと、ねえの?」
それだけ言ってまた早足で歩き出す。
「え、ちょっと将司。待ってよ」
小走りで明良が追いかける。
「将司?ちょっと・・ねえ!」
必死にそう声をかけるけれども、将司は早足で歩いたまま。

そのまま見慣れた住宅街に入り、明良の家に着いた。
「あのさ、明日から別々に学校行こう」
将司がそれだけ言うと、走り出した。

必死に走って、しばらく行って、止まった。
後ろをみても誰もいない。

明良は、追いかけてこない。

・・・やっぱり俺といるのなんて明良にとっては苦痛なのかも。

そんな考えが頭の中を離れない。
いつも自分の話しかしてないし・・・明良の話を聞こうなんて思ったことも全然なかった。
明良はいつも俺のことを待っててくれるのが当たり前で、待たせたことを謝ったことなんて一度もないかもしれない。
でも、明良はいやな顔ひとつしなかったし・・・。
・・・なんて・・・俺が気づいてないだけかもだけど・・・