白狼のクォンタム
第二章
クォの朝は早い。クォが覚えている限り、レイリスと一緒にこの屋敷に暮らすようになってから、レイリスより遅く目が覚めたことはない。
顔を洗い、朝食の用意。
若いとは言え、一つの学校の理事長であり、『英雄』の遺産を受け継いでいる。世間的には十二分に裕福なのだから、コックなりメイドなりを雇って、作らせることも可能なのだが、レイリスはそれをしない。
「朝から仕事用の顔したくないもん」
というのがその理由。
クォとしても、別に人付き合いが苦手なわけではないが、レイリスと二人でいた方が気楽なのは確かだ。
今朝のメニューは、ただ、緑の野菜を盛っただけでなく、ひと味ふた味工夫を加えたサラダ(今日は苦味の強いウリとアボカドに、エビを加えて、特製のドレッシングであえてある)。
果物は季節のもの。それからトースト、具沢山のスープ…二人で食べる朝食にしては多めの量を手早く仕上げる。作るのはクォだが、レシピを考えるのは、全てレイリスだ。
これは決してレイリスがさぼっているわけではない。
「ふわぁふぁ…おはよ、くーちゃん…今日もいいにおいだねー…」
パジャマ姿でキッチンに入ってきたのはレイリス。目はぼんやりしているし、髪の毛はあちこち跳ねてすごいことになっている。よく見たら、ボタンが一個ずれていた。
「おはよう、姉さん。ほら、ご飯もうすぐできるから、顔洗っておいで」
「うん〜……」
五分後。顔を洗ってさっぱりしたらしいレイリスは、格好こそパジャマのままだが、もう寝ぼけてはいない。髪の毛もいくらか落ち着いていた。
すっかり出来上がった朝食が並べられたテーブルにつくと、レイリスは手を合わせる。
「いただきまーすっ。…んー、おいし」
満面の笑みを浮かべて朝食を口に運ぶレイリス。多めに思えた食事が次々消えていく。クォも食が細いわけではないつもりだが、レイリスは女性にしては良く食べる。
理事長としての激務(レイリスはそんなことないよと言うが、一般的に見れば決して楽な仕事ではな)に耐えるには、やはり朝はしっかり食べないといけないらしい。
体重を気にしている素振りはないから、脳がカロリーを使っているんだろう。
「くーちゃんの料理がおいしいのが、よく食べる一番の理由だけどね」
「俺は、姉さんのレシピ通りに作ってるだけだよ。レシピがいいからさ」



