白狼のクォンタム
第六章
目覚めたクォの視界に最初に写ったのは、少女だった。
「ん……ん?」
「ふむ、そろそろ目覚める頃かと思っておったぞ」
身長百六十センチのクォよりも更に低い身長、幼い顔。明らかに裾を引きずっている白衣に、銀縁の眼鏡。
首からは聴診器がぶら下がっている。どこからどう見ても、お医者さんごっこの格好をしている少女にしか見えない。
「あなたは……シルクさん……」
「先生と呼ばんか、先生と。何度言われても覚えん奴じゃな」
「え……」
「なんじゃその顔は。不満でもあるのか。最近理事長戦での勝ちが続いてるようじゃからな。過去の女のことなど忘れてしもうたか……寂しいのぅ」
言葉こそ寂しそうだが、眼鏡の奥から透けて見えるその表情は、明らかにこちらを楽しんでいる意思が伺えた。
「いえ、そういうわけでは……あなたの腕は、患者の僕がよーく知ってますよ。あなたの人の悪さもね。
というか、昔の女って何がですか。単なる昔の対戦相手で、今は医師と患者というだけじゃないですか」
「ちっ、淡白な反応じゃのう。つまらん。そんなだから背が伸びんのじゃ」
瞬時に言葉と表情を戻す少女―――シルク。
「身長は関係ないでしょう。それで、どうして僕はここに?」
「ふん、やっぱり覚えておらんのか。どこまでなら覚えておる?」
「ええと……」
クォの言葉を疑う様子もなく、じっと見つめるシルク。その視線が、人を食ったようなものであるのは変わらないが、からかうというよりは、興味深そうな表情に変わっていた。
「……ジュオーンさんと戦っていて、彼が僕の首輪を切り裂いて……あ!」
旋律と共に、慌てて首輪に手をやるクォ。もちろんその首には、レイリスによって嵌められた首輪が存在している。
「首輪は、確かに切り裂かれたはず……え?じゃあ、これは……僕は、どうなって……そうだ、姉さんは?学園はどうなったんです!みんなは!」
「落ち着け馬鹿者」
首から提げた聴診器で、思い切り殴られた。
「あだっ!」
「落ち着かぬとひどいぞ、それそれ」
今度は、両手で思い切り頬を抓られる。
「いだだだだ……!お、おふぃ、おふぃつきまふぃた……!」
「何、まだ落ち着かない?それならしょうがない、注射じゃな、注射。巨大な注射を尻に撃つしかないのう」
「いやいやいや、落ち着いてます、落ち着いてますから!」
「ほんとにー?」



