白狼のクォンタム
第八章
翌日から、日常は、周りから見る限りには何事も無く過ぎていた。レイリスは今まで通りに理事長としての職務をこなし、すれ違う生徒には優しい笑顔を見せていた。
クォも、退院してからは学園の授業を休むことなく、毎日登校し続けた。何度か理事長戦も行われた。
クォがジュオーンに負けたことで、自分も、という意識が働いたのか、理事長戦の回数は、やや多かった。クォはしかし、その全ての相手を撃退した。
家に帰ってからも、日常は変わりなく過ぎていた。クォはレイリスと自分の分の二人の食事を作ったし、二人で食べてもいた。普通に会話もしたし、笑顔もあった。
しかし、クォはどこか、居心地の悪さを感じていた。レイリスが、どこかこれまでのレイリスとは違うような気がしてならなかったのだ。
仮面というほど、分厚いものではないけれど、薄く、透明で、しかし、確かに二人の間に存在するもの。
だがそれを、クォはレイリスに告げることはできなかった。レイリスに何かを言えば、またレイリスは、あの時のように自分を怯えた眼で見るかもしれない。
そう思うと、クォは何も言えなかった。クォもまた、恐れていたのだ。
そのまま、時間は過ぎていく。ぎこちない空気を残したまま、なんとなく一ヶ月が過ぎた。
何となく過ごす一ヶ月なんて、初めてだった。
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その日、クォは、ジュオーンに呼び出されていた。場所はジュオーンの研究室の、応接室。理事長戦に勝ったことによって借り受けた場所だ。
「そんなに長話をするつもりではないんだが、話の内容が内容なのでね」
とジュオーンは告げた。ジュオーンが何を話すつもりかはわからないが、確かにこの研究所なら、内密の話にはぴったりだろう。
その性質上、各自に割り当てられた研究室の壁には、対盗聴、対透視の呪印が刻み込まれているから。
「僕とあなたとで話すことと言うと、フェンリルのことかな」
「ああ。と言っても、俺自身はもう、フェンリルには興味がない。あれほどの力を受け入れられる自信もないし、そもそも、外科的に取り除いて、どうこうなるものでもないらしいな。
シルク先生が教えてくれたよ」



