小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

FLASH

INDEX|10ページ/95ページ|

次のページ前のページ
 

5、親戚のお兄ちゃん




 沙織は驚きのあまりに飛び上がり、声を上げて振り向いた。すると、そこには鷹緒が立っている。
「た、鷹緒さん!」
「なんだよ、こんなところで。それにおまえ、鍵……」
 思わぬ訪問者に、鷹緒も驚いた様子である。
「あの、か、鍵のありか、スタッフさんが話してるの聞いてて……勝手に入って、ごめんなさい!」
 鍵を差し出しながら、沙織は深々と頭を下げて謝った。
「ああ……いいよ。ここにあるのは、ガラクタばっかだから。ほとんど放置状態……」
 鷹緒はそう言って、中へと入っていく。
「……今来たの?」
 中へ入りながら、沙織が尋ねた。
「ううん。一度来て、あまりに腹減ったから、そこのコンビニでカップラーメンをね」
「あ、私も、ヒロさんに言われて、おにぎりとお茶……」
「ああ、サンキュー」
 鷹緒はそう言うと、沙織からそれを受け取り、お湯を沸かし始める。そして、おにぎりを頬張りながら、口を開いた。
「それで?」
「えっ?」
 鷹緒の言っている意味がわからず、沙織が驚いた顔をする。
「え、って……何か用があるんじゃないのか? 事務所に行ったんだろう?」
「ああ、うん……特に用事があったわけじゃないんだけど、さっきヒロさんに会ってね。いつでも寄ってね、なんて言ってくれたから、本当に寄っちゃった……」
 沙織は妙にドキドキしていた。お互いのことはあまり知らないが、親戚であるという微妙な関係の鷹緒は、有名人を手がける写真家であり、沙織の周りにはいないタイプである。
「へえ。今日、彼氏は?」
「バイト」
「ふうん?」
 そう言いながら、鷹緒はパソコンに向かう。
「あの……今日のBBのライブ、見たよ。渋谷に来いって、このことだったんだね。ちゃんと教えてくれればよかったのに。危うく見逃すところだったよ」
 近くのソファに座りながら、鷹緒の背中に向かって、沙織が言った。
「ああ……秘密はどこから漏れるかわからないからな。ちゃんとは言えないよ」
「そんなこと、しないのに……」
「うん……まあね」
 その時、やかんの笛が鳴った。
「あ、私がやるよ」
 立ちかけた鷹緒に、沙織が言う。沙織はやかんの火を止めると、鷹緒が買って来たカップラーメンにお湯を入れ、鷹緒のそばに置いた。
「はい」
「サンキュー」
 沙織は首を振ると、鷹緒の前にあるパソコンを覗く。画面上には、BBの写真が並んでいる。
「わあ、BBだ。これ、さっきのライブ?」
「ああ」
「すごいなあ……そういえば、鷹緒さんって有名なんだね」
「は?」
 唐突なまでの沙織の言葉に、鷹緒は驚いた。
「あ、あのね。さっき彼氏が教えてくれたの。ファッション雑誌とかに、鷹緒さんの名前が結構出てるって……」
「ああ……でも、有名かどうかは疑問だな」
「またまた」
 苦笑している鷹緒は、カップラーメンの蓋を開け、食べ始めている。
 そんな様子を見つめている沙織に気付き、鷹緒は口を開いた。
「おまえ、夕飯は?」
「あ、どうしようかな……」
「早く帰れよ。暗くなるぞ」
「うん……」
 沙織はなぜか、まだ帰りたくないと思っていた。もっと鷹緒と話していたいと思う。
「……家に何かあるの?」
「え、どうして?」
 鷹緒の言葉に、今度は沙織が、驚いて聞き返す。
「いや。帰りたくなさそうだったから」
「べつに、そんなことないけどさ。でも、なんか……そういう時ってあるでしょ?」
「さあな……」
 鷹緒はカップラーメンを置くと、立ち上がった。
「もう食べたの?」
「飯、食いに行こうぜ」
「まだ食べるの?」
「こんなもんじゃ、体力続かねえからな」
 鷹緒はそう言うと、パソコンの電源を切り、上着を持って振り向いた。
「送るよ」
 その言葉に含まれた優しさが、沙織にはわかった。しかしそれは、恥ずかしいような心地よい感覚である。
「うん……」
 沙織はそう返事をすると、鷹緒についてスタジオを後にした。

