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律姫 -ritsuki-
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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第三部・10話〜


10

寝室は一つしかないけれども、当然のようにそこにあるのはキングサイズのベッド。
「今日はここで休んでください」
きちんと畳んであった布団を広げて空流が寝られるような環境を作る。
「誠司さんも、お風呂に入ったらここで休みますよね?」
できるだけ触れられないようにしたにも関わらず、きっちりと聞いてきた。
「私はここではなくソファで休みますから」
嘘を答えるわけにもいかずに、なんでもないことのようにさらりとそう言う。
ここで休むといえばこの子は眠らずに待っているに違いない。
そこで眠るつもりはないのだからそんなことをされたらいつまでも睡魔と闘わせてしまうことになる。
「あの別荘で声が出ない上に歩けなかったとき、一緒に眠ってくれましたよね。そのときみたいに一緒に休むのはだめなんですか?」
もしダメならば自分がソファで寝ます、と言い切った。

そう言うとは思った。
けれども、あの時とは決定的に違うことがある。
「私はあなたをあの時と同じ目では見ていません」
それはいいことなのか、悪いことなのか、よくわからない。
ベッドに空流を腰掛けさせて、自分もその隣に座った。
頭に手を置いて、くしゃりと髪を弄る。
まだ乾ききっていない髪は冷たくて、シャンプーの香りがする。

「あなたは、私のことをどう思っていますか」
目を見て、そう問うた。
問われた瞳が困惑に揺れる。
「自分が先にいわないのに、あなたに聞くのはとても卑怯ですね」

言葉にするのは勇気が要る。
今いうべきなのか、そうでないのかはわからない。
けれども、言うのはきっと今しかない気がした。

「私はあなたのことが好きです。とても、特別な意味で」

見つめていた目が驚きに見開かれるのがわかった。
「いつからだったかはわかりません。伊豆へ向かう車に乗っていたあの雨の日、車をとめせたときから何かを感じていたような気もします」
人かもしれないものが一瞬だけ見えたところで車をとめさせるなんて滅多にある事じゃない。
気のせいだろうとすぐに忘れてしまうのが普通。
けれど、あのときに出会ってしまった。
「でも、それだけじゃない。数週間あなたと過ごしてどんどん惹かれていくのがわかりました」
微笑が夏の空のようだと思ったのを覚えている。
歩けなくても、声が出なくても必死にがんばろうとする姿。
母の死を受け入れて流した涙まで、一つ一つを鮮明に覚えている。
それが特別な感情だと気がつくまでに自分でも時間がかかったけれど。
「だから、もうあなたと一緒に眠ることはできないんです」
抱きしめてキスをして、自分のものにしてしまい気持ちを抑えきれる自信がないから。
「でも、今すぐにどうこうしようというわけではありません」
そう言って微笑んでから、もういちど髪をくしゃりと撫でた。
「ちゃんと乾かしてから、寝てくださいね」
ついた嘘がばれないうちに、立ち上がって部屋を出た。


バスルームでシャワーを浴びながら頭によぎるのはさっきの光景。
驚きに見開かれた瞳。
あの瞳の奥で一体何を思っていたのだろう。
人の心を読むのなんで簡単だと思っていたのに、今はそれができずにいる。
本当に恋愛には疎いのだと思う。
自分から誰かを好きになったこと自体が初めてなのだから。
しかも何をいう間も与えずに部屋から逃げてきてしまった。
返事を聞くのが怖かったのかもしれない。
自分らしくない自分に苦笑が漏れる。

バスルームを出ても、空流のいるはずの寝室のドアを開かずにリビングへと行った。

そこでまた驚かされる。
今日はどうしてこんなに予想外のことが多いのか。

「空流、どうしたんですか?」
リビングのソファには、空流の姿。