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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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11

「良い顔して帰ってくるといいわね」
「ああ、そうだな。はじめてここへきたときのような、あんな顔をしてたら家の中に上げないさ」
「そうならないことを祈ってるわ」

そう笑いあいながら二人が車を見送る。
見送りを終えて、離れへと戻ったころ。
電話が鳴った。

朱音がその電話の対応に出る。
「あら、俊弥さん?」
その一言に、千晴が電話のほうへ来て受話器に耳をつけた。
『連絡するのが遅くなってすみません、あと20分くらいで着く、と空流くんに伝えてもらっても良いですか?』
その一言に、朱音も千晴も目をあわせて怪訝そうな顔をする。
受話器を朱音から千晴が受け取って、話し出す。
「俊弥、空流君ならさっきお前の代理の医者が来て、お前のところに連れて行ったぞ」
『は?』
「仲原先生は今日の午前中に病院で急な用事が入ったため代わりに参りました、ってな」
『なんだ、それ。俺は確かに今朝ちょっと病院に寄って遅れたけど、誰にも代理なんて頼んでないぞ?誰だ?』
「たしか、内田とかいう心療内科医だったな」
『いや、心療内科の医者は全員知ってるはずだけど、そんな名前の医者はうちの病院にはいない』
「じゃあ、どういうことだ?」
『こっちが聞きたい』
そうして、しばしの沈黙。

沈黙を破ったのは千晴の方。
「だめだ、俺には確信のあることは何もわからない」
『俺も。まさかとは思うけど誠司とすれ違ったか・・?』
「そうだといいけど・・・」
『とりあえずそっちに行く、誠司と連絡もとってみる』
「ああ、待ってる」

電話が切れて、無機質な機会音が受話器から流れた。

「何が起こったの・・・?」
朱音が千晴の腕を掴む。
「・・・俺にもわからない。とりあえず、俊弥が来るのを待とう」
「ええ・・」

それから、約15分の間、二人は無言で待った。
どうか俊弥と誠司のただのすれ違いでありますようにと、祈って。
可能性が薄い事は、重々承知の上だけれど。

そうしてやっと、見慣れた車が敷地へと入ってきた。
俊弥が降りてくるのが待ちきれず、離れを出て俊弥の車を迎える。

「俊弥、誠司さんと連絡とれたか?」
「・・・とれない。あいつも忙しい人間だからな。でも、この件に関して誠司は関係ない。実を言うと、今朝病院から呼び出しの電話がかかってきたから行ったんだよ。でも行ったら誰も呼び出しの電話なんかかけてないって」
「それは、つまりどういうこと・・・?」
朱音の問には、千晴も俊弥も全く答えられなかった。
なぜなら答えを出したくはなかったから。

千晴が舌打ちをした。
「なんで俺たちは、あの怪しい医者が着たときにちゃんと俊弥に確認を取らなかったんだ・・・!?もし忙しくて代わりをよこす場合には俊弥なら自分で連絡するだろう?」
千晴が頭を抱えた。
「ああ。それもそうだけど、千晴も朱音さんもまず落ち着いて。離れにお邪魔していいか?」
「ああ。朱音も、行こう」
「ええ」

3人が離れのテーブルへつく。
「誠司はまだ何が起こってるのかを知らない。でもたぶん誠司は関係ない。誠司なら俺の名を使う必要がない。空流君の居場所がわかっていたとしたら、誠司なら絶対にどんなに忙しくても自分で迎えに来るはずだ」
「そうか・・・」
これで、願っていた一つの可能性が消えた。
「千晴、空流君は自分の生い立ちを二人に話したか?」
俊弥がふいに問いかける。
「ああ、聞いた。全部じゃないかもしれないけど」
「誠司と関わりを持つ前の空流君については?」
「聞いた。思い出すだけでも寒気がする」
さっき俊弥の頭に思い浮かんだのは、最悪の想像。
「もしかしたら・・・な」
「あの家の人間か・・・?」
千晴も感づく。
「でも、空流君がここにいるなんて知ってるはずがないわ」
朱音の言葉に、千晴が首を振った。
「一ノ宮だったよな?確か、あの家の名前は」
俊弥も頷く。
「・・・・なんで気付かなかったんだ!?・・・日高食品は一ノ宮と深いつながりがある」
日高は、つい最近までここの常連客だった男。
目に余る数々の行動から結局喧嘩別れのような形で送り出してしまった。
一ノ宮は食品を多く取り扱うグループ。
つながりがあってもなんら不思議ではない。

「千晴、朱音さん、偽医者の顔をよく覚えておいてください。これから日高食品と一ノ宮の社員を調べさせます。ですが、あまりにも膨大なのでまず特徴だけ、教えてください」
「ええ、30代前半くらいの男性で、背は高かったわ」
「ああ、俺よりも少し大きいと思った。体形は中肉中背。それから、髪は短め。一見さわやかなセールスマンって感じがした」

「わかった、それだけあれば多分大分絞り込める。とりあえず俺は誠司にもちゃんと状況を説明して、リストアップを手伝って貰う。鷹島グループの情報力は半端じゃないからな、多分すぐだ。それでも時間はかかると思うし、それまで俺たちが出来ることは何もない。だから二人にはいつも通りの仕事を進めてて欲しい」

自責感と無力感から二人が傷つくことはわかっていたけれど、あえてそう言う。
もし、この事件のせいでここの営業に支障が出たことを空流が知ったなら、また迷惑を掛けた、と思ってしまうことは必至だから。

空流のためにも、そして少しでも状況をよくするためにも、必要だった。

二人が頷いて部屋を出た後、携帯電話を取り出す。
短いコール音の後に相手はすぐ出た。

『俊弥か?今かけ直そうとしてたところだ。何かあったのか!?』

電話に出た相手の声は、珍しく取り乱していた。