 外に出た二人は、鷹緒の車でファミリーレストランへと向かった。そのまま店に入った鷹緒は、すぐに携帯電話を見つめたので、沙織が首を傾げる。
「電話?」
「いや……」
 そう言うと、鷹緒は携帯電話の電源を切った。
「切っちゃうの?」
「食事中くらい、逃れたいんでね」
「……鷹緒さんって、すごい人なんだね。私、知らなかった」
「なんだよ、さっきから」
 鷹緒が、苦笑して言う。
「だって、いろいろ活躍してるみたいだし、忙しそうだし……」
「まあ、忙しいのは当たってるけど。それより、沙織は?」
「え?」
「だから学校とか、勉強とか、どうなんだよ」
「どうって……特にないよ。順調、順調」
「へえ……」
 その時、沙織の携帯電話が鳴った。見ると、知らない番号である。
「出ないの?」
 首を傾げている沙織に、鷹緒が言う。
「あ、うん……」
 沙織は周囲を気にしながらも、電話に出た。
「はい」
『あ、沙織ちゃん? 僕、木村広樹です。もしかして今、鷹緒と一緒?』
 電話の相手は、鷹緒のいる事務所の社長、広樹であった。
「ヒロさん。はい、一緒です」
『よかった。悪いけど、代わってくれるかな?』
「はい」
 沙織が鷹緒を見ると、鷹緒は嫌そうな顔をしている。しかし出ないわけにもいかず、鷹緒は沙織の電話を受け取った。
「はい……」
『鷹緒。おまえ、食事中に電源切るのやめろよ』
 すかさず、そんな広樹の声が聞こえる。鷹緒はうんざりした様子で口を開く。
「悪いな。飯食う時間くらいは大切にしたいんだよ」
『言うと思ったよ。今、どこだよ。スタジオ行ったら、いないからさ』
「んー、ちょっと気分転換。飯食って、沙織送って、戻るよ」
『わかった。それはいいけど、BBの事務所から連絡あってさ……』
 その話題に、鷹緒は聞き入った。
「何かトラブルか?」
『いや、別件だ。実はおまえに、BB専属のカメラマンになって欲しいっていう、要請が来たんだけど』
「専属……?」
 鷹緒は目の前の食事に手をつけながら、会話を続ける。
『そう嫌そうな声出すなよ』
「……わかってるだろ? 嫌なんだよ、そういうの。専属なんていったら被写体限られるし、いろいろと面倒臭い」
『わかってるよ。でもBBは人気グループだし、損はないよ。BBのメンバーもあっちの事務所も、みんなおまえの腕に惚れてんだよ。今回の写真集の件だって、BBのメンバーから直々の要望なんだぞ?』
 広樹の言葉に、鷹緒は考えていた。苛々するように、テーブルの上に置かれたフォークをいじっている。
「……でも、俺はこれからもいろんな仕事を受けたいし、今は写真だけじゃなくて、企画業までやってるんだ。BBばかりに構っていられないよ。スタッフだって大勢いるわけじゃないし、今でさえいっぱいいっぱいのスケジュールなのに、これ以上、仕事を増やすなよ」
 真剣な態度の鷹緒を、沙織は静かに食事をしながら見つめていた。鷹緒は尚も話を続けている。
『わかってる。スタッフの件は、今後増やすことを約束するし、事務所としてもBBとの契約はプラスなんだ。うちはまだまだ小さい事務所なんだし、わかってくれよ』
 広樹の言葉に、鷹緒は小さく溜息をついて、目を閉じた。
「……わかった。帰ってから考えるよ。リミットは?」
作品名:FLASH 作家名:あいる.華音