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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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35

「お帰りなさいませ、誠司さま」
いつもどおり加川に迎えられて帰宅。
けれど今日はいつもと違って加川の後ろにいるはずの空流がいない。
「ただいま、空流は?」
「お疲れのようで誠司さまが帰ってきたら起こすようにと」
「夕飯は済んだのか?」
「いえ」
時計はもう午後9時近くを指している。
「私が起こしてくる」
「はい」

一度自分の部屋へ寄って着替えてから空流の部屋をノックする。
返事がなく、入りますよ、と声をかけてから中へ。

ベッドの布団をそっとめくる。
「空流、起きてくださ・・・」
最後まで言えなかった。
めくった布団の中には、当然いるべき人はいなかったから。
人の形に見えるように敷き詰められたクッション。
あわてて電気をつける。

カーテンが閉められていない。
窓の鍵は閉まってる。

加川がいながら誘拐なんていうことはないだろう。
だったら・・・・?

部屋を見回して、目に留まった机の上の紙。
手にとってみると、一行目には『誠司さんへ』と空流の文字でかかれていた。

『誠司さんへ
本当になんていっていいのかわからないけれど、誠司さんにはすごく感謝しています。あの時誠司さんが僕をみつけてくれなかったら間違いなく死んでいたと思うし、その後もすごく心遣いをくれて、本当に嬉しかったです。
 こんなに僕を理解してくれて、優しくしてくれた人は誠司さんが初めてです。誠司さんに会えてよかった。あなたのことが大好きです。
 だから、迷惑にならないうちにここを出ます。きっと僕がいると誠司さんの未来のためによくないと思うから。黙って行くことを許してください。誠司さんの顔をみたら絶対に決心が鈍ると思ったから。きっと誠司さんは止めてくれたと思うから。
 頑張って働いて、誠司さんに迷惑をかけないような人間になれたらきっとまたご挨拶に来ます。どうか、それまで待っていてください。
寺山空流』

頭が回りだすまでに何分かかったのかわからない。
ただとりあえず現状を受け止めるのに時間がかかった。

「空流・・・」
もしかして、喜田川との話を・・・?
あのときに走り去った足音は空耳なんかじゃなかった・・・?

「私は、どうすればいい・・・」

こんなことをしてるだけでは何もならない、なんとかして頭を回さなければいけない。
わかってるのに・・・上手く動かない。

落ち着け、落ち着かないと何もならない・・・。
まず、することは・・・空流を探す。
誤解をとかなければならない。私こそがあなたに傍にいてほしい、と伝えなくてはいけない。
そのためには?
空流を探さないといけない。
どこを?
どうやって出て行ったか解らない以上、駅までの道。
道を間違えているといけないから、付近の捜索。

でも、待てよ。
働くということがもう決定してること事態がおかしくはないか。
それに、加川へのカモフラージュも空流らしくない。
もっとずるがしこい人間・・・そう、たとえば俊弥のような・・・

俊弥!

まさか・・・俊弥が手引きを?
考えてみれば不自然な点がありすぎる。
今日、ホテルで開催されたパーティに呼んだけれども結局姿が見えなかった。
それに、俊弥はそのパーティに仲原家代表で出席するために今日は休暇。
俊弥ならこの別荘の場所を良く知ってるし、空流のことも知っている。
加川、喜田川、俊弥。私を除けば空流がここにいることをしっているのはこの3人しかいない。

もう俊弥に間違いない。
携帯を取り出して、仲原俊弥にコールをする。

しつこくコールを鳴らし続けた後、やっと電話はつながった。
「俊弥!空流をどこに連れてった!?」
声を荒げてしまうのを止められない。
『落ち着けよ、誠司』
帰ってきたのは冷静な声。
「落ち着いていられるか、空流がいなくなったんだぞ!」
『・・・それで、何で俺なわけ?』
「お前しかいないだろう、空流が一人でここまでのことをできるわけがない」
『冷静になれよ。それだって何で俺になるんだ』
「お前、今日パーティにきたか?」
『行ったよ、誠司は忙しそうだったから声をかけなかっただけだ』
「・・・嘘をつくなよ。いろんな人に仲原の跡取りは来てないのかときかれたぞ」
『たまたま見つからなかっただけだろ』
「今、どこにいる?」
『東京。もう家に帰ってる』
「今からそこに行く」
俊弥のいる場所に空流もいると信じて疑わなかった。
電話を切ろうとした瞬間に、向こうからちょっと待てよ、ととめる声が聞こえる。
『こんなところに来ても、空流くんはいないぞ』
「じゃあどこに行ったんだ!?お前がどこかへ連れて行ったんだろ?」
『まあ、そうだけどね。空流くんが望んだんだよ。彼にはしたいと思うことをする権利があるんだ』
「それが誤解から生まれた要求だとしてもか?」
『ああ、でもお前の場合は誤解じゃないだろ?俺が空流くんのためにやれと言ったことをお前はやらなかった。誠司、お前は空流くんにちゃんと話をしたか?』
「・・・・」
『しなかっただろう?』
話をしようと思った日、空流の声がなおった。
そしてすぐに仕事が始まって忙しくなった。
それから、またすぐに足が治った。
目まぐるしく変わる状況に話をする余裕なんてなかった・・・。
『誤解でもなんでもない。お前が今、彼が誤解していると思っているのなら、彼にそういう解釈をさせたお前が悪い』
「それでも・・・」
会って、話をしたい。

『全部お前のせいだよ、誠司』

俊弥のその言葉が胸に突き刺さって、何も考えられなくなった。

私のせい・・・か。

それでも・・・このまま会えなくなるなんて・・・。
もう一度会いたい・・・いや、もうずっと腕の中に閉じ込めてしまいたいくらいなのに。

向こうから切られた携帯電話から流れる無機質な音が妙に大きく聞こえて、心に穴が開いたようだった。

この穴を埋めることができるのはもう、ただ一人。

求めるものはそれしかないから・・・

どうか、神がいるならば、今一度の巡り会わせを・・・・。


第一部 FIN